第二幕 5章 21話 魔力の方向性
21話になります。
炎を纏わせたメリッサの攻撃がゴブリンキングの棍棒を斬り裂く。
ランクが一つ上がっているとはいえ、今のメリッサならこの程度の魔物に後れを取ることは無さそうである。先ほどのコボルトリーダーに引き続き、ゴブリンキングも一文字に斬り裂き、魔石へと変えた。
「コイツの魔石もヒビが入ってやがるな?」
「ねえ、これって女神に何かあったってことなのかな?」
「どうだろうな?……それにしちゃ、魔物が一匹ずつ出てくることに変わりはねぇしな」
そっか、女神に何かあったらそもそもこのダンジョンが機能してない可能性の方が高いよね?
とすると、あと考えられるのは女神が私達が来られないように魔物を強化している……とか?
………でもなんで?
ここの大地の女神に嫌われるようなこと……してないよね?
「おら、魔女の嬢ちゃん。どうせ考えたってわからねぇんだから、とっとと先に行こうぜ?」
「うん、そだね」
クルードの言う通り、クオンやエリンシアじゃないんだし、私が考えたって答えなんて出てこないよね。
まあ、なるようになれだ。
私はそう考えると次の部屋への扉を潜る。
「お次はオークキングか……代り映え無くてつまらねぇな」
「だね……なんというか予想通りだよ」
Dランクのコボルトリーダー、次がCランクのゴブリンキング、なら次はBランクそれもキング系のモンスターだろうと予想していたが、予想通りBランクのオークキングやってきた。
「メリッサ、一人でやれそう?」
「大丈夫です」
とはいえ、Bランクの魔物である。
その上、それが異常なほど強化されている状態であるという事を考えれば、少なく考えてもAランク以上の魔物の強さがあると考えていい。
Aランク……正直、この間までのメリッサであればBランクが限度だったと思う。
だが、今のメリッサなら……。
メリッサは剣を抜くと、炎の魔力で刀身を作り出す。
先ほどまでと同じ戦い方である。
「はあ!!」
メリッサが剣を振るう。
その剣先はオークキングへと向かっていくのだが、変なことにオークキングが全く動く気配を見せない。先ほどまでのコボルトやゴブリンはそれでもちゃんと戦っていた……眼は血走っていたけど……。
だが、このオークキングはこれまでの奴とちょっと違う……見るからに普通じゃないのは解る……筋肉が異常なほどに発達しているし、先ほどから息遣いも荒い……でも、戦意が無い……というより、どこか意識がはっきりとしていないような?
メリッサの剣がオークキングの肩口から下へ振りぬかれる。
まるで何の抵抗もなく振り下ろされた剣はオークキングの肉を裂き右腕を切り落とした。
「……?」
自分の腕が切り落とされたというのにオークキングは何の反応も示さない。
まるで、そよ風に吹かれたとでもいうかのようにそのままぼーっと一点を見つめていた。
そして……
「え!?」
「……何あれ?」
次の瞬間、切り落とされた右腕が元通りになっていたのである。
「おいおい、今の一瞬で再生しやがったのか?」
「ありえません……そもそもオークキングに再生能力なんて……」
そう、普通再生能力を持っているのはトロールと呼ばれるモンスターである。
だが、そのトロールでさえ、あそこまで脅威的な再生能力持ってはいない………。
「なら!」
メリッサは腕を切り落とすことが無意味と知り今度はオークキングの頭を目掛けて突きを放つ。
そう、再生能力が高い魔物を相手にするときは頭を体から切り離すか、再生が追いつけなくなるほど攻撃を食らわすかである……まあ、レンみたいな例外もあるが……。
それをメリッサも知っていたのだろう、メリッサの攻撃は見事にオークキングの首を刈り取った。
体がから離れた首が地面を転がり、目から光が消える……が……。
「……う……そ」
一度目を離し、もう一度オークキングを見ると、すでに新しい首が生えていた。
「おいおい……ありゃあ、異常なんてもんじゃねぇぞ?」
「メリッサ、下がって!!」
私は慌ててメリッサに声を掛ける。
だって、さっきまでどこを見ているか分からなかったオークキングがはっきりとメリッサを認識し、ニタリと口端を広げて笑ったのだ……その顔を見た瞬間、私の背筋に寒気が走った。
「きゃあ!?」
「メリッサ!」
オークキングが生えた右腕を大きく振るうと、メリッサは大きく吹き飛ばされる。
動きはそれ程、早くはない……だが、その巨体から繰り出される攻撃は重い……メリッサは吹き飛ばされると近くの壁に叩きつけられた。
「大丈夫、メリッサ!」
「う……はい……すみません、油断しました」
「ううん、今のは仕方ないよ……あんな再生速度、異常すぎるもん」
女神と繋がるダンジョンであるこの場所にいるモンスターを異常と思う事すらおかしいというのに、私はあのオークキングを見て禍々しいとすら思ってしまった……一体、どういうこと?本当にここで女神と交信できるの?
