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  作者: 恵樟 仁
アンダールシアの危機
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第二幕 5章 26話 女神の使者

26話になります。


 クルードの後に続き、7階へと降りてきた私たちは、先ほどまでと変わらない大きな部屋へとやってきた。



「7階……順当に考えればランクSSの魔物ってことになるよね」



 さっきの階はランクSのドラゴンだった。

 ここまではずっと一つずつランクが上がってきていたのだ……となればランクSSの魔物に間違いないだろう……ランクSSというとエンシェントドラゴンやゴールドドラゴンだろうか?……どっちにしても強敵である、その上強化されているとなれば、さすがの私もちょっとやばいかもしれない。



「魔女の嬢ちゃん、どうもちょっと様子が違うみたいだぜ?」



 クルードが親指を部屋の真ん中へ向け指さす。

 私はクルードの指の指し示すほうへと視線を移す……そこには一人の少女が立っていた。



「……え?」



 その少女の姿を見た私は、首を後ろへとむける。



「どういう……ことですか?」



 私の後ろにいた少女は驚きの表情を浮かべたまま、部屋の中心を見つめていた。

 無理もない、その姿は自分と瓜二つだったのだから……。



「あれって……メリッサさん?」



 そう、部屋の中央に立っている少女はメリッサと瓜二つなのだ……髪の色も瞳の色も……持っている武器でさえ……。



「どういう……こと?」



 私は唯々、困惑した……いや、私だけじゃないだろう。クルードもシルネアもそして、もちろんメリッサも……。



「ふふふ……どうしたんです?皆さんそんなに驚いたような顔をして?」

「なっ……しゃべりやがったぞあいつ!?」



 驚いた……見かけだけでなく声もメリッサとそっくりということにも驚いたが、今までのボスはまるで狂ったように呻り散らすだけだったのだが……部屋の真ん中にいるメリッサと同じ姿の少女は間違いなくこちらと会話をしている……。



「あなたは一体誰なんです!!」



 メリッサが叫ぶ……その声には驚きと戸惑い……そして恐怖の色が見て取れた。

 無理もない、こんなダンジョンの奥深く……それも先ほどまでの階ではモンスターがいたその場所に自分と同じ姿の少女が立っているのだから。



「誰って、決まっているじゃありませんか……私はメリッサ……あなたと同じメリッサですよ?」

「なっ……ふざけないでください!メリッサは私一人です!……あなたが私の訳がありません!」

「そうですね……私はあなたとは違う……だって私は女神さまに祝福を受けているのですもの!」



 女神に祝福を受けた?……それって、このダンジョンの一番奥にいるっていう女神のこと?

 なんで、その女神が祝福を?……いや、そもそも、なんでボスモンスターの代わりにメリッサと同じ姿の少女が?……どういうこと?全然わかんないんだけど!?



「あら、カモメ様……全然わからないって顔をしていますね?」

「うん……全然わからないよ……なんで、あなたはメリッサと同じ姿をしているの?」

「それは簡単です、そこにいる出来損ないの私は女神さまに見限られたのです……だから、女神さまは私をお作りになったのです」



 女神が作った?……女神がメリッサを作ったっていうこと?……確かにこの大陸の人間は女神が創造したものだ……でも個人個人を作っているわけじゃないと思うんだけど……でも、現に目の前にメリッサと同じ姿の少女がいるし……。



「メリッサさんが出来損ないってどういうことですか!」

「邪鬼ごときが気安く話しかけないで欲しいですね……まあ、いいです。そこの出来損ないは女神さまの意思に反しているんです……まあ、それはあなた達、邪鬼二人もですけどね」

「どういうことだ?」


 その言葉にクルードが噛みつく……女神の意思に反している?でも、メリッサはドーガから女神の祝福という力を受け継いでいるはずだ……祝福を持っているのに意思に反している……矛盾してない?……いや、していないのかな?



「それは単にカモメ様と一緒にいるからです」

「うぇっ……私!?」



 いきなり、視線が私に集中して、しどろもどろになる。

 なんで、私?……私なにか、悪いことしたかな!?



「カモメ様と一緒にいるとどうして女神の意思に反することになるんですか?」

「そうです、カモメさんは悪い人ではありません!どうして女神の反感を買うことになるんですか?」



 シルネアとメリッサが私をフォローしてくれる。



「だって、カモメ様はこの大陸の人間じゃないですから……ほかの女神が創造した人間なんてこの大陸にいらないんです」



 ……なるほど。合点がいった……つまりこのダンジョンの奥にいる女神は自分が創造したものじゃない私がこの大陸にいること自体気に入らないのだ……そして、その私と一緒にいるメリッサたちを出来損ないと呼んでいる……と。



「この大陸の人間じゃないカモメ様と一緒にいることがどうして女神様の意思に背くことになるんですか?……意味が分かりません」

「分からないですか?……本当に出来損ないですね……カモメ様は女神さまにとってイレギュラーな存在なのです……つまり、邪魔なんですよ」



 そこまで言うか……でも、私自身、この大陸にいる女神の邪魔をした覚えはないんだけど……。いや、もしかして……?



