第十話
確認したら、日間ローファンタジーランキング一位。
二位の時に確認して、バイトが終わってみてみたら一位になっていた。
……ポイントもアクセス数もすごいです。
これがランキングの魔力か……。
感想欄で、誤字、接続詞の間違いが多い。との指摘がありました。
その通りです。ちゃんとみます。
あと、NTTがマクスウェルの悪魔の原理を使って発電に成功している。というコメントをいただきました。
そのため、五話を若干修正しています。
書類はすぐに届くものではないらしい。
まだ秀星の身辺調査が終わっていないからなのか、魔力が多い秀星の扱いをどうするのかを考えているところなのかはまだ分からない。
いや、分からなかったのだが、セフィアに聞いたら『秀星様のような大量の魔力を持っている人材を入れるので、他の派閥にとられないようにするために裏工作中です』だそうだ。
それプラス、入れた後で実際どうするのかを協議しているらしい。
こういった会議は一度では決まらない。
というか、何も決まっていないし、案も出ていないだろう。
秀星を発見したのはいいが、いれるというのはあまりにも急な判断だ。
犯罪組織に誘拐されるよりはなんぼかマシだが、それでも、扱いをどうするのか、という会議になっているのだろう。
ただでさえ、名家や貴族出身のものよりも魔力が多い。と言うこともあるが。
結果的に、本格的な活動はまだ先になるということである。
「ただ、ここまで来ていて、俺がメイガスラボを倒したのではないか、という意見が全く出てこないのはどういうことなんだろうな」
「それもそうですが、評議会としては、既に秀星様は実力的に新米であるという前提で話を進めています。関係する団体もそれに沿って行動していますから、今更変更が効かないのでしょう」
「もしも俺が強かったら、わざわざ作ったプランが崩壊する危険性があるからか……」
「弱いことを前提とした派閥で協議が行われている故ですね。強者であれば引き抜きたいと考える派閥があり、その派閥の力が強いから、と言うこともあります」
「一枚岩じゃないっていうのは当然だからいいけど、面倒な組織だな……」
様々な利権が絡んでいるのだろう。
それによって動く資金が多いのだ。
結果的に、途中で降りることができなくなっている。
金に目がくらむのは人間の性。
問題なのは、トップの頭の回転が悪いことだ。
頭の回転が速いと権限を与えられないということもあるが。
「ま、来ないって言うのなら、こっちもこっちで好きにするだけだし、関係ないか」
「即興の効かない組織ですからね。とは言え、計画もたいしたことはないのですが……」
中途半端に計画して、最終的にごり押しするのはどこでも変わらない。
秀星も異世界ではそんな感じだった。
特に、神器を手に入れる段階では、常識にとらわれていると本当に何もできなかった。
理不尽だとか、そんなものが通用しない。
無理ゲーといえるレベルでなければ神器を獲得するには及ばない。
しかも、神器を手に入れることが出来るダンジョンには、神器を持って入ることはできないという徹底ぶりであった。
作ったやつの性格の悪さがよく分かる。
その時、森の中を歩いていた秀星たちに、緑色のオオカミがやって来た。
「お、ナターリア。世間話をしに来たぞ」
「秀星か。そうだな。話すとしよう」
「今日は緑色なんだな」
「ああ。そういう気分だった」
え、気分なの?と秀星は一瞬だけ唖然とした。
「ガイゼルが会いたがっているからな。今日はそちらで話すとしよう」
ガイゼルと言うのは、この山に住んでいる白銀浪マクスウェルの名前だ。
秀星の話を聞いていて、気になったのだろう。
秀星としても悪い話ではない。
頷いて、ナターリアについていく。
山の中にある洞窟。
