第百八話
平等というのは世界で最も難しいものである。
過程を平等にすれば結果は平等にならず、結果を平等にすれば過程が平等にならない。
こればかりは人が人である以上変わりはない。
さらに言えば、身体的な特徴だけではなく、健康、教育、娯楽など、平等というものを求めることができる分野は数えるときりがない。
ただ、ここまで説明しておいていうのもなんだが、秀星は、そのどちらも徹底しないタイプだ。
バランス良く、というより、あくまでも自分のさじ加減に任せるという勝手な言い方である。
徹底することなど不可能なのだ。
どちらをするにしても、身の回りだけに限定しようと不可能である。
よく、平等や公平を神聖視する者がいるのだが、秀星は、異世界で本当にそうなっている国を見た。
ここでは多くを説明しないが、ひどく不気味だったこと、公平ゆえに、極端に優れたものや劣っているものは生きることすら許されなかったこと。
平和な土地と地理、周辺の国際関係によって継続していたが、魔王の出現という最恐のイレギュラーにより完全に壊滅した。と言っておこう。
少なくとも、秀星が平等や公平が達成されることに対して嫌悪感を抱いているのは間違いない。
そういう事情もあって、秀星は自分で、もしくは他人の意見を考慮したうえで、自分で判断する。
その結果、一応全クラス分、できる限りの時間を使ってやった。
無論、チャンスの回数が同じというだけで順番に差はもちろん出るのだが、あまり多くても意味はないので順番にやった。
「まあ、さすがにこれ以上はできないだろうな」
「え、そうなの?」
昼食時間中。
秀星、風香、羽計、雫、エイミーの五人は屋上で話していた。
「ああ、できない。これ以上やるとすると、全部まわりきる前に、周りのほうが動き出すからな。最後まで回りきらない可能性がある」
「だが、一通り全員やったのだから、今度は人数を増やせばいいと思うが……秀星なら一学年抱えるくらいでも問題ないと思うが……」
「あ、羽計ちゃん。それは違うよ。学年って一年から三年の三つでしょ?休日は週に二日しかないから、絶対にどこかの学年が来週に持ち越しになるし、確実に不平不満が出ると私は思うね」
「……そういうことはわかるのですね。雫さん」
「フフン。すごいでしょ!」
「いや、俺から言わせてもらうと、簡単なことしかわからないから、人より単純に判断できるだけだと思うがな」
「秀星君。実はね……私もそう思ってるんだよ!」
「「「「確信犯なのか……」」」」
成せば成る。というより、『成るように成らせる』というか、とにかく、いろいろなものを単純に判断する雫は、欠点しかないが致命的な部分が少ない。
「まあでも、秀星君ができないといえばそれまでだもんね。だって、誰も秀星君を強制させる実力なんてないし、秀星君は無人島でも快適に生きていけるでしょ」
雫の言うとおりである。
現状、秀星を制御できる存在は遭遇していない。
まだまだ本気を出していない秀星の実力は未知数である。
さらに言えば、神器は戦うためだけにしか使えないわけではない。
便利なものを武器にすることは誰にでもできるが、強力な武器の副作用として快適のために動けるのだ。
「そのあたりはみんなもわかってるみたいだな。『全員に一度チャンスを』という声は多かったが、二回目という声は出なかった」
「ローテーションにするにしても、自分たちの番が来るまで時間がかかるもんね」
「人数が下手に多いのが問題かな。学校なんだから当然だけどね!」
「それに加えて、ほかの学校との関係もあります。アメリカでも、全生徒のうち八割が魔戦士という学校はありました。日本でも、魔戦士の比率が高い学校はそれなりにありますし、中には強豪もいますから、沖野宮高校に接触してくる可能性もあります」
「ていうか……生徒会長が突っぱねてると俺は聞いたけどな」
イリーガル・ドラゴンとの合同訓練。
あれは一応、剣の精鋭とイリーガル・ドラゴンで行われたものなのだが、場所代として生徒たちにも訓練が施された。
結果として沖野宮高校は強くなったが、それだと不公平だという学校は多い。
まあ、ただでさえ実力がすごい秀星が在籍しているのに、学校レベルで強くなるのはおかしいだろう。という言い分だ。納得できないわけではないが。
「アメリカからもなんか連絡が来てるって言ってたな。すべて俺のさじ加減で決まるからとか、そんな感じで突っぱねてるって言ってた」
「それって秀星君に責任を押し付けていることになるんじゃ……」
風香が疑問に思ったような表情でそうつぶやいた。
「ああ。だから、それを理解した副会長が棍棒で滅多打ちにしてたよ」
「ふーん……ん!?明らかに大丈夫じゃないよね!?」
実際にその光景を想像して叫ぶ雫。
「大丈夫、会長は頑丈だから」
「それだけで納得しろというのは無理な話だと私は思うが……」
羽計はまだ常識人の域。理解はできないようだ。
「いやでも、鉄ブロックが入ったケースでたたかれてもケロッとしてただろ。問題ないって」
「副会長さん。Violenceです……」
エイミーは遠くを見るような表情に変わる。
「……まあ、うん。大丈夫だと思うんだけどな。二割くらい」
「いやダメでしょ!?」
「大丈夫だって、ギャグ要員だから」
全員が『それをお前が言うのか?』という視線に変わった。
あえて、秀星は反対しなかった。