第二幕 5章 17話 美味しいシチュー
17話になります。
「んじゃ、見張りは俺がやるからお前らは寝ちまえ」
「え、朝までずっと一人でやるつもり?交代するよ?」
「はっ、一日二日徹夜したくらい大したことねぇよ……俺に任せて寝ておきな。明日にはダンジョンに潜るんだからよ」
そう言いながらクルードは手をひらひらと振りながらあっちに行けと指示した。
少し、心配だったが私はクルードの言う通り寝ることにした。
確かに、万全の状態で挑めるのは嬉しいけど、その分クルードがきついんじゃ……。
私が悩みながらもテントへと入ると、シルネアが声を掛けてきた。
「兄さんなら大丈夫ですよ。慣れていますので」
「そうなの?明日は大変だろうからクルードも少しは寝たほうがいいと思うんだけど……」
「そうですよ……クルードさんにだけ負担をかけるなんて……」
「お二人ともありがとうございます。でも、本当に大丈夫なんですよ……だって……」
「……だって?」
私が聞き返すと、シルネアははっとした顔をした後、慌てた様子でつづけた。
「い、いえ……そう言う体質みたいですので問題ありません」
「そ、そう?」
な、なんだろ?何かあるのかな……でも、言いたくは無さそうだし無理に聞いちゃ悪いよね。
とりあえず、クルードは大丈夫みたいだしシルネアの言うことを信じて今日は休ませてもらおうかな。
私は布団を被るとそのまま夢の世界へと誘われていくのであった。
テントの隙間から朝日が私の顔に光を当てる。
私はその朝日に導かれるように意識を覚醒させると両手を上に上げながら背伸びをした。
「ふぁぁ~、よく寝ちゃった」
口の前に手を当てながら欠伸をし、私はテントから出ていく。
テントの中にはシルネアもメリッサもいなかったので私が最後に起きたようだ。
「おう、魔女さん。よく眠れたかい?」
「うん、おかげさまで……クルードは大丈夫?」
「おうよ、この通り!」
クルードは片腕をぐるぐると回しながら元気なところをアピールする。
確かに目の下に隈も出来ていないし、疲れている様子もない……シルネアの言う通り徹夜をものともしない体質なのかな?……だとしたらちょっとうらやましい。
「んじゃ、とっとと朝飯喰って出発すんぞ~、今日中にはダンジョンに着きたいからな」
「は~い」
ノソノソと移動すると、恐らくクルードが見張りをしていてくれた場所なのだろう。
焚火の残りがある場所を囲むようにシルネアとメリッサが座っていた。
「おはよ~、良い香りだねぇ」
「おはようございます、カモメさん。ふふっ、あり合わせでシチューを作ってみました。口に合うといいんですけど……」
「合う合う、すっごい美味しそうな香りだもん!絶対に合うよ!」
「はい、すごくおいしそうです」
私がそう言うと、メリッサも同意してくれた。
輪切りにした木を椅子代わりにして、私が皆のいる場所に座ると、クルードもシルネアの隣に座った。
「ん~、美味しい♪」
「そうですか?……えへへ良かったです」
「相変わらず、シルネアの料理は美味いな」
「ホント、美味しいです!」
「………えへへ」
私達が褒めると、シルネアは恥ずかしそうに頬を染めた。
いや、でも本当に美味しいよ……シルネア、料理の才能もあるんじゃないかな!
そう思いながらも黙々とシチューを食べると、私はお代わりを二回もしてしまった。
ポンポンと一杯なったお腹を叩きながら私は食後の休憩を取る。
「はぁ~、すぐに出発するぞって言っただろうが……その腹で行けんのかよ……」
「だいじょーぶだいじょーぶ……ケプ」
私がお腹を叩きながらゲップをしてしまうと、はしたないです……というメリッサの呟きが私の胸を刺す。
「ごめん、でも大丈夫。ちゃんと歩けるよー」
「そうかよ、なら出発するぞ」
私がお腹を叩いてシルネアのシチューの余韻を楽しんでいる間に、クルードはテントをしまい、すでに出発の準備を整えていた。なんだろう……クルードって意外としっかりとしてるんだなぁ……。クオンに甘えてばかりの私とは大違いである。
「それじゃ、しゅっぱーつ!」
私が大きくなったお腹を揺らしながらそう言うと、後ろでクルードのため息が聞こえてきた。
しょーがないじゃん………シルネアのシチュー美味しかったんだもん……。
私はがっくりと肩を落としながら、ダンジョンへの道を進むのであった。
シルネア達と和やかな食事を終え、目的地へと再び出発するカモメ達。
果たして彼女たちに待ち受けるものとは……。