第二幕 5章 20話 疑問と信頼
遅くなりまして申し訳ございません。
20話になります。
「はあっ!」
その後、結果だけを見るとメリッサの圧勝であった。
武器を失ったコボルトリーダーは鋭い牙でメリッサへ噛みつこうとしたが、メリッサにその牙が届く前に魔力で出来た炎の剣で首を斬り飛ばされてしまった。
首が無くなったコボルトリーダーはそのまま、光の粒子と変わり消えていった。
「……あれ?」
コボルトリーダーが粒子となって消えた場所を見て、私は疑問に思う。
そこには普通の魔物を倒した時と同じように魔石が落ちていたのだが、その魔石がひび割れていた。
「これってどういう事かな?」
「さあな?前に来たときは普通の魔石を落としたぜ?」
「魔物の魔石にヒビが入るなんて初めて見ました……」
シルネアが言う通り、私も魔石にヒビが入っているなんて言うのは聞いたことが無い。
もちろん、加工したりもするのでヒビを入れることは出来るのだろうけど、倒したばかりの魔物からヒビの入った魔石が出るというのは聞いたことが無いのだ。
「これって、今の魔物の様子がおかしかったのと関係があるんでしょうか?」
「……かもしれないね」
確かに、さっきのコボルトリーダーは様子がおかしかった……でもなぜ?
うーん、今の情報じゃ考えても解らないね……それに偶々、今の魔物がおかしかっただけかもしれないし。
「とりあえず、次の部屋に行ってみようか?」
「そうだな、考えても解らねぇしな」
「でも、兄さん……最後までこんな状態だったら……」
「まあ、確かに最後の部屋の魔物も異常に強化されてたらヤバいかも知れねぇな……だが、まあ、次の部屋を見てみないとなんともいえねぇよ」
「そうだね……兄さん……もし最後まで魔物の様子がおかしかったら」
「……ちっ……いうと思ったぜ……本当にいいんだな?シルネア?裏切られても知らねぇぞ?」
「大丈夫……レディさんも言ってたじゃない……大丈夫だよ」
「まあ、お前の夢だしな……好きにしろ」
「うん!」
シルネアとクルードがコソコソと話をし始める……なんだろ?
まあ、聞かれたくないことなら無理に聞こうとはしない方がいいよね……私達に害がある感じはしないし。それよりも、先に進まないと。
「それじゃ、次の階に行ってみよ!」
「あ、カモメ様……よかったら次の階も私一人に戦わせてもらえませんか?……いえ、出来れば一人で攻略できるうちは任せてほしいんです」
「あー……まだ、その力に慣れてないから練習したいってこと?」
「うっ……お気づきでしたか……はい……まだ、この力をうまく扱いきれていません……なんとか制御できるようにはなったのですがこの力にはまだ先があると思うんです……ですからそれを、このダンジョンの中で見つけたい……敵が強いのなら好都合です……ギリギリの戦いの中でさらなる力を見つけたいと思います」
なるほど……まあ、異常な強化をされているとは言ってもあれくらいの魔物なら何とかなるかな……まあ、闇の刃を避けられたときは焦ったけどね。
「わかった……でも、無理だと思ったら私も参戦するからね?」
「はい!」
嬉しそうに満面の笑顔で喜ぶメリッサ……うん、かわいい。
私が、メリッサの笑顔に和んでいるとどこかで誰かが舌打ちをしたような気がした……誰?
クルードとシルネアはそんなことはしない……他には誰もいないし……気のせいかな?
ううん、どこかで見られているような……そんな感じがする……なんか嫌な感じだな……。
女神と交信できるダンジョンのはずなのに……私はここに嫌悪感を抱き始めていた。
メリッサに任せると言ったけど、私も気を抜かないようにしよう。
そう心に決めて、次の部屋へと向かう扉を開いた。
扉を潜ると、またも別の空間に移動させられたのか、入ったばかりの扉が無くなり、大きな部屋へと移動させられる。
「二階はゴブリンキングか……」
ゴブリンキングはランクCの魔物だ……やはりこの魔物も本来は取り巻きを連れている魔物なのだが、この大部屋に一人で佇んでいる。ランクで言えばCランクであるが、さっきのコボルトリーダーと同じで群れでいることが最大の脅威であるのだ。一体でいるのであればそこまで脅威ではない。
同じランクCの魔物でも単体でランクCである魔物よりは戦いやすいだろう……。
だが、当然この魔物も強化されている……そして……。
「グルルルルゥ」
「やっぱり、様子がおかしいね……」
「みてぇだな……一体どうなってやがる?」
ここでまた違和感……ランクCの冒険者であるはずのクルードが同じランクCの魔物を見ても脅威を抱いているようには見えない……いや、それどころかどこか余裕すら感じる……。
この反応を見て、私の中であることが確信に変わった……クルードもシルネアも本来の実力を隠して冒険者をしていたのだろう……でなければ、この魔物を相手に怯まないはずがない……。
そう考えれば、最初に会った時もおかしい状況だった、シルネアは別の依頼であの場所にいたはずだ……何かのはずみでオークの村に出くわしてしまったとしても低ランクの冒険者が逃げずに戦っているなんていうのはおかしいじゃないか……はは、私もクオンも全然不思議に思ってなかったよ……。
普通なら逃げるよね……オークの村に出くわしたのなら……勝ち目無いはずだもん……でもシルネアは戦っていた。持っていたのはレイピア一本だったのに、彼女は果敢に戦おうとしていたのだ……それは冒険者だから……もちろんそれもあるのかもしれない。彼女なら例え強敵と出会っても逃げなかったのかもしれない……でも、もし彼女にあの窮地を切り抜けるだけの力があったとするなら……一人で戦っていたのも不思議ではないのだ。
だって、私とクオンだって、あの場に一人でいたとしても逃げたりはしないもん。
でも、だとしたら二人は何でそれを隠しているんだろう……きっと、何か理由があるんだろう……気にはなるけど、聞かない方がいいよね……隠しているのはそれなりの理由があるからだ……だって、悪意を持っているのであれば、私達にこのダンジョンの場所を教えたりはしないだろうし、教えても一緒に付いてきてくれたりはしないだろう……もちろん、私たちの命を狙っていて、ここが罠だという可能性もあるけど、それならば、ここに辿り着く前に行動を起こしている筈である……ううん、小難しいことを珍しく考えたけど……そんなこと、どうでもいいや……シルネアとクルードは友達だもん……信用できなはずがないよね!
「どうした、魔女の嬢ちゃん?」
「ん?ううん、なんでも♪それじゃ、メリッサ。任せたよ!」
「はい!」
メリッサは剣を構えると、再び炎を纏わせた。
そして、それと同時に敵もこちらに向かって動き、戦いが始まったのだった。
クルード達の違和感に気づいたカモメ。
だが、それを追求するつもりはなかった……隠し事の一つや二つ、誰でもあるものだ。