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  作者: 恵樟 仁
アンダールシアの危機
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第二幕 5章 3話 魔物襲来

3話になります



「様子が変ねぇん……」



 門の方が騒がしくなっていることに気づいたレディは、辺りをキョロキョロと見回すと、一人の兵士を捕まえる。レディの強面……いや、少々普通の女性より威圧力のある顔に兵士は最初、怯えたがレディに門で何があったのかを問われると、怯えながらも正確に伝えていった。



「何てことなのぉん……買い物に出てたから連絡が来なかったのねぇん……王様たち無事かしらん?」



 情報を聞いたレディは、一目散に門の方へと走り出す、だが、すでに遅かったようで門は轟音を上げながらその姿を崩していくのであった。



「街の人間は今すぐ、領主の館へ逃げろ!!死にたくなければ急げ!!」



 恐らくフィルディナンドの兵であろう。兵士姿の男が街に行き交う人々を領主の館へと移動させようとする。だが、すでに門が崩れている状況で街の人間が混乱しないわけがない。何が起きているのか理解できず、おろおろと戸惑う人間、恐怖に負け泣き叫ぶ人間……理由を問い詰めようと兵士に詰め寄る人間など兵士の言うことを聞いてすぐに領主の館へと逃げ出す人は半分ほどであった。


 このままでは街に甚大な被害が出てしまう。

 レディは背負っていた斧を引き抜くと、それを地面へと力いっぱい叩き込む。

 地面はレディの渾身の一撃を受け、砕けて割れて、そして抉られる。

 そのあまりの威力に、周りで叫び逃げ惑っていた人間の動きが止まったのだった。



「聞きなさぁい!この国には戦える人間がいっぱいいるわぁん!襲ってきたのはただの魔物!私達が後れを取ることはないわぁん!でも、数が多くてみんなを守るには一か所に集まってもらわないといけないのぉん!だから、兵士ちゃんの言うことを聞いて領主ちゃんの館に移動してちょうだぁい!」



 レディはその体をいかした大声で街の人間へと語りかける。

 レディの突飛な行動により冷静さを取り戻した街の人は、その言葉を聞いて領主の館へと走る。

 だがそれでも、未だに信じきれず兵士に詰め寄る人間もいる。



「今は魔女がいないんだろ!本当に守れるのかよ!」

「とにかく、今は領主の館へ!」



 兵士は必ず守るとは言えない、敵の数は凄まじく、仮に負けることが無いとしても、全ての魔物を倒すことが出来るとは限らないのだ……いや、現に門が崩れ落ちたという事は王たちはすべての魔物を抑えることが出来なかったという事だ……そして、こうやって問答している間にも……




「きゃあああああ!魔物よ……魔物が来たわ!!」



 そう、魔物は近づいて生きているのだ……。



「お、おい、守ってくれるんだよな!な!」

「……」

「なんか言えよぉ!!」



 こちらに向かってくる魔物の数は10体……中にはハイオークの姿も見える。

 自分では勝ち目がない敵に兵士も言葉を失ってしまっていた。



「嫌だ、死にたくねぇよぉ!」



 街の人がそれぞれ叫びをあげる、それも仕方がない、もうすぐ目の前にまで魔物たちは近づいていたのだ……だが……その次の瞬間、魔物たちの上半身が一瞬にして千切れ飛んだ。



「……へ?」

「レ、レディ殿……」



 兵士はフィルディナンドの部下だったようで、襲ってきた魔物の上半身を吹き飛ばした斧を持つ女性の名前を知っていた。彼女は背中に担いでいたウォーアクスを握るとそのひと振りで魔物を一掃してしまったのだ。



「魔物の数は多いんでしょぉん?私が抑えるからぁん、貴方達は早う街の人の避難をお願いねぇん♪」

「は、はいっ!……さあ、早く領主の館へ!あの方がいれば大丈夫だ!」

「ひ、ひぃいいい」


 

 目の前に魔物の脅威を見せられ、もう詰め寄るだけの余裕もなくなったのか悲鳴を上げながら残っていた街の人間も領主の館へと移動した。

 それを見たレディは、ウォーアクスを持ち直すと、再び現れた魔物たちをまたも一振りで全滅させる。



「二万の大群ねぇ……やっぱり、裏がありそうよねぇん」



 そう呟くとレディは門の方向へではなく、領主の館の方へと足を進めた。

 もし、何か理由があるとすれば魔物は囮の可能性もある……フィルディナンドたちの方はすべてを抑えられないまでも死ぬという事はないだろう……なら、自分は領主の館へ向かった方がいい……そう判断したのだ。





==============



「兄さん……一体何が起きてるの?」

「わかんねぇ……でも、門が壊れたのは間違いないぜ?」



 シルネアとクルードはレディと別れた後、冒険者ギルドへと向かう途中であった。

 だが、ギルドに着く前に門が崩れ落ちるという異常事態が起きたのだ。

 そして、門の近くの方から悲鳴などが聞こえてくる……これはただ事ではないだろう。



「一体何が起きやがんだ?」

「皆、領主の館の方へと逃げていくみたい……」

「ちと聞いてみるか……おい、何があった?」



 クルードは走って逃げる男性を片手で掴み上げると問う。

 


「は、放せよ!魔物が来ちまうだろうがよ!」



 クルードに捕まった男は必死にもがきそう言うと、クルードの手をはねのけて再び走り出した。



「魔物?……ってことはつまり」

「魔物が攻めてきたってことかな……それも普通じゃないみたい」

「ちっ、逃げるぞ」

「駄目よ、私達は冒険者だよ……街の人を護らないと!」



 妹第一の男なクルードはとにかく妹を危ない目には合わせたくない……だが、そんな兄の心配を知らず、妹は街の人間を救いたいという。



「馬鹿野郎、力を抑えた状態で魔物の大群なんて相手に出来るわけないだろう」

「大群って言っても所詮は魔物の群れじゃない……統制が取れていないなら何とかなるよ!」

「いや、ならねぇよっ……あの魔女の嬢ちゃんも今はいねぇし……この街は終わりだろ!」

「カモメさんがいないなら私達が護らないと!私は人を護りたい!」



 全く引く気のない妹にクルードは頭を悩ませる。

 元々、自分たちがここにいるのは確かに人の役に立ちたいと願ったからだ……自分たちの生まれを嫌い、少しでも人のために生きたいと願ったからである……だが……。



「私はカモメさんみたいになりたい……その為にもここで逃げたくないの……」

「けどよぉ……お前下手したら……」

「大丈夫だよ……絶対大丈夫……」



 根拠のないその言葉をクルードは信じきれない……いや、妹を信じられない訳では無い……だが、リスクが高すぎるのだ……しかし、妹大好きなお兄ちゃんであるクルードは妹の願いを聞かないという選択肢が初めからなかった。



「解った……けど、無理はするな?何より自分を大切にしろよ?自分も護れねぇ奴が他の奴を護ろうとしたって良いことないぞ?」

「うん!ありがとう兄さん!」



 つくづく自分は妹に甘い……だが、こんな妹だからこそ自分は妹が大好きなのだ……ならば、この妹を護ろう……この子の命も、そして志も……自分の命を懸けて……。


 そう誓い、クルードはシルネアと共に走り出すのだった。

街を護るために奮戦する者たち、カモメがいないこの状況で果たして街は護れるのだろうか?

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