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  作者: 恵樟 仁
アンダールシアの危機
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第二幕 5章 6話 少女の隠し事

6話になります。


「ちっ、うるせえ化け物だ……とっとと死んでおけ」



 舌打ちをしながら、レディに掌を向ける邪鬼は赤い光弾を作り出すとそれをレディに放つ。

 邪鬼は放ったその弾のその後に興味が無いように、すでにレディを見てはいない。

 それも仕方あるまい、普通の人間が邪鬼の放った攻撃をどうこう出来るわけがないのだ、それが例えCランクのモンスターをものともしない猛者であっても、Sランクモンスターですら相手にならない邪鬼にとっては同じこと……だから邪鬼は見誤る……すでに勝負はついたと思い込み相手の実力を把握しようとはしなかった。まさか自分の放った光弾をまるで野球ボールのように打ち返されているなんて思いもしないのだ。


 カキンと気持ちのいい音がした次の瞬間、邪鬼の顔面に邪鬼自ら放った赤い光弾が直撃した。

 そして、化け物と呼ばれて怒っているレディの攻撃がそれで終わるわけがない。

 自分の光弾を喰らって仰け反っている邪鬼のがら空きのお腹に、手にしているウォーアクスを思いっきり振り下ろすのだった。



「ぐおっ!?」



 邪鬼は素っ頓狂な声を上げ、そのまま地面へとめり込む。



「だぁ~れぇ~がぁ~、化け物ですってぇええええん!!」



 まさしく化け物のように怒り狂ったレディが、口から怒りの湯気を上げ、まるで邪鬼のように目が赤く光っているように錯覚させながら地面にめり込んだ邪鬼のお尻の上に着地をする。


 邪鬼は天地が逆になって、頭の上になっているお尻に重さを感じると、必死にもがいてその地面の中から頭を引っこ抜いた。

 邪鬼が地面から出たことでお尻の上に乗れなくなったレディが、お尻から飛び地面へと移動する。



「てめぇ……やってくれんじゃねぇか」

「貴方はたいしたことないわねぇん♪」

「あ゛あ゛」



 はたから見れば地元のヤンキーと近所のおばちゃんが対峙しているような構図である……だが、余裕があるのは近所のおばちゃんことレディであった。



「舐めやがって……今のが俺の全力だと思うじゃねぇぞ!」

「あらぁん、もったいぶる男は嫌われるわよぉん♪」

「死ねぇ!!」



 レディに向かって飛び掛かる邪鬼……そのツメは恐らく魔力を帯びているのだろう赤く光り、ツメの強度を上げているようだ。

 そのツメの一撃をレディは斧で弾き返す。

 だが……弾き返したと思った邪鬼のツメが、レディの肩に深々と刺さっていた。



「え……なんでぇん?」

「さあ……なんでだろうなぁ!おらぁっ!」



 またも魔力で強化したのであろう、脚が赤く光っている。

 今度こそ、斧で確実にその足を弾き返した……レディはそう思ったのだがまたも弾き返したはずの脚が、レディのお腹にめり込んでいた。



「かはっ……」

「おいおい、どうしたんだ?ちゃんと防がねぇとドンドンと決まっちまうぜ?ほらよっ」



 今度は再び、掌に先ほどより大きな光弾を作り、おなかを押さえて後ろへよろめいたレディへと放つ。

 今度は大きさが大きいとはいえ、さっき打ち返した光弾だ……防げないはずがない。

 そう思い、その光弾を先ほどと同じように斧で打ち返すレディ……だが……今度は先ほどと違い、気持ちのいい音がしない……そう思った次の瞬間、レディの身体に光弾が炸裂する。

 レディはその光弾を受け、その場から周りの家を破壊しながら吹き飛ばされた。






 レディが邪鬼と戦い始めた頃、領主の館では冒険者たちが館を護るために魔物と奮戦していた。

 幸い、レディがランクの高いモンスターを優先して倒していた為、今の所は冒険者たちで対応できている。そのお陰か、ほとんどの住民が領主の館へと避難を完了していた。だが……。




「お願い助けて!息子が!息子がいないの!!!」



 そんな中、助けを求める女性が一人、近くの冒険者に詰め寄っている。

 だが、冒険者もこの場を護るので精一杯なためその女性の頼みを聞けずにいる。



「お願い!お願いします!!」



 その女性の声が耳に届いたシルネアはそちらの方を向いて歩きだそうとしていた。

 だが、それを兄であるクルードは止める。



「兄さん……子供が……」

「駄目だ、今、ここを離れれば危険だ……まだ街にはランクの高いモンスターがいるだろうが」

「でも、子供が危険な目にあっているかもしれないんだよ!」

「そんなところに取り残された子が生きているとは思えねぇよ……」

「そんなのわかんないじゃない!」



 クルードもシルネアの気持ちは痛いほどわかる……状況が状況でなければクルード本人が助けに行きたいとすら思っているのだが、天秤にかけるのが妹の命となれば話は別である。

 どんな危険が待っているか分からない街にシルネアを行かせるわけにはいかない。

 見ず知らずの子供のためにシルネアを危険には晒したくないのだ。



「兄さんが止めても私は行くよ」

「あ、おい、待て!」



 だが、そんな兄の気持ちを知らず、シルネアはクルードの手を振りほどいて女性の元へと行ってしまった。



「どうしました?」

「息子が息子がいないんです!市場ではぐれて……ここに来ているかもと思ったんですけど……いないんです!きっとまだ市場に……お願いします、息子を助けてください!」

「市場ですね……解りました、私が見てきます」

「あ……ありがとうございます!」

「お、おい、シルネア!」



 クルードの呼びとめも聞かずにシルネアは走り出してしまった。

 そんな妹をクルードも追いかける。



「待てっシルネア!」

「嫌だよ!私は見捨てられない!」

「………だが、もしランクの高い魔物……いや、邪鬼が現れたらどうするんだ?」

「あはは……何言ってるの……そうなっても私が死ぬわけないじゃん……知ってるでしょ?」

「……ったく、だから心配してんだろうがっ……お前の正体がバレたらどうするつもりだ!」

「でも、子供は助けられる……それに正体がバレても逃げればいいだけだよ……でしょ?」

「……はあ、わかったよ……だけど、出来るだけバレないようにしろよ?」

「うん、わかってる」



 そう、寂しそうな表情で頷くシルネアを見てクルードはもう何も言えなくなってしまった。

 話は終わりとシルネアは再び市場に向かって走り出す。

 クルードもその後を追うように走り出した。



「くそっ……俺はお前のそんな顔を見たくねぇんだよ……」



 シルネアにも聞こえない小さな声でクルードはそう呟くのだった。

何か秘密を抱える兄妹……彼らは一体何を隠しているのだろうか?

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