第二幕 4章 54話 女神の祝福
54話になります
―――――――暗闇。
私は何をしていたんでしょう……そうだ、先ほどまでドーガ王子を探してローランシアの城に……そこで階段の下に隠し扉を見つけて地下へと降りたんでした……それで……そうだ、ドーガ王子の遺体が……。
「うむ、どうやら話が出来そうだな」
「え……ドーガ王子!?」
不意に話しかけられ、私は声の主を探す。
そこには先ほど痛ましい姿で見つけたドーガ王子が立っていた。
見る限り、傷は見当たらない……どういうことでしょう……先ほどの遺体は偽物?それともディータ様が治したのでしょうか……いえ、ドーガ様は間違いなくなくなっておりました……死体を生き返らせることは出来ないはず……では……。
「メリッサ姫……色々混乱していると思うが最初に言っておく……俺は死んでいる……情けないことだがな」
「……では……あなたは……」
「今の俺は魂だけの存在だ……今、君は眠っていてその夢の中に俺が出て気いるという状況だな」
「寝ている……それではあなたはドーガ王子ではないのでしょうか……私の作り出した偽物?」
「あ、いや、そうではないのだ……実はな、俺には『女神の祝福』という天啓スキルがあったのだ」
シグレさんがここに来る途中言っていたものですね……確か、どんな効果か解らない謎のスキルのはずです……ドーガ王子はその効果を知っていたのでしょうか?
「と言っても、俺も死ぬまでこのスキルの効果は知らなかったんだがな……」
どうやら、ドーガ王子も知らなかったようです……あれ?死ぬまでは?
ということは死んだ今ならその効果を知っているということなのでしょうか……。
「この天啓スキルはどうやら死んだ後に発動するらしい……名前から言って女神の祝福だ……一体どれほど良いものなのかと思っていたのだがな……ふっ……まさか、こんな能力とはな……」
話が見えません……一体どんな能力なのでしょう……死んだ後に発動するということは死ななければ発動しないということです……となると、条件がそろえば生き返ることが出来るというものでしょうか?もしそうであるのなら確かにすごいスキルです……レン様の超再生よりもすごい……ですが、そんな能力があり得るのでしょうか?
「あ、いや……俺が生き返るとかそう言う能力じゃないぞ?」
「え……そうなのですか?」
どうやら、そう言う能力ではないみたいです……少し希望を持てたのですが……残念です。
でも、だとしたら一体どんな能力なのでしょう……いいえ、それよりも……生き返れないということはドーガ様はもう……。
「あはは、正直な人だなアンダールシアの姫は……ありがとう……俺の為にそんな辛そうな表情をしてくれて……やはり、貴方を選んで正解だった」
「私を……選ぶ?」
「俺のこのスキルの正体は……俺が女神からの祝福を受けれるわけではないのだ……」
女神の祝福という名前なのに祝福を受けられない?……どういうことでしょう。
「このスキルはな……このスキルを持っているものが女神の祝福になる……というスキルなのだ」
「???………どういうことです?」
「つまり、俺の魂を力に変え……他人に女神の祝福として渡すことが出来るということだ」
魂を力に……?
意味がわかりません……ドーガ様は一体何を言っているのでしょう……。
「ん?解り難かったか?つまり、俺がメリッサ姫……そなたの力になるということだ」
「…………」
「どうやらこの力はその人間の魂の強さに比例するらしくてな……魔女やクオンと違って大した力を持っていなかった俺だが……この力をそなたに捧げればそなたは魔女たちに劣らぬ力を得るだろう……」
「………」
「メリッサ姫……俺は国民も救えず、家臣の信頼にも答えられず……何も出来ない無能な男だったが……そんな俺でも最後に君の役には立てると思う……こんな得体のしれない力を貰うのは嫌かもしれんが……受け取っては貰えないか?」
「………わかりません」
「ん?まだ説明がわかりにくかったか?すまないな、いつもこういうことはクダンに任せていたから説明が下手なようだ」
私は肩を震わせていた……解るわけがない……こんなの……。
「そんなの……ひどすぎます……だって、それって女神さまは最初から貴方が死なせるつもりだったということじゃありませんか!酷いです!死んでから発動するスキルも……それも自分の為に使えないなんて!!理解できるわけがありません!」
「メリッサ姫………確かにな……俺も最初はその理不尽さに怒りを覚えた……だが……それでも……こんな俺でも最後の最後で誰かの役に立てるというのは……やはり感謝するべきことなのかもしれん」
「そんなことありません!シグレさん……シグレさんは遺体となった貴方を見て泣いておりました!クダンさんだって貴方の事を心配しておりました……いいえ、きっとこの国の人すべてが……あなたを認めています……頼っています!……貴方は何も出来なくなんてない……王子として立派に皆を率いていました!」
「………ありがとう……同じ立場の君からそう言われるのはとても嬉しいよ」
違う……私はドーガ王子と一緒なんかじゃない……私は国が乗っ取られた日……逃げることしかできなかった……もし、カモメ様たちに出会えていなければきっと今も逃げていただろう……ジーニアスに立ち向かうなんてこと思いもしなかったのだ……逃げて逃げて、なぜどうしてと……意味もなく恨み言を言うだけの駄目な人間になっていた……だけど、ドーガ王子は違う……逃げずに仲間と共に白の傭兵団と戦っていたのだ……私なんかよりずっとすごいのです。
「メリッサ姫……貴方にこの女神の祝福の力を受け取って欲しい」
「……え?……そんなっ……私なんかが貰う資格はありません!シグレさんかクダンさんに!」
「いや……確かに彼女たちは俺の大切な家臣だ……だが、この力はこれからアンダールシアを取り戻すメリッサ姫……君にこそ必要な力だと思う……どうか、受け取ってもらえないか?」
「ですが……私にそんな資格……」
「資格なんて俺が君を気に入った………それで十分じゃないか?」
「ですが……」
「ああもうっ……なら正直に言おう……惚れた女の力になりたいんだ……頼む、受け取ってくれないか?」
「惚れっ………ええええええ!?」
な、何を言っているのでしょうこの方は………私達はまだ出会ったばかり……いえ、そうではなくて……そんな素振り全然見せたこともないですし……私はまだそういうことは……って違うっ……ああ、何を考えているの私っ!
