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第十一話

 羽計は風香の横に並んで歩いている。


「羽計さん。秀星君が評議会に入ったって本当なの?」

「すでに契約は済ませていると聞いた」


 美少女二人が並んで帰っている。

 それだけを聞けば雰囲気として悪くはないのだが、片方がすごくまじめな雰囲気を醸し出していると急激に面白くなさそうに見えるのは人間の性であろう。

 羽計は竹刀ケースのようなものを背負っている。


 御剣羽計(みつるぎはばり)八代風香(やしろふうか)の護衛だ。

 少なくとも、建前としてはそう言う任務で沖野宮高校に短期転校しており、カルマギアスからの影響を受けないようにしている。

 ただ、御剣羽計の名前は魔法社会では有名だ。

 マスターランクに近い実力を持つ羽計が近くにいることで、八代風香を捕らえにくいという状況を生み出していることも事実。

 数では強引に突破できない質というものはあるもので、羽計はそう言う存在だ。

 しかし、風香は評議会に所属してはいないが、八代家である故に、魔法社会の情報は入って来る。

 魔力が多いということで、ある程度見てはいる。

 だが、評議会の行動が思った以上に早いので、風香としても気になったのだのだろう。


「じゃあ、魔戦士としての正式な入隊はまだ先なんだね」

「もちろんだ。使えないやつは現場にいらん」


 顔をしかめる風香だが、一応、それに関しては同意しているのは間違いない。

 魔法社会と言うが、魔力を用いた技術の研究・研鑽。モンスターの管理・対応。そして、魔法犯罪組織の殲滅が主な任務となる。

 数多くの傘下組織・団体・家系を有する『評議会』が中心となっているが、その利権は大きい。

 利権が大きい理由として、『裏』が中心となるわけだが、実際、流れている金が大きいからだ。

 まだ貴重なものが多いのが魔法関連の素材である。

 ものにもよるが、どれもこれも、日本の硬貨は出番がない値段になっている。

 そこで取り扱っている技術も希少性がかなり高い。


 そんな魔法社会で、現場に生きるもの達はそれ相応の実力が求められる。

 そして、手段を選ばない犯罪組織の方が貴重な資料を持っていることもそれなりにある。

 光と闇、時代と言うのは闇が先行するもので、光が追い付くには時間がかかる。

 中途半端な人材は雑用しか任されない。

 現場で一人無能がいると、そいつを守るために他の人間に危険が及ぶ。


「評議会は、今は何を考えているの?」

「私は聞いていない」


 とはいっても、二人ともある程度予測出来ているのは、『魔力の多さ』と言う部分だ。

 風香の魔力が多いことはすでに言ったが、羽計も魔力は多い方だ。

 本当に少ない人間や表社会に生きる人間は、小規模を数回使うだけで充電切れになる。

 いや、小規模と言うより、『生活レベル』と言った方がいい。

 それこそ、『火属性』と言ってもライター一本あれば代用できるようなものだったり、『水属性』と言っても水筒があれば十分だったり、『風属性』といっても団扇(うちわ)があればよかったり、と言った感じで、戦闘レベルにすら及ばない。


 魔力量が多い者は、それだけで重宝されるのが現状。

 魔力を材料にして起動する『魔道具』と言うものが存在するが、これらを常時運用することが出来ればライフラインを確保できるし、魔道具を兵器に昇華させた『魔装具』というものを運用できればなおさらだ。

 足りていない。というのが共通認識である。


 ここから察するに、『停止中の計画の実行』と言うものだろう。

 それが何なのかはわからないが。


「が、別に私は気にしていない。私の任務に関係はないからな」

「……私の護衛だよね」

「そうだ」


 カルマギアスが、風香を生贄にするという計画を立てていたことが分かった。

 そこからの動きは早かった。

 実際、羽計の短期転校の話が出てから、そこからの実行まで移り変わりもすさまじい速度だった。

 それほど、八代家に届けられた資料が無視できないものだったのだ。


「今日は実家の方に帰るのだったな」


 羽計は脳内で情報を引っ張りだす。

 普段は学校近くのマンションの部屋を借りている風香。

 さらに、その隣の部屋に羽計が住むことになったが、時折変える必要がある。

 裏ではあるが、神社と言うこともあって、表の方の付き合いも必要である。

 山の近くにあるので、そっちの方に帰る時がそれなりにあるのだ。

 当然、羽計はそれについていく。

 まあ、実家に上がっても巫女服は着ないが。


 黒髪で刀の似合いそうな雰囲気をしているので、巫女服とはいかずとも着物は似合うのではないかと思っている八代家家臣もいるにはいるが、口に出したら本当に斬られそうなので言わないというのが現状である。


