第百四話
大人数でダンジョンに挑む。
剣の精鋭のメンバーが現在十人だが、ダンジョンに潜るときは2つの班に分けることがほとんどだ。
人数が多いということそのものは悪い話ではないのだが、結果的にどうなるのかというと『安心』か『混乱』である。
大人数で挑む場合、確かに『安心』できる部分があり、そして多くのモンスターを倒すことができることは秀星も認めるが、漠然としたリターンが得られるかとなれば、それは最初から手に入るわけではない。
秀星は今回、最初からうまくいくわけではないということを教えるために今回のこれを受諾した。
「なんか……参考にならねえな」
現在、秀星はツッコミ三人組とともにダンジョンを進んでいる。
弟系の漆原祐樹。使用武器は双剣。
スポーツマン系の冨里弘明。使用武器は太刀。
特徴がない香原翔一。使用武器は弓。
この三人だ。
結局、固まっていても儲からないので、剣の精鋭の五人がそれぞれのリーダーになって、それ以外の生徒を三人ずつ率いる形で進むことになった。
……ちなみに、秀星の班になれば不安要素がゼロになるし、女子生徒にとっては有望株である秀星に顔を覚えてもらおうとしていたのか、だれが行くのかもめていた。
いろいろともめている中、結局全員一斉じゃんけんになり、女子生徒全員のなかに香原翔一が混じって独り勝ちしたので、ツッコミ三人組と進むことになったのである。
まあ別に、秀星としても不満はないので別にいいのだが。
「秀星。強すぎでしょ」
「弓を構えるタイミングもないんだけど……」
「お前らが遅いのが悪い」
一刀両断する秀星。
「それにしても、それなりに難易度が高いよね」
「まあ、今までがあんなダンジョンだったからな。当然だろ」
「僕としてはもうちょっと切りやすいモンスターがよかったなぁ……双剣が通らない」
三人の感想をまとめるならば、『実感している』というところだろう。
ダンジョンの難易度が極端に違うのだ。
ただし、挑んでみて何とかやれないこともないものだったので拍子抜けした部分はあるだろう。
だが、ダンジョンなので、奥に進めば進むほど難易度が上がるのは当然だ。
「あ、モンスターだ」
「俺たちだけで戦ってみるか」
「うん」
三人が武器を構える。
双剣、太刀、弓。
バランスが悪いというわけではない。
イリーガル・ドラゴンの影響で、それぞれが武器をしっかりと使いこなしている。
「ほっ!」
「よいしょ!」
「おりゃあ!」
三人のパターンとしては、
弓を持った翔一が先手必勝。
双剣を使う祐樹が手数で攻め込む。
弘明が太刀を振り下ろしてとどめを刺す。できなくても抑えたり、ノックバックを与えるように攻撃する。
といったものだ。
ただ、武器の性能が足りていない部分もあるのだろう。倒し切れない時がある。
よほどのことになれば、秀星がマシニクルの引き金を引いて一撃必殺である。
今回は三人で倒しきっている。
というより、特徴がないと思っていた翔一が周りをよく見ているのだ。
後方からの援護射撃もうまい。
ゲームではないので、当然フレンドリーファイアもあり得る。
最大の敵は飛び道具を使う味方。という言葉を知っている秀星からすれば、連携という点においては間違いがないだろう。
「なんか、思ったより順調だな」
「そうだね」
「でも弓まで効かなくなってきた。これ以上は欲張らないほうがいいかもしれない」
三人で戦闘が終わるたびに確認している。
おそらく、すべてのモンスターを一撃必殺可能というキチガイである秀星がいなければ不可能なものだ。
「秀星はどう思うんだ?」
「どう思う。というのは具体的にどういうことだ?」
「いや、このまま進んだほうがいいのかどうかってことだ」
「それは君たちで決めればいい。進もうと進まなかろうと、俺が攻撃した場合の結果は変わらない。俺がいるから、この先進んだモンスターの情報を集めるために進んでもいいし、このエリアを自分たちの稼ぎ場所とするために連携の確認をしてもいい」
「はぁ……」
「とりあえず、今いるこのエリアが自分たちの分岐点であるということを忘れなければ問題はない」
徒手空拳で戦うものは少ない。
安定して狩りをしたいというのなら、武器に必要以上の負担をかけるべきではないのだ。
「どうする?」
「どうするって言われても……でも、秀星がいったことくらいしかやることないだろ」
「少なくともこのダンジョンでは、という条件付きだけど……なら、時間の許す限り慣れるために動いて、最後にちょっと進んでモンスターの予習をしよう」
秀星もはたから見ていて、魔戦士として活動するうえでの三人の役割が分かった。
まず会話に入るためのきっかけとして、祐樹が疑問を出す。
弘明がとりあえず暫定として何か案を出す。
最終的に翔一がすべてをまとめて全員が納得できる案を出す。
このような感じなのだ。
戦い方に関してはまだまだ成長できるが、魔戦士として戦ううえでのやり方という点においてはかなり慣れている。
(悪いことではないな。あと、この班は当たりだな)
秀星はそう思った。