表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 恵樟 仁
アンダールシアの危機
3/29

第二幕 4勝 55話 約束

55話になります。


「んっ……」



 夢の中から戻ってきた私は、瞼の向こう側から照り付ける眩しい光に意識を引っ張られ、覚醒する。

 


「日の光……」



 白の傭兵団との戦いは長く、ドーガ様を探していたときにはすでに夕方となっていたはずである……だが、私の顔を照らしているのは間違いなく朝日であろう。

 どれくらい眠っていたのか……夢の中でドーガ様と話していたのはそれ程長い時間じゃなかった筈だ……いや、そもそもあれは本当の事なのだろうか?夢の中にドーガ様の魂が現れ私に力を与えてくれるなんて……そう思った私だったが……それが杞憂であるのはすぐに分かった。



「これが……女神の祝福……ドーガ様が私に与えてくれた力……」



 正直……驚きの一言である。

 自分の中から力が溢れているような……まるで自分の身体じゃないかのような感覚に戸惑いを隠せないでいる。魔力も以前の比ではない……以前の倍……いや三倍以上ありそうである。

 これなら……私も邪鬼相手に戦うことが出来るかも……そう思った……そして、心の中でドーガ様が私を応援してくれている……そう思えもした。



「ありがとうございます……ドーガ様……約束、必ず守りますからね」



 私は胸に手を置き、夢の中で交わした約束を必ず守ると心に決めた。

 私が、夢の中での出来事を考えていると、扉をコンコンとノックする音が聞こえる。

 そして、ノックから少しして、扉が開かれた……入ってきたのは闇の魔女と言われる女性で、私の師とも呼べる存在である。



「メリッサ……よかった、目を覚ましたんだね」

「カモメ様……はい、今しがた……私はどれくらい寝ていたんでしょう」

「一晩だよ……目が覚めて良かったよ……急に倒れたって聞いたから驚いたんだよ?」

「心配をかけてすみません……それでここは?」

「ローランシア城のドーガの部屋だよ……なんとなくここに寝かせるのがいいような気がして……変だよね」



 そう言って、カモメ様は後ろ頭を掻きながらバツの悪そうな顔をした。

 もしかしたら、カモメ様は気づいているのかもしれません……やはり、話しておくべきでしょう。



「カモメ様……お話があります」

「うん……」



 私がそう言うと、カモメ様は真剣な顔で頷いてくれました。

 そして、私は夢の中で起きたことを出来るだけ正確に伝えました……ドーガ様が私の事を好いていたということ以外……ええ、恥ずかしくて言えませんでしたもん。



「そっか……シグレにドーガの天啓スキルが『女神の祝福』だと聞いてもしかしたらと思ったけど……そっか、女神の祝福ってそう言う能力だったんだね」

「そのスキルを知っていらしたんですか?」

「うん、私もね……このお城で気を失った時に一人の女性に会ったんだよ……」



 そう言ってカモメ様はその時の事を話してくださいました……災厄の魔女がツバサという事……そして、そのツバサを止めようとした親友のココアという女性の事……その女性が女神の祝福のスキルを持っていたこと……ですがその方はカモメ様に力を渡したわけでは無かったようです……きっとまだツバサさんを諦めていないのでしょう……。


 そして、ツバサを災厄の魔女に仕立て上げたのがジーニアスであること……この事実が一番堪えました……そして、あの男の狙いは邪神の復活にあるということ……なぜそのような事を望んでいるのか……それは解りませんが……あの男を野放しには出来ません。



「それで、ドーガからもらった力はどんな感じなの?」

「まだ、試してないのでわかりませんが身体能力も魔力も以前とは比べ物にならないくらい向上していると思います」

「へー、じゃあラリアスに帰ったら久しぶりに訓練しよっか♪新生メリッサの力、見せてほしいな」

「は、はいっ……ところで私が倒れた後はどうなったんですか?」



 私が聞くと、カモメ様は暗い顔をして言いにくそうにしたが……やがて口を開いてあの後の事を話し始めてくれた。

 ドーガ様が死んだことでシグレ様もクダン様も気を落としてしまった……いや、お二人だけではありません、ローランシアの生き残った民達も希望を失ってしまっているようです。

 仕方ありません……希望であったドーガ様を亡くしてしまったのですから……。



「あの、カモメ様……ローランシアの方々は今どこに?」

「ドーガのお墓を作ったはずだから、今なきっとそこにいると思うよ」

「解りました……行ってみます」



 行かなきゃ……ドーガ様に託されたんだ……ローランシアの人達をこのままにはしておけない。

 方法なんて全然考えていないけど……それでも行かなきゃいけません。

 私は、部屋から出るとカモメ様の案内でドーガ様のお墓までやってきました。

 そこにはローランシアの人達がある人は大声で泣き、ある人は声を殺して泣いていました……。

 どの方の眼にも絶望の色が出ています……。



「………」

「メリッサ……無理しなくていいんだよ?」



 カモメ様は私に気を使って優しく声を掛けてくださいました。

 確かにこんな状況で私は何も思いつきません……何も出来ません……きっと今までだったらそうだったでしょう……なのに……私の中にいるドーガ様が怒ったのでしょうか……私はその光景を見て一瞬にして頭に血が上ってしまいました……今まで生きてきた中でこんなこと一回たりともなかったのに……恐らく、ドーガ様の心が私の中に入ってきたことでドーガ様の想いも私は理解してしまった……だから、自分の国民の子の姿を見て思わず口を開いてしまったのです。