「うん。神社だし、八代家は地元とかかわりが強いからね」

「貴様の現状を考えれば、そんなことを言っている場合ではないが、魔法社会のことは表の行動を制限する理由には使いにくいからな」


 どこまでいこうと『裏』でしかない。

 表社会で不信感を抱かれるような行動はできるだけ避ける必要がある。

 犯罪組織の方でもそれは変わらないのだ。

 とはいえ、ダミー会社を作って隠れ蓑にしているところも多ければ、『隠れる気あんのお前』と言いたくなるような組織もたまにあるのだが。


「……!」

「……!」


 歩いていると、二人とも気が付いた。

 今自分たちが、どんな場所にいるのか。

 いや、表社会に生きる人間からすれば、単純に人の気配がない場所だ。

 商店街のような雰囲気もあるが、場所が悪かったということもあり、半ばシャッタータウンになっている場所だ。

 近くには空き地がある。

 少なくとも、羽計の感知範囲の中で、一般人と取れる人間はいない。


「……わかっているな」

「うん。隠蔽結界が張られてる」


 羽計の確認に対して、風香はすぐに頷く。

 勘の良い者を除いて、ほとんどの人間は視覚と聴覚に頼っている。

 光学迷彩と同じ効果を及ぼす魔法と、空気振動を制限する魔法。

 その両方を、範囲を決めて同時に行使することで、周りから発見される確率を大幅に下げることが出来る。

 あとは夜だと尚更いいのだが、昼間でも別にないわけではない。

 二人は相談することはなく、広場の方に移動した。


「どこかに隠れてるのかな」

「当然だ。かなり結界の範囲が広い。魔力を貯蔵する媒体はまだ開発されていないからな」


 厳密には、大勢の魔力を一人の体内に送ることは可能だ。

 ただし、媒体として開発はされていない。

 そのため、魔力の量と言う意味で、作戦の肝になる人材が確実にいる。


 そこまで羽計が考えた時だった。


 物陰から、全身甲冑のようなものを纏ったような人が現れた。

 それも、五人。

 こんなのが歩いていれば確実に目立つだろう。


 ただ、人ではない。


「あの甲冑……」

「見覚えがあるのか?」

「私を誘拐するときにいた。その時は三体いたけど」

「ほう……召喚獣のようだが、あんなものを呼び出せるのか?」

「召喚獣じゃない。魔装具みたいなものだよ」


 羽計は頬を動かした。

 だが、すぐに戻した。


「だが、あの甲冑の中に人がいないのは事実。全力でやっても問題はないな」


 カルマギアスのメンバーを捕虜にするのはまだあまりできていない。

 もし人が中にいるというのなら喋れる程度に加減する必要はあるが、そうでないというのなら容赦はしないのが羽計だ。


「うん。全力でやっても問題ないよ」


 それを聞いた羽計は竹刀入れの中から剣をとりだす。

 鞘を腰に当てて、鞘に仕込まれた魔法陣を起動すると、その場で固定された。

 そして抜き放った刀身には魔方陣が刻まれている。


「行くぞ」


 次の瞬間、羽計は突撃していた。

 『身体能力強化』『走力強化』『敏捷強化』など、様々な付与魔法を同時に展開し、すさまじいスピードで肉薄する。

 剣にはシンプルな『切れ味補正』と『頑丈さ補正』があり、それも並列起動していた。


「ハッ!」


 下から斬り上げるように剣を振る羽計。

 だが、甲冑はかなり冷静に対応する。

 薄い膜のようなバリアが剣を止めていた。


「む……バリアか」


 羽計は剣を阻んだのがバリアだと認識。

 向こうも剣を抜いてきたので、思いっきり剣を振り切った。

 バリアは物体を軸にして固定されていて融通が利かない場合が多い。

 そのまま押しきれば、バリアを割ることはできなくとも、本体を押すことはできる。


「硬いな」


 羽計は風香の方を見る。

 ……どこから取り出したのか、純白の刀を振り回していた。

 しかも片手で。


「……あの細い腕のどこにあんな力が……」


 時代劇に使われるものとは違って、刀はかなり重い。

 だが、扱い方はいい。武器に振り回されている感じはしない。

 とはいえ、刀のスペックが本人に足りていない雰囲気があった。

 即席で作りだしたものだからだろう。


