第二幕 4章 2話 領主再び
2話になります。
「それでは魔女様、ローランシアの事お願いいたします」
「うん、こっちから送ったら使者も戻ってきてないんだよね?」
「はい、何度か出してみたのですが一人も戻ってきておりません」
使者が戻ってきていないとなると、ローランシアで何かがあったのか、それとも道中に何かがあるのか……いずれにしてもいい状況じゃないんだろうなぁ。
とはいえ、アンダールシアを取り戻すためにはローランシアの協力が欲しいし……それに、何かがあったのなら放ってもおけないよね。
「それじゃあ、今回ローランシアに行くのは私とクオン、それにエリンシアにレン、後メリッサとローラかな……レディたちにはラリアスの護りを任せるね」
「解ったわぁん♪」
「こら、カモメ。私を呼び忘れてるわよ」
私がそう言うと、ディータが口を尖らせながらそう言ってきた。
いやいや、忘れたわけじゃないよ。
「うん、ディータはせっかくアネルも来てるし、ここに残ってもらおうかなと……」
「嫌よ、確かに久しぶりにアネルと話したい気もするけれど、カモメと離れる気なんてなんいわ」
「おおう……そう言ってくれるのは嬉しいけど、アネルも話したいだろうし……うーん」
「ふふ、ありがとうカモメちゃん。そうね、それなら私が貴方達について行くわ」
「……え?」
アネル……いや、レナが意外な事を言う。
「いいわよね、フィルちゃん」
「元々風来坊のアネル殿だ、それは構わんが出来れば変装はしておいてもらえると助かる。今後、私の護衛を頼むときもあるかもしれんからな」
「解ったわ、それじゃ、ちょっと着替えてくるわね」
そう言って、アネルは着替えるために部屋を出て行った。
「いいの、王様?」
「ああ、俺もしばらくはここに居させてもらう予定だ。この大陸の事も色々と知りたいしな。」
「そっか、わかった……それじゃディータとアネルにもついてきてもらうね」
「当然よ」
結果、二人増えて8人でローランシアに向かうことになった。
「ローランシアがどんな状況かわりません。魔女様、どうか気を付けてくださいね」
アンリエッタが気遣ってくれる。
「ア、アンリエッタ様!!大変です!!!」
それじゃ、各自、出発に向けて準備を!と言うところで、兵士が慌てた様子で部屋へと入ってくる。
「どうしました?……何をそんなに慌てているのですか」
アンリエッタが驚いた表情で兵士に返した。
「領主さまが……いえ、ジェラーノさまが戻られました!!!」
「なんですって!?」
ジェラーノ……それは確か、アンリエッタの父親の名前だ。
以前、邪鬼がこの街を襲った時、一目散で逃げ出した元領主である。
今更、何をしに戻ってきたのだろうか……。
「退け、私を待たせるつもりか!」
「お父様……今更、何の用です?」
「何の用だと?アンリエッタ、父親の私になんて口をきくんだ……領主の私がこの街に戻ってくるのは何もおかしくはあるまい」
街の人を見捨てて逃げておいて何て言い草だよ……それに今の領主はアンリエッタである。今更、街の人がこの人を領主と認めたりするもんか。
「いえ、お父様。今のラリアスの領主は私です……お父様は確かにおっしゃいました。領主を私に譲ると……それに一度逃げ出した領主を街の人が認めるわけがありません」
「なんだと……私は逃げ出したのではない!王都へ応援を要請に向かったのだ!!それを勝手に勘違いをして領主の座を掠め取ろうなど……見下げはてた奴よ!!」
「勝手なことを!応援を要請に向かったって間に合う訳なかったじゃない!アンリエッタや街の人を見捨てて逃げたのと一緒だよ!!」
あまりの勝手な言い分に私が口を出す。
「貴様は……あの時の小娘か……ふん、闇の魔女等ともてはやされているようだが……私の街で勝手なことは許さんぞ……それに私にはちゃんと国から認められた証がある……見よ、王から直々に貰った書状だ」
「………そう言うことですか」
国……つまりはアンダールシアの王様がこれを認めたということだ。
だが、そのアンダールシアの王様は偽物である。
「お父様、ご存じないのかもしれませんが、今のアンダールシアの王は別人です……アンダールシアは今、レンシアに乗っ取られてしまっております……こちらのメリッサ姫がそのことを教えてくださいました……ですから、その書状は何の意味もありません」
「……関係ないな」
「……関係ない?」
「ああ、誰が王であろうと私には関係ない。今の王がこの私をこの街の領主と認めたのだ。だから私がこの街の領主である……逆らうことは許さん!」
「何を勝手な……」
そんな理屈が通るわけないよ……いったいこの人何を考えてるの?
今はまだ何もしてきていないけど、このままレンシアが何もしないでいると思っているのかな……レンシアが動いたらこの街だってどうなるか分からないって言うのに……。
「お父様は分かっておりません……もし、レンシアが本格的に進軍してくれば、この街とてどうなるか」
「どうもならん、その時はこの街の統治を私に任せると約束していただいた」
「……なんですって?」
え、つまり……この人はすでにレンシアの事を知っていて……そのうえでこんなことをしているの?
………最低。
「お父様……貴方はレンシアがこの国に何をしたか知っていらっしゃるのですか?」
「ふん、王妃を殺し、王の身体を乗っ取りすり替わっているのだろう……ジーニアス殿から聞いたわ……私を甘く見るな」
「その上でレンシアと取引をしたと……」
「そう言っている!解ったならとっとこの部屋から出ていけ!この部屋は領主である私の部屋だ!」
「……衛兵を呼びなさい……反逆者を捕まえます」
「……はっ!!」
「……反逆者だと?」
衛兵を呼びに行こうとした兵士が扉から出て行こうとする。
だが、扉を開け部屋を出る寸前に何者かに頭をわしづかみにされた。
「おうおう、反逆者とは穏やかじゃねぇな」
「……貴方は」
そう言って現れたのはスキンヘッドの男であった。
その男は掴んでいた兵士の頭をまるでリンゴでも割るかのように握りつぶしてしまった。
そして、手に着いた血を舐めると、いやらしい笑いを上げながらこちらを見てきているのだった。
いざ、ローランシアへと思ったその矢先。
現れたのは以前の領主ジェラーノであった。
果たして、どうなることやら…。