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第百五話

「で、誰か昼飯のこと考えてるのか?」


 腹が減っては戦はできぬ。という諺を知っているだろうか。

 腹が減っては十分なことなど不可能。ということで、まずは腹ごしらえをしてエネルギーを補給するということだ。

 なかなか馬鹿にはできないものである。

 事実、ダンジョンのそばには飲食店ができているパターンもあるのだ。

 ちなみにみんな金を作ってダンジョンに入るわけで、メガ盛りとか普通に頼むときがある。


 だが、それはダンジョンの外にいる時の話。

 ダンジョンの中で休憩するとなった時、一体どうするのかと言う話になるのだ。

 持ち込んだレーションで何とかするのか、レトルト商品を持ちこんでおいて中で使うのか。

 一番手っ取り早いのは弁当である。


「……」


 ダンジョン内に存在する広場に集まった二十人の生徒。

 中には武器がボッキリと折れていてもう戦えないような人がいたり、矢を自分で作れないので切らしてしまってもう使えなかったり、銃型魔法具のための銃弾がキレたり、SFチックな魔装具を使うための魔力保存媒体がもう残っていなかったり……。

 まとめると『散々』であった。

 ちなみにツッコミ三人組はレーションを持ってきていたようだ。

 水があれば何とか食えなくもないものである。

 魔力を用いてブーストしてつくった食料品と言うものがいくつか存在するので、それらを材料にして作った栄養剤なども持ってきているようだ。服用数間違えるとすごくひどいことになるけど。


「……はぁ、今回は俺がやってやるから、次からは自分で何か考えておけよ」


 ほとんどの生徒が日帰りレベルだったのだ。

 そもそも、奥に行けないので最初でとどまるしかなく、さらにモンスターを倒して手に入れた素材などは嵩張るので一度売りに行ける距離にいた方がいい。

 それそのものは悪い意見ではないのだが、この何とも言えないグダグダである。


「さてと……もう面倒だから牛丼でいいか」


 保存箱を開いて、全員がおかわりできる量の食材を出す。

 クラスメイトたちは驚いているようだが、秀星だから、と言うことで納得したようだ。

 便利な言葉になったのはいいが少しだけむなしい。


「あ。周囲の警戒はちゃんとやれよ」


 さっそく料理し始める秀星。

 時間をかけるわけにはいかないので時折魔法を使ったり、時間短縮できる魔法具(マーケットに売られてた)を使ってショートカット。

 ちなみに、周囲の警戒を周りに頼む秀星だが、牛丼を作りながらでも円周率を数えてさらに近くにおいておいたテレビ二十台で同時に別のアニメを流していてもしっかり理解できる脳味噌なので、別に周囲の警戒くらいできるうえに、そもそもモンスターにのみ通用する威圧を行っておけば広場にモンスターがやってこないのだが、それはいいとしよう。

 ただ……秀星は手段が多すぎて、『そもそも』が多用されるのだ。それだけの話である。


「出来たぞ」


 ご飯を炊く時間を考えるとそれなりに時間がかかりそうだが、すぐに食べることが出来る白米など、魔法を使わずとも科学の力で十分可能だ。

 大きな鍋に入った牛丼と、大きな炊飯器に入った白米。

 もちろん、トッピングもいろいろ付けている。

 さらに言えば、二十人がそれなりに食べても問題ないレベルだ。

 さすがにダンジョンの中で腹いっぱいになるまで食べる人はいないとおもうが。


「「「「「いただきます!」」」」」


 全員が牛丼を食べていく。


「「「「「!?」」」」」


 ちなみに、秀星は変なところでは妥協しない主義である。本当に変なところで。

 作る料理だって、いつも食べている牛丼とは思えないほど美味しいのだ。


「秀星君って料理もすごいんだ……」


 女子生徒の一人がそうつぶやく。


(そうなんだよなぁ。だから最近は料理番になってんだよねぇ……)


 剣の精鋭に入順序列は存在しないので、来夏の人事で人が動く。

 一番最後に入ったのはエイミーだが、エイミーにはエイミーの役割があるので、雑用を押し付けられることはない。

 そしてなぜか回ってくる家事を、洗濯を除いて秀星に降り掛かってくるのだ。


「はぁ……女なんて嫁ぐのも仕事だろうに……嫁入り修行くらいしておけよまったく……」


 秀星のそのつぶやきに目をそらす雫。

 そう、料理ができないのだ。

 来夏はできないが、家事と子育てができる旦那を捕まえたのでノーカン。

 アレシアはできる。できるというより丁寧さがある。

 羽計はきっちりできる。

 風香は七十五点で慣れている感じ。

 優奈は兄弟姉妹が多いらしく、全員が自分より年下のようで、長女スキルが高い。

 美咲は全部はできないが手伝っているそうだ。

 千春はもとから器用。

 エイミーは父子家庭なので、勉強したそうだ。


 結果。

 雫だけが面倒なことになったのである。


 他の女子生徒たちの中にも、秀星の抜群の料理を食べた上でこんなことを言われては少々食べにくい。

 そしてこの空気をどうにかしてくれと願う男子生徒。

 その空気を破ったのは……。


「しゅうせいさ~ん」

「いやちょっと待てや!なんでお前ここにおんねん!」


 ライナがよちよちと秀星のところに歩いてきた。

 ちなみに、何を言っているのかわかっているのは秀星だけだ。

 他の生徒からは、人間で言う赤ちゃんレベルの言語にしか聞き取れない。


「おいしそうなにおいがしたからきたの!」

「牛丼の匂いに狼が釣られるなんて聞いたことないけどな……」


 あぐらをかいて膝の上にライナを誘う秀星。

 ライナは幸せそうに寝転んだ。

 撫でている秀星。

 気持ち良さそうにするライナ。


「あの……秀星君」


 風香が訝しげな視線を秀星に向ける。


「ああ……裏山の洞窟にマクスウェルがいるだろ?アイツの子供だ」

「子供いたんだ……」


 知らなかったのか……。

 ライナは風香の方を見る。

 その後、秀星の方を見た。


「お姉ちゃんみたことある!」

「ほうほう」

「おもらししたおふとんをかくれてせんたくしてた!」

「……」


 言葉を失う秀星。

 秀星は風香を見る。


「?」


 風香はライナが何を言っているのかわからない。

 だが、今はそんな感じでいいような気がした。

 無邪気というのは時に残酷だからな。うん。


「抱いてみるか?」


 秀星はライナを抱えて持ち上げる。


「いいの?」

「大丈夫だろ」


 ライナを風香に預ける。

 風香は胸元でライナを抱きしめた。


「かわいい〜」

「く、くるしい〜」


 風香はツボにはまったようだ。


「私も抱きしめる!」


 そして我慢できなくなった馬鹿が降臨。

 秀星はアイアンクローで封殺する。


「いたたたたたたたたた!ちょっと待って!」


 待ちません。

 とかなんとかしている間に、ライナを剣の精鋭のメンバーが抱きしめたりくすぐったりしていた。

 微笑ましいものである。

 さて、そろそろ解放しよう。


「いつつ……秀星君!顔に痕が残ったらどうするの!」

「ギャグ要員なんだから残らないだろ」

「納得できるかああああああ!」


 当然である。秀星だってわかった上でやっている。



 昼の休み時間。

 生徒たちは、自分たちの準備不足を感じるとともに、ライナをみて微笑むのだった。

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