「大バカ者どもが!!俺が死んだからと何を下を向いている!お前たちの目標はなんだ!!ローランシアの復興ではないのか!!俺一人が死んだからと言ってローランシアが完全に滅びたわけでは無かろう!!」

「メ、メリッサ!?」



 いきなり大声を出した私にカモメ様だけではなくローランシアの人達も驚いております……当然でしょう……言った本人である私も驚いておりますもの……でも、言わずにはいられなかったのです。



「そう……ドーガ様なら言うのではありませんか?」

「なっ……ふざけるな!ローランシアの民でもないアンタが俺たちの気持ちなんて解るわけないだろ!!」



 国民の一人が声を荒げてそう言ってきました……確かに、私にローランシアの民の心は解りません……ドーガ様の気持ちがわかっても国民の気持ちは解らないのです……ですが……。



「では、このまま泣き寝入りをしてレンシアに滅ぼされますか?それではドーガ様はさぞ無念でしょう……いいえ、きっとドーガ様は自分の無力を嘆きます……自分が無能の王だった為に国民を救えなかったのだと……」



 私がそう言った瞬間、私の隣に殺気を持った者が近づいてきました。



「取り消しなさい……アンダールシアの姫とはいえ、我が主を侮辱することは許しません」



 シグレ様です……シグレ様なら当然こういう反応をしますよね……本当にドーガ様は愛されております。

 少しうらやましいです。



「いいえ、取り消しません……私がそれを取り消せばさっき言ったことが本当になってしまう……あなた方の王子が本当に無能の王になってしまう」

「貴様っ」

「いい加減目を覚ましなさい!」



 シグレ様が刀に力を籠め私の首を撥ねようとしましたが、私はシグレ様の腕を掴みそれを止めます。



「なっ……馬鹿なっ……なんて力だ」

「あなた方の王はドーガ王子は絶望的な状況で貴方達のように下を向き、泣くことしかしなかったのですか!」

「ふざけるなっ……あの方は……下を向く俺たちを激励して……いつも前を向かせてくれた!」

「そうでしょう……ですが貴方達はあの方に恐怖や迷いがなかったと思うのですか?」

「っ………」



 シグレ様の力が弱まります……私はシグレ様から手を離し、一歩前に出ました。



「違います、あの方だって怖かった……迷った……でもそれでも大切な家族を……貴方達を護るために自分を奮い立たせていたのです……貴方達はそんな彼を間近で見ていたのではないのですか!」

「……王子……」

「その貴方達が王子を失い、またも絶望に負けるのですか!……貴方達以外……誰がドーガ様の心を引き継ぐというのですか!!」

「っ!……俺たちが……」



 全員に戸惑いが溢れます……目に力が戻ってきていますね……あと少し……。



「メリッサ姫の言う通りです」

「ク、クダン様!?」

「王子を殺した者の好きになど私が絶対にさせません……そして、王子の願いであったローランシアの再興も必ずや……成し遂げます……皆さんは違うのですか?」

「ち、違わねぇ!俺だって王子無念を晴らしてやりてぇ!」

「私だって!」



 自分も自分もと……ローランシアの民たちの眼に力が戻りました。

 どうやら、クダン様だけは元からそのつもりだったみたいですね……上手く利用されてしまいました。まったく、敵いませんねクダンには……なんて、ドーガ様なら言うのかもしれませんね。



「アンダールシアの姫……ありがとうございます……貴方のお陰で我々は目標を見失わずに済んだ……それで一つお願いがあります」

「なんでしょう?」

「ローランシアの復興に貴方の力を借りたいのです……城と町は取り戻しましたが今のままでは復興させるには厳しい……貴方が国を取り戻したその時……ぜひ支援をしていただきたいのです」

「解りました」



 ありがとうございますとクダン様は頭を下げます……私が断らないと解っていたのに役者ですわね。ですが、こうやって皆の前で約束させることで皆のやる気をさらに上げさせたのでしょう。



「シグレ、解ったでしょう……その方はドーガ様を侮辱などしていない……むしろ我々よりドーガ様の事を思いやってくれたのです」

「う……申し訳……ありませんでした」

「いいのです……それだけ貴方はドーガ様の事が好きだったという事でしょう?謝ることなんてありません……そうだ、私もドーガ様のお墓に手を合わせてもいいでしょうか?」

「は、はいっ」



 私はシグレさんに引かれて、ドーガ様のお墓の前に行き、手を合わせました。

 ドーガ様、改めて約束いたします……貴方の家族は必ず私が護って見せます……見ていてくださいね。


心に約束をし、新たな力を得たメリッサ。

人間的にも一回り大きくなった彼女に、カモメは頼もしさを感じていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