「すまない……言うつもりはなかったのだがな……だが、俺は君の真っ直ぐな心に惹かれた……死んでしまった俺だ……そなたを口説く等と烏滸がましいことは言えん……だが、君を好いていた男がいた……ということだけでも覚えていて欲しくてな……少しでも君の中に残るために君に力を上げたいと思ったんだ……自分で言っていてなんだが女々しいな俺は………」
顔を赤くしながらバツの悪そうな顔をして下を向くドーガ様は少し可愛らしく思えました。
私は……この方から力を頂いてもよろしいのでしょうか……確かに、魔女様に教えを受けて私は飛躍的に強くなりました……ですが、魔女様たちと肩を並べるということは出来ません……いえ、それどころかまだ足手まといでしかないのです。
私は力が欲しい……そう思います……アンダールシアを解放し、お父様を助けるためにも私はまだまだ強くならなければならないのです。
でも、純粋なドーガ様の想いをそんな理由で利用していいはずが……。
「また難しいことを考えているだろうメリッサ姫……君の悪いところは難しく考えすぎるところだ……俺が勝手に君を好きになって……勝手に力を上げるのだ……君は唯、力を押し付けられるだけだろう?その力どう使おうと君の自由だ……そんな事よりも勇気を振り絞って告白した男を待ちぼうけさせる方がひどいと思わないか?……俺泣いちゃうぞ?」
「わわわっ……ごめんなさいっ!?………その、ドーガ様の気持ちは素直に嬉しいと思います……ですが、私はまだ好きとかそう言うのがよく分からないので……何と答えていいか……それにドーガ様の言う通りドーガ様の純粋な心を利用するみたいで……」
「う、嬉しいと思ってくれるのか?」
「あ、ええ……それは……はい」
「そうか……それだけでも俺は嬉しいものだ……では、本音を隠して建前で物を言おう」
「え?……は、はあ?」
普通、本音を言った後にそう言うことを言うものでしょうか?
本音を知っていたら意味がないような?
「ローランシアの王子として盟友アンダールシアの姫に頼む……この力を使って我が国の国民とそなたの国を救ってくれ……これは姫であるそなたにしか出来ないことだ」
「!?」
「我が国の民を救ってくれ等と……余計な重荷を背負わせることになるが……頼む……俺がこの国の跡取りとして出来る最後の務めなのだ……そしてそれを任せられるのは一国の姫であるそなただけなのだ……」
つまりドーガ王子は、私がアンダールシアを取り戻したらローランシアの国も復興させてほしいと言っているのだろう……そして、それまでは残った国民の面倒も見てくれと……確かにそれはアンダールシアの国の力を使える私にしか出来ないだろう……。
「解りました……そう言うことなら……」
「っ!……恩に着る」
「ふふ、私に好意を抱いてくれた方の頼みですもの断れません」
私はなぜか意地悪を言ってしまう……王子の可愛い顔をまた見たいなと思ってしまったのです。
言った後に、私はなんて失礼なことを言ってしまったのだろうとちょっと後悔いたしましたが、その後悔は無用のものでした。
「はは、そう言ってくれると嬉しいものだな……うむ、やはり俺は君が好きだ」
「わひゃっ……あう」
逆にカウンターを喰らって私の方が赤面してしまいました……ちょっと悔しいです。
「では、俺のこのスキルの力を君に渡す……正直どれほど強くなれるかは解らないのだが……期待してくれていい」
「ありがとうございます……その力を使って、必ずアンダールシアを取り戻し、ローランシアを再興させて見せますね」
「ああ、頼む」
そう言うと、ドーガ王子はにっこりと笑い、光の粒子に姿を変え私の中へと入ってきました。
その瞬間、私の身体が輝き、新たな力を手に入れたのです………それと同時に、ドーガ王子の今までの経験……民や家臣への想いなど……いろいろなものを知ることが出来ました。
これは、ドーガ様も知っていたのでしょうか?私に対する気持ちも手に取るように分かってしまって、少々気恥ずかしいのですが……ですが、嬉しくも思います。
ドーガ様……必ず、ローランシアを復興させて見せます……私の中で見ていてくださいね。
ドーガに宿る女神の祝福の力を手に入れたメリッサ。
果たしてそれはどれほどのものなのだろうか?