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第百十一話

 通行証。と呼ばれるものは言ってしまえば『特例エリアへの通行許可』といえるものである。

 一般公開としては出せないものがあったりする場合がほとんどで、簡単な許可では出せないものがほとんどだ。

 あの男のテストをクリアすることで通行証をもらえるとのことだが、千春とエイミーの時とはテストの内容が違うらしい。

 ただ共通しているのは、『男が勝つ確率が99%のもの』ということだけだ。

 普通に考えて頭のおかしいものだが、要するに1%を拾えばいいだけのことだ。簡単な話である。


「秀星って……酒にも強いんだ」

「男の人が倒れるまで続けても大丈夫なのですね」

「まあ。これくらいならな」


 エリクサーブラッドはアルコールにも強いのだ。

 中毒作用も分解するので別にこれから飲みたいと感じることもないだろう。


「それにしても、通行証か……」


 秀星はもらった通行証を見る。

 秀星の名前が刻まれており、本人を含めた五人までを同時に入出許可させると記載されている。


「これを使っていける場所があるってことか」

「あの男は実はスカウトマンも兼ねているみたいね」

「でも、今日はもう無理だと思います」

「まああそこまで飲めばそうなるだろうな」


 次の瞬間、千春とエイミーは『君はそれ以上に飲んでいたよね。三倍くらいのペースで』という視線を向けてくる。

 だが、秀星はきにしない。


「で、どんな場所なんだ?」

「ここはマーケットだけど、今から行くのは『製造工場』よ」


 なるほど。


「売られているところじゃなくて製造しているところに行くってことか」

「実際に見たほうがわかりやすい部分はあるからね。私も刀の製造工程を覚えるのは面倒だったけど……」

「私も、今以上に強くなりたいです。SF的な装備も多数あるみたいなので」

「……」


 いずれにせよ。秀星のすることがあるのかどうかといわれるとほとんどないということだろう。

 値段を聞いて回るくらいしかすることがない。


 基本的に予習が必要ないのだ。

 レシピブックは、この世に出現したすべての人工物を記録し、製造工程を閲覧可能にする。

 例外があるとすれば神器くらいで、魔剣だとかそういったレベルのものなら量産できる。

 レシピブックに付属している加工用アイテムも幅広いもので、化学実験を行うようなフラスコから、巨大戦艦を作れる巨大クレーンまで自由自在だ。

 当然、材料だってすぐにわかる。

 むろん、その材料に関しては別枠だが、それだって集めることはたやすい。

 存在しないものを『見つける』のは骨が折れるが、この世に存在するものであれば『ワールドレコード・スタッフ』で発見可能だ。

 さらに言えば、この世界地図、売られているものの価格もわかる。

 『実際に行ったとして手に入る情報』なら、原則として最初から記載されるからである。


「で、その工場の場所っていったいどこなんだ?」

「距離的に特急電車で二時間くらいかな」

「そうでもないな」


 秀星の場合、次元レベルで異ならない限り近いことに変わりはない。


「その場所はね――」


 千春から教えてもらって、そして三人で転移した。


 ★


 地下空間の開発。というのはかなり進んでいる。

 地下鉄だってそれなりに多いだろうし、ビルに行けば地下が存在するものは多数存在する。

 重機を付与魔法で強化することで、その地下空間を広げることも可能になった。


「……これは、予想外だな。いや、可能性としては考えていたんだが……」


 秀星は地下への階段の先にある扉を見てそう思った。


「どういうことなの?秀星」


 千春が聞いてくるが、秀星は反応に困った。

 あえて何も言わずに、許可証をスキャナーに当てる。

 すると、すぐにドアが開いた。

 いや、開いたというより、消えた。

 一瞬で粒子化して、通路に変わったのである。


「す、すごい設計ね」

「ここまでSFなことになっているとは思っていなかったです」


 通路の先に行くと、巨大な空間になっていた。

 吹き抜けの空間がほとんどで、廊下やエスカレーター、エレベーターや小型鉄道まで存在する。

 さまざまなものが移動していた。


「ひろいです……」

「地下にこんな空間を作れるなんて……」


 二人が絶句している中、秀星は確信する。

 この場所は――


「おや、これは有名人が来場されましたね」


 こちらに足音が来ているのは分かっていたが、秀星はあえて振り向いた。

 そこには、最高級のフォーマルスーツを身にまとった女性がいた。

 年齢は二十歳くらい。

 黒髪を大きな胸にかかる程度まで伸ばしており、微笑を浮かべている。

 秀星は見覚えがあった。

 厳密には本人に見覚えがあるのではなく、『あれ。こいつって誰かの親族かな』みたいな感じである。


「……古道英里の姉か?」

「はい、私は古道理世(こどうりせ)。この工場の社長補佐をしています。妹がいつもお世話になっています」

「いや、お世話になっているというか……強烈なツッコミ兼ギャグ要員なのでこちらがつかれているというか……」

「秀星。あんた何言ってんの?」

「日本語が変ですよ?」


 自覚している。

 だが、それ以上にあの副会長が強烈なのだ。


「……一つだけ最初に確認。所長って鈴木か?」

「いえ、舵牙(かじきば)です」

「……」


 秀星は溜息を吐きたくなった。


「えっと……誰だっけ?」

「エイミーは知らなくても無理はないが……ダンジョンに行って船で帰ってきたときがあったろ。あのときの豪華客船の船長だ」


 兄弟いたのか。


「有名人の朝森秀星様ということで、所長がお会いしたいとおっしゃっていますが、どうしますか?」

「……それって俺だけか?」

「はい」


 先ほどから微笑が崩れない理世。

 妹のほうは常に無愛想なのでわかりにくいのだが、こちらもこちらでいろいろとめんどくさそうだ。

 なんとも秀星好みである。


「まあ、会いたいっていうのならそれでいいが、その間。二人はどうする?」

「興味があるけど、初見でもめるわけにもいかないからね。私たちは見て回ることにするよ」

「またあとで会いましょう」


 そういうと同時に、二人は歩いて行った。


「聞き分けのいい子たちですね」

「所長に興味がないだけだろ」


 秀星は一刀両断する。


「それもそうですね」

「認めるのか……」

「取り繕っても仕方がないですからね。さて、それでは案内しますよ」


 理世についていくことにした。

 エレベーターで最下層まで下りて、黒い素材でできた廊下を歩いて、一番奥の部屋にいく。

 左右に開く自動ドアを抜けると、そこには、見たことがあるような面影のある五十路の男性がいた。


「やあ、君が朝森秀星だね。私は舵牙源一(かじきばげんいち)。弟の零士から話は聞いているよ」

「……あの船を作ったのはこの工場ってことか?」

「フフフ。造船すらも可能だと初見で見破ったのは君が初めてだよ」

「あの出入り口を入った後、大きな吹き抜けになっていたが、一番下で堂々と作っていたぞ」

「……フム。なるほど、その時点でいろいろと変わっているようだ」


 源一はうなずいた。

 そして、少しだけ微笑を浮かべていたが、まじめな表情に変わる。


「ところで、君は分かっているかな?」

「ああ。もちろん」


 源一の疑問を正確に把握したうえで、秀星はそういった。

 そして、源一の目をまっすぐ見て、秀星はつぶやく。


「この工場。『神器』だろ」


 源一はとてもうれしそうにうなずいた。


「そうだ。この工場は『未来文明工場ヴィズダム・プラント』だ。珍しい分類に属する、『建造物型神器』だよ」


 発見することができず、可能性としてしか考えていなかった『建造物』の神器。

 秀星は、その最奥に案内されていた。

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