「な、なんなんだ、ありゃあ?」
「兄さん……」
「あ、ああ……」
ここへ案内してくれたクルードとシルネアもあのモンスターを見て慌てている。
彼らがここに来たときはあんなモンスターはいなかったのだろう……。
「カモメさん……あのモンスターはわたし」
「シルネアとクルードは下がってて……あれは私が相手をするよ」
「え?でも、あんな再生能力をもつ魔物を倒せるんですか?」
「ん~、なんとかなると思うよ」
シルネアが今、何か言おうとしていたような気がしたけど、それを遮って私はシルネア達を後方に避難させる。確かにあの再生能力は脅威である……そして、あの禍々しい姿に恐怖すら覚えもする……でも……これってなんか冒険者っぽくない!?……未知のダンジョン(未知ではない)、立ち塞がる禍々しい悪の手先(女神のダンジョンである)……そして、それと対峙する私!……うん、何かこれぞ冒険者って感じだよね!……普通の冒険者っていつもこんな感じを味わっているんだろうなぁ(カモメ個人の感想です)
私はワクワクとする感情を抑えながらも、目の前のオークキングを見て笑う。
「おい……あの魔女の嬢ちゃんオークキングより怖ぇ笑い方してんぞ……」
「えっと……えっと……あれ?」
私はバトーネをくるくると回しながらオークキングへと近づいて行く。
「カモメ様……待ってください……私が……」
「……メリッサ」
私が後ろを振り向くと、メリッサが立ち上がっていた。
思いっきり壁に叩きつけられたというのに、その眼には闘志が燃えている。
うーん、ちょっと暴れたい気分だったんだけど……最初に約束したもんね……しょうがない。
「解った、任せるよ」
「おいおい、大丈夫なのかよ?」
「解んない」
「わかんないってお前……あの姫さんが死んじまってもいいのか?」
私がメリッサにオークキングを譲ってクルード達の近くに戻ってくると、クルードは慌てたように私に詰め寄ってくる……なんだかんだ言っているけど、クルードも基本的にはお人好しだよね……。
「メリッサがやるって言ってるんだもん、大丈夫だよ」
「けどよ……あの再生力の敵相手に魔力で作ったとは言っても剣で戦うのは……」
「兄さん……あれ……」
「あん?………………は?」
クルードがシルネアの指さしている方を見て間の抜けた声を出す。
うん、気持ちはよくわかる……私も驚いた。
メリッサの剣の刀身が変形しているのだ……うーん、何と言ったらいいんだろう……大きな団扇?……いや、多分これからメリッサがすることを考えれば大きなハエ叩き……かな?……あはは。
「ええ~~~い!!」
可愛らしい掛け声と同時に魔力で出来た巨大なハエ叩きがオークキングに襲い掛かる。
動きの緩慢なオークキングはその大きなハエ叩きを見て先ほどまでいやらしい程に口端を上げていたその表情を無くした。……諦めたな……あれ……うん、逃げ場無さそうだもんね。
オークキングは抵抗することなく、そのまま蒸発したのだった。
もしかしたら、あのオークキングはレンのように核を壊されなければ永遠と再生するタイプの力を持っていたのかもしれない……でも、体全体を蒸発されられたら関係ないよね……あれ?ちょっと待って……。
「超再生……?」
「うん、何か言ったか?」
「う~ん、勘違いかもしれないんだけど今のオークキングの再生能力、もしかしてレンと同じなんじゃないかな~って思って」
「レンさんですか……確か、新しくカモメさん達のパーティに入った方でしたよね?」
あ、そっか、シルネア達はレンとまともに会話したことなかったっけ……じゃあ、レンの超再生の事しらないか……。
「うん、そのレンなんだけど、超再生って言う天啓スキルを持っているんだよ……核を潰されない限り死なずに再生をするっていうスキルみたいなんだけど……」
「今のオークキングと同じってことか?」
「あそこまで一瞬で再生するわけじゃないんだけど似てるなぁって……それで」
そう、それを考えてて気になったことがある……。
「それで何だよ?」
「うん、気になったんだけど魔物って天啓スキル持ってないの?」
「あん?……そりゃあ……あれ?」
「そう言えば、持っていませんね……邪鬼ですら持っているのですが……」
そっか、邪鬼も天啓スキルを持っているんだっけ……なのに魔物は天啓スキルを持っていない……私たちの大陸ではそれが普通だったから疑問に思ったことなかったけど、こっちの大陸なら魔物も天啓スキル持っていてもおかしくないんじゃ……。
「言われてみれば不思議ですね……魔物は女神の加護を受けないという事でしょうか?」
「だとしたら俺た……邪鬼が女神の加護を受けているのも変じゃねぇか?」
「ですよね……邪鬼は邪神により作られた存在……女神からすれば天敵の筈です」
「うーん、まあ、それも女神に直接聞けば解るかな?」
「だな」
「ふ、二人とも……それは単純すぎるんじゃ……」
「「だって、考えても解らないもん(ねぇよ)」」
私とクルードのセリフが被る……だよねぇ。いつもなら考えるのはクオンに任せちゃうし。
私とクルードが結論づけると、シルネアが困ったような顔をしていた。
そして、私達がその話を終える頃に、メリッサが肩で息を切らしながらこちらへと近づいてきた。
「メリッサ、大丈夫?」
「は、はい……少し魔力を使いすぎたみたいで……でも、この力の使い方……解った気がします」
確かに、魔力を使うことであそこまで形状を変えられるなら、剣の形にこだわる必要が無い。
つまり、その時の状況によって形を変えて戦うことが出来るのだ……これはかなり便利なんじゃ?
「なら良かった……でも次は休んでてね」
「……でも」
「無理は駄目だよ、少し休んで魔力を回復させないと……それに」
「それに?」
「私も暴れたいよ!」
「……あう……そっちが本音なのでは……いえ、解りました。次はカモメ様にお任せします」
「うん、任せて♪」
そう言って私は次の部屋の扉へと歩き出したのだった。
自分の新たな力の使い方を見つけたメリッサ。
そして冒険者としての心をくすぐられ我慢できなくなったカモメ……果たして次の階の魔物はどうなることやら?