「カモメ様が邪魔なんてそんなことありません!だって、カモメ様は私を助けてくれました!レンシアに乗っ取られたアンダールシアを救ってくれると約束もしてくれました!邪鬼と何度も戦い人々を救ってくれています!そんなカモメ様が邪魔になるなんてことがあるわけありません!」

「だーかーらー、それが邪魔なんです……邪鬼だって女神さまが創造したものなんですよ?」



 ……やっぱり、そういうことだよね。



「え……なっ……それって」

「やーっとわかりましたか?レンシアがアンダールシアを襲うことは女神様もご存じのこと……あれは我々人間への試練なのです」

「そんな……そんなっ!」

「まあ、よくわからない災厄の魔女とかいうのも出てきちゃってたみたいですけど……そんな細かいことを気にしてても仕方ありませんしね」



 そんな適当な……あの災厄の魔女の中には邪神が封印されているっていうのに……。



「災厄の魔女が細かいことって……レンシアの邪鬼たちはあの子の中にいる邪神の復活を狙っているんでしょ!」

「……邪神?なんですかそれは?」



 ……え?

 いや、だってココアに見せてもらった過去でそう言われてたよね……。

 災厄の魔女であるツバサだって、私と戦っているときに何かとしゃべっている感じだったし……。



「邪神なんて、そんなのいるわけないじゃないですか?」

「いや、そんなことないと思うけど……?」

「まあ、私が知らないだけかもしれませんね……まだ私、生まれたばかりですし……女神様ならきっと何か考えているのかもしれません」

「生まれたばかり……?」



 つまり、本当にこの子は女神がこの短時間のうちに作った存在ということなのだろうか……。

 私が邪魔だから……それだけの為にメリッサを出来損ない扱いして、その代わりを作った……ふざけてる。



「まあ、いいです……とにかく、あなた達にはここで死んでもらいますね」



 ニッコリとメリッサと同じ優しい笑顔をこちらへと向ける少女……。そして、彼女が脇にさしていた剣を抜くと、その剣はメリッサと同じ、刀身のない剣だった。



「嬢ちゃん、悪いけど……あんたと同じ顔のあの嬢ちゃん殺すしかないみたいだぜ?」



 ぐっ……そうなるよね……すごくやりにくい……まるでメリッサを殺すみたいで……。



「………」

「メリッサ?」



 メリッサが下を向いたまま何も言わない……やっぱり、自分と同じ顔の敵と戦うのは嫌なのかな?



「……ま……た」

「…え?」



 ボソボソとメリッサが何かを言っている。

 よく聞き取れなかったけど、次第にメリッサの方が震えだした。



「あったま来ました!!!よくも私の恩人のカモメ様を邪魔だ等と……あなたも女神も許せません!!」



 頭を上げたメリッサの瞳には怒りの炎が色濃く燃えていた。

 こんなに怒っているメリッサ見たことないよ!?



「皆さん、手出し無用でお願いします……あの紛い物は私が倒します!!」

「ま、紛い物ですって!?……言うに事欠いて……出来損ないの分際で!」


 メリッサは柄だけの剣を抜くと、少女に向かって歩き出した……その体の周りには怒りが溢れているようにさえ見える魔力を纏いながら……。



「メ、メリッサ……」

「カモメ様……ここは私に任せてください……ここはまだ7階……まだ3つも下の階層は残っております……そして、私を抜いた皆さんの数も……」



 ……メリッサに言われて私も気づく……そうか……この階にメリッサと同じ姿の少女がいたということは……。



「恐らく、この下の階に待っているのは皆さんの紛い物かと……ならば、下の階で私は足手まといにしかなりません……それに……この紛い物を倒せば私は今よりもっと強くなれる……そんな気がするのです」



 確かに、おそらくこの少女は女神から強化をされているのだろう……その上、今までの魔物と違って正気も失っていない……となれば、確実にメリッサよりも強いということになる……。



「勝つ自信があるの?」

「勝ちます!」

「……わかった、メリッサを信じるよ」



 私は一歩後ろへと下がった……そんな私を見てクルードは「いいのか?」と問いかけてくる。

 もちろん私だって、不安はある……でも、メリッサが勝つといったんだ……信じてあげなきゃ嘘だよね。


 私は、クルードに頷いて返した。それを見たクルードは持っていた槍を収め、地面に座ってしまう。

 シルネアも不安そうな顔をしていたが、兄のその姿を見て一度ため息を吐いたのちに、私の隣へと移動してきた。



「皆さん、ありがとうございます」

「がんばれ、メリッサ!」



 私たちは完全に観戦ムードである。それが気に入らなかったのか、少女は眉間に皺を寄せた。



「……後悔させてあげます」

「こっちこそです」



 メリッサと少女は睨みあった。

カモメたちの前に立ちはだかったメリッサと瓜二つの少女。

メリッサは自分を見事に倒すことができるのだろうか?

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