第二幕 5章 22話 魔女の力
22話になります。
「さて、次はどんな魔物が来るのかな♪」
私達は4階の部屋へと続く扉を潜る。
扉を潜っているのだから1階のままなんじゃ…とも思うけど、どうやら扉を潜ると一つ下の階へとワープする仕組みになっているらしい。そのせいか扉を潜ってすぐ後ろを振り向くとそこには何もなくただ、壁があるだけである。
「次の相手はアイツみたいだぜ?」
「ググルルルルゥ」
案の定、今までの敵と同じくその一つしかない目が血走っており、普通の状態ではない。
「サイコロプスか……」
「サイクロプスよ、兄さん」
サイクロプス、一つ目の巨人の魔物でその凶暴さはオーガ並み、そしてその怪力はオーガをもしのぐと言われる怪物である。ランクで言えばオークキングと同じBランクであるが、オークキングはその率いる魔物を加味してのランクである。だが、サイクロプスは単体でBランクの位置づけに来るほどの脅威を持つのだ。
とはいえ、私にとってはBランクはそれ程怖い相手ではない……普通なら。
「あの眼の血走り方からいってもやっぱり強化されてるよね」
「だろうな……しかも普通じゃない強化の仕方だろう」
もし、オークキングと戦った時の私の予想が当たっているのであれば、この魔物もなんかしらの天啓スキルみたいなものを持っているのかもしれない。いや、最初のコボルトキングやゴブリンキングも何かしらのスキルを持っていたのかも……メリッサが強かったから脅威にならないだけで普通のコボルトキングやゴブリンキングではなかったのかもしれない。
「とりあえず、殴ってみよっかな」
ここで相手を観察しても、私には何のスキルを持っているか突き止めるのは無理だろう。
クオンやエリンシア程の観察眼を持っているわけでもないし、ディータ程の知識も私にはないのだから……なら、どうやって確認するか……簡単である、とりあえずぶん殴る!
戦っていればその内、分かるでしょ!
私はバトーネを握ると、猛然とサイクロプスへ突進した。
「てりゃあ!」
「グルゥっ」
私のバトーネの一撃をサイクロプスは持っていた棍棒で受け止める。
やるねっ……でも、これならどう!
「闇雷纏!」
闇の雷を体に纏い、私は身体能力を強化する。
そして、私のバトーネを受け止めていた棍棒を弾き飛ばし、サイクロプスの懐へと飛び込んだ。
「もらったよ!」
私のバトーネがサイクロプスの腹部にめり込む……と、思った瞬間、サイクロプスと私のバトーネの間に硬いものが突如出現した。
「え!?」
慌てて私はその場から飛びのき、距離を取る。
「あれ……サイクロプスって魔法使ったっけ?」
「いや、使わねぇはずだ」
「どういう事でしょう……あれは間違いなく地の魔法ですよね?」
メリッサの言う通りである。私のバトーネを弾いたのは土で出来た壁であった……『土壁』という魔法である。それほど難しい魔法ではないが、あの一瞬で私の攻撃より早くあれを展開できるとなるとそれなりに使い慣れている魔法という事になるだろう。
「おかしいですね……サイクロプスは凶暴で力もありますが、知能はそれ程高くない魔物だったはずです……それが魔法をあそこまで巧みに使うとなると……」
「天啓スキル『地魔法』を持っている……ってか?じゃあ、あの魔女の嬢ちゃんの予想は当たってるってことかよ?」
「かも……しれません」
天啓スキルを持った魔物……ちょっと特別な個体と考えればいいかな、くらいの気持ちだったんだけど……これマズくないかな?正直、サイクロプスが地の魔法を使えたとしてもそれ程脅威ではない……むしろ、手強くなって楽しいくらいだ。でもこの先、さらにランクの強い魔物が出てきて、その魔物が強力な天啓スキルを持っていたら……邪鬼よりも厄介なんじゃ……。
「カモメさん!!」
「おっと!」
私が考え事に気を取られていると、サイクロプスがいつの間にか私に近寄り、拳を振り下ろそうとしていた。シルネアの呼びかけでそれに気づいた私は、その攻撃を難なくかわす。
「大丈夫ですか、カモメさん?」
「あはは、ごめんごめん。ちょっと考え事しちゃった」
「おいおい、余裕だな?」
「まあ、あれくらいならね」
私は気を取り直して、サイクロプスに向き直る。
そして……。
「螺旋風槍 !」
風の槍が螺旋を描きながら、サイクロプスへと襲い掛かる。
サイクロプスはそれを再び土の壁で防ごうとするが……。
「変則合成魔法」
私はそこに氷の魔法を合成し、サイクロプスの作った土の壁を一瞬にして凍り付かせた。
私の氷の魔法でサイクロプスの土の魔法は完全にその力を失う。
サイクロプスの魔力で強化されている土の魔法を私の変則魔法が上回ったため、普通の土へと戻ったのだ……つまり、あそこで壁をしているのは私の氷で出来た壁ということだ……私が砕こうと思えば簡単に砕ける。その上、その壁が邪魔になってサイクロプスから私の姿が見えていない。つまり……
「チェックメイトだね!魔水風圧弾!」
風で圧縮された水の弾丸が、氷の壁とサイクロプスを貫いた。
胸に大きな風穴が出来たサイクロプスは何が起きたのか理解できていないのだろう、血走らせた眼を泳がせ、自分の胸に開いた穴を見て困惑している……そして、まだ理解できていないだろうに、そのまま粒子へと変わり消えていった。
「魔石にはやっぱりヒビが入っているね」
「無理やりつけられた力によるものと考えるのが一番ですね」
「だろうなぁ……でも、何で女神の奴はこんなことするんだ?俺たちの時はしなかったのに」
クルードの言う通りである……なぜ?
可能性として考えられるのは一つは女神の気まぐれ、他にはダンジョンをパワーアップさせたかったとか?……そして、一番考えられるのが私がこの大陸の人間じゃないから……かな。
女神からしてみれば、私は自分の作ったものではないだろうしね……。
「ま、それも後6体、魔物を倒せばわかるよ!」
「それもそうだな」
「兄さんもカモメさんも気楽ですね……」
「本当です……これ以上強い魔物が出てくるかもしれないってだけで私は怖いです」
メリッサが肩をがっくりと落としながらそう言うと、私は大丈夫大丈夫と根拠もなく笑って見せた……ま、先に進むしかないんだもん。大丈夫じゃなくても大丈夫にするしかないよね♪
そう思いながらも私は次の部屋の扉へと進んでいくのであった。
楽々とサイクロプスを倒したカモメだが、この先に待ち受ける魔物を考え不安を抱く。
だが、その不安を跳ねのけるように明るく突き進むことを決めるのであった。