「ふむ……聞いてはいたが、弱くはないな……」


 『八代家の剣巫女』として名は知れているのが風香だ。

 それを考えると、別に弱いわけではない。

 羽計は五体いた甲冑の内、三体を引き受けることにしたようで、斬りかかって行く。

 実際のところ、やろうと思えば五体同時に倒せるが、確実に葬るにはそういう割合の方がいいと言うだけの話である。


「すうう……ハッ!」


 再度肉薄して、垂直に振り下ろす。

 構えていた剣を切断して、バリアを上からたたき割って、頭部を砕き、心臓部にあったコアを壊した。


「ふむ……弱点の場所は人間と同じか。なら問題はないな」


 そう言う羽計だが、まるで普段から人を斬っているような発言である。

 あと二体の甲冑も、真横に剣を振って、遠心力を乗せることでコアを砕いた。

 荒っぽい使い方だが、体の使いかたは仕込みがいいので、力をうまく乗せるのは問題ない。


「……お前の方も終わっていたのか」

「うん」


 羽計が風香の方を見ると、刀の突きで甲冑のコアだけを貫いたようだ。

 バリアの上から刀で貫くとはなかなかすさまじい光景である。


「……ん?まだ結界が残っているのか」


 結界魔法がまだ切れていない。

 要するに、まだ終わっていない。


「いやはや、驚きましたよ」


 奥の方から拍手が聞こえてくると同時に、青年の声が聞こえてきた。

 見ると、ひょろっとした印象で縁なしの伊達眼鏡をかけた男性が立っていた。

 白衣を着ており、三十代前半と言ったところだろう。

 表情からは、自分に陶酔している雰囲気があった。


「誰だ」

「本来なら名乗りたいのですがねぇ。我々の決まりでして、名乗るのはNGなのですよ」


 余裕の表情でそう言う男性。


「なら、こちらで『ヒョロ眼鏡』と認識しておこう」

「それもそれで嫌ですね。でしたら――」

「黙れ、ヒョロ眼鏡」


 どうやら、羽計の中ではこの男の名前は『ヒョロ眼鏡』で確定してしまったらしい。

 名を聞く時間すらなく、羽計は突撃した。

 ヒョロ眼鏡は驚いたようだったが、指を鳴らすと、すぐそばで魔力が集まって行く。

 甲冑が出現した。


「甲冑一体など敵ではない」

 

 見た目はあまり変わっていない。

 垂直に振り下ろす。

 甲冑は剣を構えて、剣を防いだ。

 おそらく、量産型が持っていた剣とは違うのだろう。


「む……」


 考えたのは、一瞬。

 威力が足りないというのならあげればいい。

 魔法陣に魔力を流し込み、身体能力の付与魔法も同時に起動して出力を上げる。

 そして、一気に真横に振り切った。


「ぐっ……」


 硬い。

 だが、頑丈と言うわけではない。

 実際、斬撃の衝撃で後ろに跳んでいった。


「フフフ、この甲冑は特注品なのですよ。任務中とはいえ、常時携帯レベルの武装で斬ることはできません」


 『魔装具』は魔法社会に生きているものにとって必要なツールだ。

 だが、それらにもレベルはある。

 剣術をはじめとした武術、補助器具なしで使える魔法など、魔装具を使わずとも強い人間はいるが、多くの魔戦士は魔装具を使って強くなっている。

 ただし、討伐の任務が言い渡されていない魔戦士は、一定以上の魔装具が渡されないのだ。

 自前ならいいのだが、研究が進んでいる評議会本部ならともかく、名家や名門となると、伝統やしきたりなど、様々な『発展阻害要因』が多すぎて評議会ほど強い魔装具を持っていない。


 評議会の魔戦士ではない八代風香は当然そういった魔装具を持っていないし、同じく名家で、評議会に所属する御剣羽計も、討伐任務中ではないため、魔装具のランクは制限がある。


「ふむ……だが、先ほどの斬撃でも傷がつかないわけではないようだな」

「え……」


 羽計は切った場所を見る。

 浅いが、それでも、切り傷ができていた。


「バリアを貫通していた様ですね。さすがプラチナランクです。ですが、まだまだこの兵士の力はこんなものではありませんよ」


 ヒョロ眼鏡は眼鏡のブリッジを上げた。

 なお、自己紹介を忘れているヒョロ眼鏡であった。

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