第百七話
「……これは、意地でも周りと連携する必要があるかもしれないな」
「今まで抱えていたダンジョンがアレですからね。あまりにも差がありすぎます」
沖野宮高校生徒会室。
生徒会長である宗一郎と、副会長である英里は報告書を読みながら眉間にしわを寄せていた。
「幸い、需要があり、消耗品であることが不幸中の幸いだな」
「あまりにも多すぎます。イリーガル・ドラゴンの影響で、彼らは強くなりすぎましたね」
実は、魔戦士の稼ぎというのは『最低限』が存在しても『安定』はほとんどない。
剣の精鋭を含め、それ相応の実力を持つチームならば膨大な金額を稼ぐことが出来るので、低いものにならないというだけである。
今回の新ダンジョンの場所は、八代家が管理するあのダンジョンから離れているのは事実だが、それでも九重市の中に存在するわけで、その市内に住む住民ならいつでも向かうことが出来るだろう。
モンスターからの素材を集め、それらを売却することで、売却された素材はマーケットに流れることになる。
研究者たちはその素材を使って研究するわけだが、素材の数が増えると値段が変動するのは自明の理。
魔石にしても素材にしても同じなので、最初は相場通りの金額でも、だんだん落ちて来るだろう。
新ダンジョンの難易度は確かに高い。
圧倒的なものは感じないが、それでも、今までの沖野宮高校の生徒達では太刀打ちできなかったはずだ。
だが、その難易度の高さを補えるだけの実力を身に付けた。
しかも、沖野宮高校に在籍している魔戦士、約二百人のほぼ全員である。
この影響はあまりにも大きい。
「……最悪、価格が暴落する可能性も十分にあるな」
「ここ数か月でいろいろとありましたが、様々なことが重なっていますね」
「その様々なことによる『流れ』で、イリーガル・ドラゴンが合同訓練でこの学校に来た。ただ、イリーガル・ドラゴンの指導能力は想定以上だったと認めざるを得ないな。結果的に沖野宮高校の生徒達は強くなり、そしてあの難易度がそれなりに高いダンジョンの出現。どれかが一つでも異なっていればこのような状況にはならなかっただろう」
儲けが増えるのはいい。
だが、儲けが増えた場合、人間と言うのはその数字だけを見て、未来に対する視野が狭くなる。
「客観的に見ると無茶苦茶な状況でもかなり順調に進んでいますね」
「それはおそらく、秀星が規格外だからだ。様々なことに余裕がありすぎて、無茶な要求や状況が机上の空論ではなくなる」
「……影響力が大きすぎますね」
「剣の精鋭が……何だったかなあの船、アメイジング・リアリゼーションか?あの船に乗って帰って来るまでは、流れに身を任せるだけで、自分から派手なことはしないようにしようと考えていたようだが……あれから変わったな。ただ、下手な自重がなくなった結果、ここまで影響が出るとは……」
そのあたりも、宗一郎の想定外と言えるだろう。
宗一郎もそれなりに本気を出せば秀星がやって来たことをするのは不可能ではない。
だが、もちろんすべてができるわけではない。
その上で、秀星は片手間にそれをやってしまうのだ。
今の秀星に取って、この地球は難易度が低すぎる。
「剣の精鋭……よく抱えていけますね」
「あれは……まあ、リーダーの頭のネジが吹っ飛んでいるからな」
「では会長も抱えていけるということですか?」
「いや、私は遠慮しておこ――それはどういう意味だ?」
「いえ、別に」
抱えていくというのは苦労するものだ。
特に、秀星のような下手に客観的な見方ができるうえに、ネタに走った場合にすべてそれらが確信犯なのでたちが悪いのだ。宗一郎も人のことを言えないのだが。
「それで、どうしますか?あの二十人だけでここまで稼ぐことが出来ると考えると、確実に対策が必要になりますよ」
「外部との連携だな……私にもいろいろ伝手はあるから、それを使おう。基本的にうまい話だから乗って来るだろうからな」
「それにしても、彼のように規格外なのも困りますね。ところで会長は、秀星はこの状況になることを推測していたと思いますか?」
「……まあ、そうだと思う。というより、秀星は考えた末にその結論を出すというより、実際に見てきて、それを参考に考えているような雰囲気だ。ダンジョンを作りたいと言いだした時から、おそらくそこまで推測していただろう。意識していなかったとしても、結果的にこうなることは分かっていたはずだ」
宗一郎の言い分は間違っていない。
五年間異世界で生きていた秀星は、今の地球よりも黒いものを腹に抱えたものがうじゃうじゃいる環境に立っていた。
当然、こうなることも大体わかっている。
「金額だけは膨大だが、これに関しては時間による価格変動に任せるしかないか。ただ、暴落だけは避けよう。そこまでいくと、これからの九重市にかかわる」
秀星が絡むと利権が膨らみすぎる。
しかも、まだまだ秀星には余裕がある。
オマケに、彼は下手な自重を捨てた。
はっきり言って……一組織、一学校で抱えていくのは無理な人材なのだが、逆に手放したくはないカードでもある。
「こうなることを考えて自重していた。と考えると、なんだか納得できる気がしますね」
「しかもまだまだ余裕がある。本気なんて出したら、地球の形が変わるかもしれん。少なくとも地図は変わるだろうな……なんでこうなった」
頼りになる。と言うレベルを超えている。
宗一郎は、今更それに気が付いたのだった。