あまり出入り口は広くないが、ナターリアが通れる程度の広さは十分確保されている。
山の中では、生態系の一部として制御できる程度のモンスターを見かけたが、洞窟の中に、そう言ったモンスターはいない。
マクスウェル。と言う種族がそれほど強いのだ。
「見えてきたぞ。この奥だ」
ナターリアがそう言うと、奥の方から光が漏れ出ている。
そこには、ナターリアよりも一回り小さな白銀の毛並みを持つ狼と、その足もとに、まだ生まれたばかりのような小さな狼がいた。
「ガイゼル。私だ」
「おお、ナターリア。来たのか」
初老の男性の声のナターリアに対して、ガイゼルはまだ若い男性のような声だった。
「それで、そちらは……話していた朝森秀星と、セフィアだな」
「ああ、俺が朝森秀星だ」
「セフィアです」
「うむ」
それよりも気になるものがいる。
ナターリアはすぐに聞いた。
「ガイゼル。お前のそばにいるその赤ん坊は誰だ?」
「もちろん、俺の娘だ。妻が身籠っていたと知らなかった……」
秀星は一見、表情が変わっていないように見える。
だが……。
(父親失格じゃねえか。熱い夜を過ごしたことくらいちゃんと覚えておきなさい)
内心はこんな感じだった。
「で、名前は?お前の妻を私は知っている。変な名前は付けないだろう」
「ライナと言う。妻がつけた。俺が考えた名前は即却下された」
ネーミングセンスが悪いのだろうか。
秀星としてはいいのだが。
「ライナ。自己紹介だ」
「ライナです。よろしくお願いします」
頷いて聞こえてきた声は、可愛らしい女の子の声だった。
声の年齢的に五歳から六歳くらい。
とはいえ、話を聞いた限りでは生まれたばかりに近いだろう。
テレパスのようなものなのだろうか。口は動いていない。
「素直で可愛い娘だな……お前から生まれてきたとは思えん」
「妻に似たからだろう」
「お前、遺伝子弱いもんな」
「やかましいわ」
こういう空気の仲ということなのだろう。
すると、秀星の足もとにライナが来ていた。
まだ空気的に弱弱しいということもあるが、近づかれてもあまり気が付かない。
秀星はしゃがんでライナの頭をなでる。
「えへへ……」
ライナはとても気持ちよさそうにされるがままになっていた。
ガイゼルが冷や汗を流す。
「お、おーい。ライナ~」
ガイゼルが呼ぶが、ライナは一度ガイゼルを見ただけで、すぐに秀星の方を見る。
そして、言った。
「しゅうせいさん。パパよりもパパみたい!」
「グホアアアアアアア!」
心に攻城兵器でもぶち込んだかのようにガイゼルの心をえぐった。
そのまま、ガイゼルは地面に倒れる。
「ハッハッハ!今までほったらかしていたのだ。お前が父親と言われてもまだ本人もよくわかっておらんだろ」
「いや、あの、お前も実の娘に言われてみろ。本当にこれかなりキツイぞ」
「……言うなよ。そういうこと言うなよ。ちょっと嫌な汗かいたじゃないか」
「ナターリア。お前も子育て下手だったもんな」
「妻が身籠っていたことを完全に忘れていたお前と一緒にするな」
「これでも出産には立ち会ったぞ!」
「当たり前だバカ!」
わいわい言い合う父親ーズ。
ライナは何を言っているのかあまりよく分かっていないのだろう。
首を傾げた後、秀星の匂いを確認している。
「それにしても、生まれたばかりのはずだが、結構喋れるんだな」
「いえ、秀星様のアルテマセンスによって自動的に翻訳・理解しています。念話魔法に近い構造なので、解析すれば正確に聞きとれるのです」
「なるほど」
何がいいたいのかを本人が考え、その考えが念話として放出され、放出された念話を解読しているのだ。
本来なら解読は必要ないのだが、赤ん坊が舌をうまく使えないのと同じで、一々こちらで解析する必要がある。
秀星の場合は、それを無意識にできるのだ。
