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  作者: 恵樟 仁
アンダールシアの危機
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第二幕 4章 9話 ジェラーノの真意

9話になります



「大人しく降参する気はある?」

「ふざけるなっ……誰が貴様らなんぞにっ!」



 だよね……アンリエッタのお父さんだ……出来れば殺したくなかったんだけど……見逃すわけにもいかない。かといって捕らえても大人しく捕まっているわけもないだろう……なら……。


 私は持っていたバトーネに魔力を通す。



「なら……とどめを刺させてもらうよ!」

「そうはいくか!!やれ!!」



 ジェラーノ言葉が部屋に響く。

 その瞬間、私の後ろから4つの影が私に襲い掛かる。



「カモメちゃん!?」

「しまっ……!?」



 4つの影……ガリオンの仲間の狂人となった冒険者たちだ……くっ、もしかしたら元に戻せるかもと気絶にさせたのが甘かった……まさか、こんなに早く気がつくなんて!


 4人の攻撃を私は避けることは出来ない……一人二人ならバトーネで撃退できるが……ダメージ覚悟でやるしかないかっ。

 私は4人の方を振り返るとバトーネを構え、右にいる2二人をなぎ払う。魔力を通したバトーネは風の力を得てその攻撃を刃のように鋭くした。

 私の攻撃でお腹を裂かれた二人はそのまま絶命したのか、赤い粒子になり霧散する。

 だが、残りの二人は無防備な私の左側からそのまま攻撃を続行していた。

 二人の武器は槍と短剣……かなりのダメージを受けることになるだろう……キツイな。

 そう思った瞬間、二人の頭がごろりと地面に転がり、私に攻撃が届く前に赤い粒子と変わる。



「……え?」

「大丈夫?」



 私に向って攻撃をしてきた二人を斬りつけたのはクオンであった。

 彼は優しい笑顔を浮かべながら私に言葉をかける。



「クオンいつのまに!?」

「広場に投げ出された後、すぐ戻ってきたんだよ」



 すぐ?でもあれから、結構時間経っているような?



「でも、普通に合流してもジェラーノの算術でこっちの攻撃を読まれちゃうからね。気配を消して攻撃の隙を狙ってたんだ」



 あ、そうか……計算でこっちの攻撃を読まれるとしても、そもそも計算式の中に入ってなければ読まれることは無い。現にレナが来たときジェラーノは攻撃に当たっていた。

 だからクオンも気配を消して、不意打ちを仕掛けようとしてたのか……そこまで考えて私はクオンの顔をみる……別にかっこいいなとか思ったわけじゃないよ。彼のオデコがちょっと赤くなっていたのを見たのだ。あれってやっぱり……?



「クオンそのおでこ……」

「っ!?……な、なんでもないよ!」



 やっぱり、レナのゴムボールのような光の弾に当たったんだね。

 痛そう~。



「それよりも……」

「うん」



 お茶目な会話はここまでである。

 私はジェラーノを見る……私のアクアウィレスで着けた傷から赤い血が流れ出ている。

 あれだけの傷だ、邪鬼とはいえまともに戦うことは出来ないだろう。

 なら、たとえこちらの攻撃を読まれても問題ない。

 私はバトーネを構える。



「ジェラーノ……悪いけど貴方を倒すよ」

「ふ、倒せるものならやってみるがいい……だが、私はこの街の人間を殺しつくすまで決して死なん!」

「なんでよ!……なんでそんなに街の人を憎むのさ!」

「言ったであろう……我が妻を殺した罰よ……」

「殺したのは魔物でしょ!街の人達のせいじゃない!」

「いいや、あのゴミどものせいでリンリイは死んだのだ!あいつらがいなければリンリイは死ぬことはなかったのだ!」



 なんで?どうしてそう思うの?

 せっかくアンリエッタのお母さんが命を懸けて護った人たちをどうして……?



