第二幕 5章 2話 フレンズ
2話になります
「フィルディナンド王!」
「おお、コハクにリーナ……来てくれたか!……ん?レディはどうした?」
「すみません、市場に買い物に行ってしまっていて伝言は頼んだのですが……」
「そうか……いや、仕方あるまい。それに騒ぎを聞けばこちらに来てくれるだろう……それより……」
フィルディナンドはコハク達から視線を外すと、街へと向かってくる魔物たちに再び目を向ける。
その魔物たちの光景を見て、コハクとリーナが息を呑んだ。
「すごい数……ですね……さすがにこれは……」
「ああ……我々だけで街を護ることは不可能だろう」
「何言ってやがる!アタシらで護るしかないんだろ?だったらやるだけだよ!」
獣の耳と尻尾を振りながら、ララ王女がやってきた。
「ララ王女……ですが、あなた方の戦力が加わっても街を護り切るには数が足りません」
正直、自分たちが生き残るだけであればそれ程難しくは何のかもしれない。
確かに強力な魔物もいるが、生き延びることに全力なれば何とかはなる……ただし、それはこの街を見捨てた場合になるだろう。この街を護るとなればそう簡単にはいかないのだ…‥生き延びるのであれば敵に囲まれないよう撤退を繰り返しながら敵の数を減らしていき、魔女殿達と合流を図ればいい。
だが、街を護るとなれば撤退は出来ない……そして移動ができないということは簡単に包囲されてしまうという事だ。そうなれば後は時間の問題だろう……せめて、もう少し戦力があれば……。
「一応、親父に援軍の使者はだしたが……まあ、間に合わねぇだろうな」
そうなる……すでに目の前に敵が迫ってきている……そしてここは街だ……砦であれば籠城という作戦もとれるが、街では無理であろう……一応壁はあるが、壁の上に兵を構えられるスペースがあるのはこの門の上くらいである。あとは人一人がやっと立てるくらいの幅しかない。それでは籠城なんて出来るはずもないだろう……。となればこちらも外に出て迎え撃つしかないのだが……あの数ではすべてを受けきれるわけがない……そして逃した魔物は街へと侵入することになる……。
「おい、街の人間を領主の館に今すぐ避難させろ!そして、メリッサの親衛隊に護らせろ!……残りは俺と共に外へ出るぞ!」
「まあ、それしかないわな」
「解りました」
フィルディナンドの指示に、兵士とコハク、そしてララ王女も頷く。
策も何もない、すでに詰みの状態であるこの状況ではもうそれくらいしか打つ手がないのである。
あと持てる希望があるとすれば、レディの他にレディ並みの戦闘力を持つ人間がこの街に隠れているか……どこかから奇跡的に援軍がくるか……もしくは、都合よく魔女殿達が戻ってくることに期待するしかないだろう。……そんなもの奇跡でも起きなければ無理だろうがな。
だがそれでも、そのわずかな希望に縋るしかないと自分で自分に皮肉を言いながら笑うフィルディナンドだが、一辺、真面目な顔つきへと変わり、兵たちに号令を下すのであった。
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時間が少し戻り、ラリアスの市場に買い物に来ていたレディは、夕飯に使う材料を探しながら、市場を物色していた。今日は魚が安いらしく、煮つけにでもしようかと考えている。
だが、育ち盛りのコハクやリーナがいる為、出来ることならもう少し栄養のあるものも添えたいのだ……煮つけに添えるとしたら何がいいだろうか?濃い味の煮つけだ……それならあっさりしたものがいいだろう……いっそデザートに果物でもつけるか?……そんなことを考えながら品物に目を奪われ歩いていると、前方をちゃんと見ていなかったのか、何かにぶつかってしまった。
ぶつかった相手は可愛らしい悲鳴を上げると地面に尻餅をついていた……あらぁん、やっちゃたわねぇん。
「ごめんなさぁい、ちょっとよそ見をしていたわぁん」
「あ、いえ、私の方もよそ見をしていたので……」
緑の髪の毛を長いポニーテールにしていたその可愛らしい少女は、愛想のある笑顔をレディへと向けてる。その笑顔を見ていい子だわぁんと思っていたレディだが、そのレディの胸ぐらを誰かがいきなり掴み上げた。
