第百十話
千春とエイミーが指差す先にある階段を降りると、厳重な作りの扉があった。
自動ドア、と言えるが、物理的・電子的な構造ではなく、魔法を使って鉄の塊を動かす。というコンセプトだろう。
千春がインターホンを押す。
すると、中から女性の声が聞こえてきた。
『はい、どちら様でしょうか』
聞いてくる女性だが、誰が来ているのかについてはすでにわかっているだろう。
インターホンにはカメラがついていないが、かなり巧妙に隠された隠しカメラがいくつか存在する。
地面にも埋め込んでいるところを見るとスカートの中を覗こうとしているのがわかる。
そういったものだけはひっそりと破壊した。
「千春といえばわかるかしら。助っ人を連れてきたわよ」
『分かりました。少々お待ちください』
女性の声が聞こえなくなった。
何かを確認しているくらいの時間が経過したあと、すぐにまた聞こえてくる。
『確認が取れました。ドアを開きます』
そう言うと同時に、ドアが開いていく。
厳密に言うと、鉄の塊は大きいので道ができているかのようにも見えなくはない。
そんな道の奥は、コンクリートの廊下に続いていた。
「さあ、いくわよ」
千春が先導して、廊下を歩いていく。
そして、一番奥の扉の前に立った。
「この部屋なんだけど。秀星が開けてくれない?」
「なぜ?」
「スタン弾がとんで来るからです」
「……迎え入れる気あんのか?」
秀星はドアノブに手をかけて普通に開ける。
千春が言った通り、何かが飛んできて、秀星に直撃した。
しかも何発か当たる。
とはいえ、秀星に効果はなかった。
「ああ、うん。確かにスタン弾だな」
「「効いてない……」」
何を言っているのだろうか。秀星なのだからこれくらいは今更である。
中では、一つのテーブルで向かい合うようにソファが置かれている。
その向こう側のソファでは、すごい筋肉の男が美女二人を抱き寄せていた。
三人とも日本人だが……ここまで大っぴらなのは珍しい。
「まさか。スタン弾が来るとわかっていて何もせず、そして効かねえとはな」
大柄な男性が変なものを見るような視線で秀星を見る。
ちなみに、彼が抱いている女性二人も若干引いているような気がする。
「効かないんだからそれはそれでいいだろ。減るもんじゃないし」
「まあそうだがな」
クックックと笑う男。
「で、何の説明をなしにつれてこられているから、ちょっと状況が分からないんだが、どういう感じなんだ?」
「ん?ああ……そこの嬢ちゃんたちが、俺に何か頼みがあって、俺はそれを拒否した。それだけのことだ」
なるほど。
「で、俺は助っ人のようなんだが、どういうことだ?」
千春とエイミーの方を見てそういう秀星。
「こいつがテストをしてくるわけ。それをクリアして、ちょっと通行証がほしいのよ」
「……そのためだけに呼ばれたのか」
「すみません。ですが、必要なものなのです」
いろいろ言われているが、このタイミングで逃げるのは逆に駄目だろう。
「わかった。で、何をすればいいんだ?」
聞くと、男は酒の瓶をならべた。
「え、飲み比べなのか?」
「お前の噂は聞いてるからな。戦闘や技術は明らかにこっちが不利。なら、お前がまだガキってことを利用するだけだ」
そう言ってにやっと笑う男。
「未成年を相手に何言ってんだか……」
「逃げるのならそれでもいいんだぜ?」
「いや、やろうか」
「言っておくが、俺は酒豪だぜ。いろいろ噂があるようだが、大人の余裕ってもんを見せてやるよ!」
後ろで絶句している千春とエイミーをおいて、潰れるまで続ける飲み比べがスタートする。
ただ、一つだけ。
完全耐性を得ることができるエリクサーブラッドを持つ秀星を相手に、『肝臓』で勝負するというのは、あまりにも酷な話なのであった。