「私は憎いのだよ……最愛の妻を奪ったこの街の人間が!こいつらさえいなければ妻は死なずに済んだのにと!」



 ……………違う。

 そうか……そういうことなんだ……。



「違いますね」

「何?」



 クオンが私と同じ悲しい表情をしている。

 そうだ……クオンも同じ経験をしている……きっと、ジェラーノの気持ちがわかるんだろう。



「貴方が憎んでいるのは街の人じゃない……」

「ふざけるなっ!私はこの街の人間全てを憎んでいる!!殺してやりたいほどにな!!」

「では、この街の人間を殺した後は?」

「はっ……当然、他の街の人間も殺すまでよ……奴らも同じ人間……きっとまた誰かを殺す……その罪深き傲慢でな!」

「なら……その次は?」

「魔物どもを駆逐する……奴らも同罪よ」

「次は?」

「貴様っ、さっきから何を言いたいのだ!!」

「最後はどうするんです?誰もかれも殺した後……貴方は?」

「ハハハハっ……その時は笑って自分を殺すまでさ……それで終わりだ」



 …………。



「なんで自分を殺すんです?すべての復讐が終わったのなら自分を殺す必要はないでしょう?」

「……………いや、殺す」

「でしょうね、貴方が一番憎んでいるのは誰でもない自分なんじゃないですか?」

「……何?……知ったような口をきくな!!」



 ううん、きっとそう……私もお母さんが死んだとき……お父さんが死んだとき……何よりも悔しかったのは自分がそれを助けられなかったことだ。その時、今くらいの力があれば二人とも助けられたかもしれないのにと……悔しくて悲しくて……今でも時々そう思ってしまう。


 きっと、クオンも……だけど私にはクオンがいた……他にも護りたい人がいた。

 だから、もう誰も失わないようにと強くなった……体も……心も!



 昔お父さんが言っていた……力を得ても心が鍛えられていなければそれは暴力になると……きっとジェラーノは負けたんだ……自分の心に……だから、全てを殺そうとする。



「ジェラーノ……あなたの願いを僕が叶えてあげる……貴方を殺す」

「……ふ、ふふふふふふ……ハハハハハハハ!!」

「……?」



 いきなり笑い出すジェラーノ……何がおかしいの?



「餓鬼が解ったような口を……貴様の考えは見当違いよ!私は間違えてなどおらん!私は正しいのだ!」

「ジェラーノ……」

「気安く私の名を呼ぶな!!」



 ジェラーノが掌に赤い光球を作り出しこちらに向かって投げる。

 だが、それは見当違いの方向へと飛んでいき……一つの大きな柱にぶつかり炸裂した。



「そうだね、僕は見当違いな事を言っているかもしれない……だけど、その状態じゃ僕たちから逃げることは出来ないよ?」



 だね……まともに攻撃も出来ない状態じゃクオンから逃げるのは無理だ。



「ククククク」

「何がおかしい……?」

「っ!しまった、クオンちゃんカモメちゃん!!」



 レナが叫ぶのと同時に先ほど赤い光球が炸裂した柱が崩れ落ちた。

 そして、それが原因か、館全体が崩れ始める。



「そんな、柱一本で!?」

「一本ではない……貴様にけしかけた4人……お前に攻撃をする前にも命令を下していたのだ」



 まさか、ここに来る前に他の主要な柱を壊してきたって言うの?



「私の計算通りだ……最後にその柱を崩せばこの館は崩壊する」

「館を壊せば逃げられると思っているの!」

「ああ、なぜなら貴様らは人助けで手一杯だろうからな」

「どういうこと!?」

「あらかじめ地下にここの使用人を一人、閉じ込めておいたのさ……果たして貴様らの仲間は無事に見つけて脱出させられたかな?」



 なっ!?

 それを聞いた私達は急いで、地下へと向かう。

 その姿を楽しそうに見ているジェラーノの姿がムカつくが……彼の言う通り、今彼を攻撃していては間に合わなくなるだろう……いや、ジェラーノが得意の算術のスキルで倒壊までの時間を調整したのだろう……くう……全部相手の計算通りか……ジェラーノを逃がすのは危険だけどだからと言って見捨てるわけにはいかないよ……。



「ふん……気に入らない連中だ」


 私達が地下へと向かったのを見たジェラーノはそう言うと、その場から姿を消した。

 私達は、地下への階段を降り、その先にあった扉を開くと、眠らされて転がされている一人のメイドを見つける……よかった、息はあるみたい。

 その子を担いで館の外へ出ると、丁度、館が完全に崩れてしまった。

 その館跡にジェラーノの姿はもうない……危険な相手を取り逃がしてしまったのかもしれない。

 私は、崩れた館を見ながら不安な気持ちを抱いていたのだった。

ジェラーノを取り逃がしてしまったカモメ達。

危険な敵が増えていく中、カモメはどうこれを切り抜けていくのだろうか?

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