第百三話
「よし、まずはこのメンバーでいつも通りの難易度まで進んだ後、そこから少しずつ下に進んで行くからな」
秀星の言葉に、二十人くらいのクラスメイトが頷いた。
秀星をリーダーとして行われるダンジョンへの挑戦。
まずは、クラスメイトの魔戦士を引っ張っていくことになった。
メンバーは、秀星、風香、羽計、雫、エイミー、ツッコミ三人組を入れて二十人。
名前が出ていない十二人に関してはぼちぼち紹介するが、まあそれはいいとして。
ちなみに、クラスメイトの中には今いるメンバー以外に、魔戦士として戦えるものがいないわけではないが、別に全員が魔物の討伐に精力的と言うわけでもなく、おいているメンバーもそれなりにいる。
というより、前提として戦うことを怖がる人間も多いのだ。
(まずは俺が全員を率いる感じだが、剣の精鋭が五人いるからな。それぞれが三人を率いるという選択肢もあるが……まあそれは後にしよう)
二十人いるといっても、戦闘力も得意分野もバラバラ。
イリーガル・ドラゴンとの訓練時、自分に合った種類の武器を選ぶことはできても、まだ練度はそうでもないし、これ以上は実戦経験を積むしかないだろう。
秀星含む、剣の精鋭メンバーを先頭にして進んでいく。
「で、秀星君。大丈夫なの?これ」
「何が?」
「連係の話とか全くしてないし、注意すべきことっていろいろあるよ」
雫が言っているのだが、要するに、集団で動いたことがある人間が少ないので、このままだと何をすればいいのかわからずに混乱するものが出てくるかもしれない。ということ。
「言いたいことはわかった。が、こればかりは教えたところで無駄だ」
「そうなんだ」
「だが、そういうパターンではないこともあると私は思うのだが……」
納得する風香に対して、首を傾げる羽計。
「たしかにな。俺だって、今回集まったやつの中で、後方からの魔法で付与を使うやつがいるとわかったらマニュアルくらいは書くけど、今回はそういったやつはいないし、いざとなれば声を出して指示すればいい。モンスターは人の言葉がわからないからな」
「え、わからないの?」
「そんな知能は持っていない」
だってあいつらはう……いや、やめておこう。
「まあ、ボスだけは違うけどな」
「へー……覚えておくよ」
「なぜ、付与魔法を使う場合は変わってくるのですか?」
エイミーが聞いてくる。
「簡単に言えば、敵も味方もステータスが変わるからな。パワーでもスピードでも、急に変わるとうまく戦闘が進まないし、重ねがけが可能なもの、不可能なものの両方がある。そうなると無駄だ」
「秀星君ってどこでそういった知識を手に入れてるの?」
「自分で考えた部分がないわけでもない」
適当にはぐらかしている秀星だが、異世界で、ダンジョンに挑む集団を観察したことがある。
当事者として戦うことも重要だが、別の視点から見ることも必要なのだ。
「それにしても……」
「なんだ?」
「秀星君。雑草を刈るみたいに拳銃でモンスターを倒しまくってるけど……」
風香に言われた通り、マシニクルでモンスターを倒しまくっている秀星。
「いや、こんな序盤で時間使ってたらはっきり言って無駄だろ」
「それは認めるけどさあ……」
「あまりにも作業感あふれるものなので、臨場感が皆無ですよ」
雫とエイミーからは不評だった。
言いたいことはわかるが、時間は有限だ。こんなところで時間など使っていられない。
秀星がやれば一秒で終わり、みんながやると三分かかる。
イリーガル・ドラゴンに教わった生徒たちはかなり成長しているので、それなりに難易度が高いと言われているこのダンジョンでも十分戦えるのだが、それでも秀星と比べると差がありすぎる。
序盤ですら時間効率は秀星のほうが百八十倍である。
で、どんとこ進んで中盤地点。
「よし、ここからはみんなにも戦ってもらうか。後ろから援護射撃するから安心してくれ」
そう言って、秀星はクラスメイトたちの後ろに行くことにした。
(さて……多分ひどいことになるだろうな)
秀星のこういう悪い予想は、大体的中する。
そして実際、その通りになっていくのだった。