「おい、俺の妹が怪我したらどうするつもりだ!このババァ!」
「ちょ、兄さん!私もよそ見してたんだから!」
「何言ってやがる、よそ見してたって、お前は歩いてすらいなかっただろうが!立ち止まって品物見てるやつが悪いわけあるか!!」
おや、どうやら、よそ見をしていたというのは妹ちゃんのほうが私に気を使って行ってくれたみたいねぇん……本当に良い子ねぇん……でもねぇん。
「って、うお……ちょっ!?」
胸ぐらをつかんでいた兄はいつの間にか頭を片手で鷲掴みにされ、足が地面から離れていた。
「だぁれが……ババアですてぇえええええええん!」
まるで魔物ように目を光らせ、魔物のような表情と威圧ですぐにでも兄を食べてしまうのではないかと錯覚させるほどの迫力を持つレディに、兄はひぃえええ!?と情けない叫び声をあげる。
「す、すみません……兄が失礼なことを言っちゃって……あの、申し訳ありません」
何も悪いことをしていない妹の方が頭を下げてレディに謝る。
その姿を見て血の上った頭を急速に冷ましたレディは、今度は慌てて謝り返す。
「いやぁん、私の方こそごめんなさいねぇん……妹ちゃんにぶつかったのは私なのにぃん」
「い、いえ、怪我もしてませんし……こちらこそ兄がごめんなさい」
「いいのよぉん、悪いのは私だものぉん」
そう言って私が手を離すと、どすんと尻から兄が地面に落ちる。
どうやら、掴んでいた手にかなり力を入れていたみたいで兄は泡を吹いて気絶していた。
「あ、あらぁん……やりすぎちゃったかしらぁん」
「いえ、兄にはいい薬です……これを機に少しは言葉遣いを学んでほしいです」
「うふふ、お兄さん思いなのねぇん」
「い、いえ、そんなことは……」
「気に入っちゃったわぁん、良かったらお友達にならなぁい?」
「え、あ……はあ、それは構いませんが……」
何の脈絡もなく友達になろうと言われ、ちょっと戸惑いながらも返事をする妹。
だけど、ノーではないその返事にレディは嬉しく声を弾ませた。
「嬉しいわぁん、帰ったらカモメちゃんにもお知らせしましょう♪」
「え、カモメさん?……カモメさんって闇の魔女のカモメさんですか?」
「ええ、そうよぉん♪もしかして、カモメちゃんの知り合い?」
「え、ええ……以前助けていただいたことがありまして」
「あらぁ、偶然ね……私はレディって言うの、カモメちゃんは私の初めての友達よぉん♪」
「そうなんですか……私はシルネアって言います、こっちの兄はクルード……冒険者をやっています」
丁寧に答えたシルネアを見て、レディはにっこりと微笑み手を差し出す。
それに、シルネアは答え……手を差し出した。
そして握手を交わすのだが……その時、レディは彼女の手についている指輪に気づいた。
「あら?その指輪……」
「え……あっ」
シルネアもレディの手を見てその手に指輪を嵌めていることに気づく。
装飾こそ違うもののお互いの指輪の力を理解したのだろう。
「す、すみません……私達もう行きますね」
「あらぁん、もう行っちゃうの?残念だわぁん……もっと話したかったのにぃん」
「すみません……その……この指輪の事カモメさんには……」
「解ったわぁん……でも、貴方がどんな姿でもカモメちゃんは気にしないと思うけどぉん?」
「………すみません」
そう言うと、シルネアはクルードを引きずりながらその場を後にした。
あの指輪は装飾こそ違えど、レディのつけている指輪と同じ効力を持つものだった。
つまり、シルネアとクルードはその姿を偽っているのだ……なぜそのような必要があるのか解らないが、本人たちが知られたくないと思っているのであればあえて口に出す必要もないだろう。
カモメちゃん達がそんなこと気にするとは思えない。
レディは新たな友達が出来たことを喜び、買い物を続けようと足を出した……だが……ふと門のほうが騒がしいことに気づいたのだった。
街で買い物をしていたレディは魔物の接近に気づくのが遅れてしまう。
果たしてこのピンチをラリアスは乗り切ることができるのだろうか?