多分、本来なら『あー』とか『うー』くらいしか聞きとれないだろう。
秀星はその場に座った。
すると、ライナは秀星の足に上って座った。
そして、顔を秀星の胸に押し付けている。
「おーい、ライナー……いや、あの、マジでそろそろ帰ってきてくれない?ちょっとお父さん悲しいんだけど……」
ガイゼルがそう言った。
ライナは数秒間ガイゼルを見る。
すると、立ち上がって、ガイゼルの方に歩いていった。
ガイゼルが安心していると、ライナはガイゼルのにおいを嗅いだ。
「においきつい」
「グホアアアアアアア!!」
子供は残酷。
そもそも、悪いと思って発言をしない。
思ったから、感じたから、それだけでいろいろ言うのだ。
「毎日風呂に入っている俺と比べるのは酷なのでは?」
「いえ、そう言う分類ではないでしょう。単に、ガイゼル様の匂いが『濃い』のです」
「え、俺の匂いってそんなさっぱりしてんの?」
「おそらくそう言う意味です」
よくわからない秀星だった。
「まあいい……いや良くはないが、これ以上この話題を続けたくないから話題を変えよう」
「軌道修正の理由がチキンだな。もっと甲斐性を見せろよ。ガイゼル」
「やかましいわ。秀星と言ったな。言っておくが娘はやらんぞ」
睨み付ける様に秀星を見るガイゼル。
(これ、何を言っても逆効果になるパターンだな)
それを秀星は感じとったので、あえて何も言わないことにした。
「それはそれとして、秀星、お前は何か……すごいものを感じるな。って、ちょっとライナ。おーい」
ライナはガイゼルの方を見ずに秀星のところに歩いてきた。
瞳をウルウルさせてこちらを見る。
秀星はこの目は異世界でも見たことがあるので、何をしてほしいのかはわかる。
ライナを抱き上げた。
狼なのでやり方によっては狼側の負担が高いので、しっかり考えて抱き上げる必要がある。
ライナは秀星の胸に顔をこすりつけている。
「いいなあ……俺、あんなのされたことないぞ」
「お前においきついもんな」
「霊獣のお前に言われるとすごく腹立つ!」
霊獣、エイドスウルフであるナターリアは、魔力的な『雰囲気』を持っているが、実態がないため体臭が存在しない。
はっきり言って勝てる要素ではないと言うこともあるが、ガイゼルがコメディ路線を突っ走っているのもある意味問題があるか。
「はぁ、秀星。ちょっと真面目な話だ。ちょっと前に銀縁の眼鏡をかけた女がここに来て俺を見ていったのだが、何か知っていることはあるか?」
おそらく、近藤葉月だろう。
「まあ、知らんわけじゃないが……何か感じ取ったのか?」
「俺を狙っている雰囲気があった。いや、俺のスキルの方か。マクスウェルであることを狙った雰囲気を感じた」
「別に珍しいわけじゃないだろ」
「そうだな。珍しいわけではない。ただ、あの女ではなく、本人についていた匂いに、なにか嫌なものを感じた。おそらく、相当の強者が後ろにいる」
「だろうな」
嗅覚が本来の領域から拡張されている。
とはいえ秀星も、味覚以外の五感のどれか一つを使えば、周りの状況をすべて理解できるくらいの能力は持っている。
『補正』ではなく『拡張』と言う領域なので、普通とは少々異なるのだ。
「俺の勘違いなら、それでいい。ただ、話しておこうと思ってな」
「……覚えておく。で、ライナ。俺はもう帰るから戻りなさい」
ライナは『!』と言う表情を作って、話しだす。
「しゅうせいさん。帰っちゃうの?」
「うん」
即答。
「また来てくれる?」
「もちろん」
うれしそうな表情になった。
「わかった!まってる!また遊びに来てね!」
「わかったわかった」
ライナを下すと、ガイゼルの方に走って行った。
ガイゼルはすごく安心したような顔になった。
ナターリアは笑いをこらえている。
セフィアは微笑み、秀星は溜息を吐いた。