第二幕 5章 15話 次の目的
15話になります。
ドーガのお墓に手を合わせた後、私達はローランシアを後にし、ラリアスの街へと戻ってきた。
そこで目にしたのは信じられないような光景であった。
街の至る所が壊れているのである。
遠目でそれを確認した私達は慌てて、ラリアスの門を潜る……もしかして、私達がいない間にこの街もローランシアのようになってしまったのではないかと焦ったのだ。
だが、門を潜るとそこには街を復興させようと、木材を運ぶ街の人達の姿があった。
「……よかった……でも、一体何があったの?」
「魔女様!」
カモメ達の姿を見た門番が、こちらに駆け寄ってくる。
カモメ達はその門番に事の仔細を聞いた。
「邪鬼が襲ってくるなんて……」
「敵が私達をそこまで敵視しているとは思っていなかったわね……」
「でも、なんで私たちのいないラリアスの街を?……私達を狙えばいいのに……」
確かに私達はラリアスの街を拠点にしている。
ラリアスの街の人達もレンシアの事やアンダールシアの事は知っているので確かに敵だと言えるだろう……でも、なぜ?敵からしてみればこの街自体が脅威にはならないはずだ。私かメリッサが残っていたというのなら解るんだけど……いや、でもララ王女はいたよね……ララ王女が狙い?
「恐らく、狙いはこれ以上の戦力の増強を阻止するため……だろうね」
「ですわね、ここ最近で獣王国が参戦しておりますもの、それに続いて参戦してくる国が無いとはかぎりませんわ」
「参ったわね、それなら、ここの守りを薄くするわけにはいかないじゃない」
「うん……とりあえず、アンリエッタさん達の所に行こう……これからの事も考えないといけないし」
クオンの言う通り、私達はその足で領主の館へと向かった。
領主の館へと着くと、そこにはアンリエッタとフィルディナンド王、それにレディとシルネア、クルードの5人がいた。
5人はなにやらアンリエッタの執務室で話をしている。
「っていうのが、冒険者たちの被害状況だ……そっちの姐さんのおかげで大して被害は出てないぜ」
「報告ありがとうございます……あれだけの魔物と邪鬼が襲ってきたというのにこれだけの被害で済んだのは不幸中の幸いでした……冒険者の皆様にも感謝を……」
「あいよ、ギルドマスターに伝えとくぜ」
どうやら、シルネアとクルードがギルドマスターからの伝言を伝えに来たと言ったところだろうか?
私達が扉を開けてはいると、5人はこちらに注視する。
「魔女様!」
扉を抜け、執務室へと入った私達はローランシアで起こったことを報告した。
「そう……ですか……ローランシアは滅んでしまったのですね」
私たちの報告を得たアンリエッタは暗い表情で下を向くとそう呟いた。
「いいえ、彼らの心はまだ折れておりません……彼らローランシアに住む者たちの心が折れない限りローランシアは滅んだりしません」
「メリッサ王女……そうですね……私達の心もまだ折れてはおりません……冒険者や街の人の中には今回の事でレンシアや今のアンダールシアに怒りを覚える者も少なくありません……ですが」
「今後もこのままではいかないだろうな……魔女殿の仲間がこの街を出払ってしまえば今回のようなことがまた起きるかもしれん……出来れば今後はいくらかこの街にも戦力を残した方がいいだろう」
フィルディナンド王の言う通りである。
今回はレディが何とかしてくれたが、次もそう上手く行くとは思えない。
邪鬼の強さは私達だってよく分かっているのだから。
「そうだね……それにしてもレディはさすがだね、邪鬼を二体も倒しちゃうなんて」
「え、ええ、それ程でもないわよぉん」
私が褒めたことにレディは少しぎこちなく返す……どうしたんだろう?
「それよりぃん、これからカモメちゃん達はどうするのぉん?確かに動きにくくなっちゃったけど何もしないわけにはいかないわよねぇん?」
「うん、実は考えていることがあるんだ……まだ、皆にも話してなかったけど、私はこの大地の女神を探そうと思うの」
「この大地の女神を探す?……どういうこと?」
私は、私の考えを皆に説明した。
メリッサの中に力として宿ったドーガ、そして私の夢の中に出てきたココア、その二人の持っていた天啓スキル『女神の祝福』これは、ドーガがメリッサに宿ったことによってその力がどういうものなのか理解出来たが……なぜ、こんなスキルを女神は与えたのか……死んでから発動するスキルなんてその人に死んでくれと言っているようなものじゃないか……一体何を考えているのか……それだけじゃない、女神の加護もそうだ……なぜ、ルークードなんて言う人間に女神の加護を与えたのだろう……この世界の女神がやっていることはよくわからないのだ……だから問い詰めたい……何を考えているのかって……。
「でも、女神がどこにいるか解らないんじゃない?」
「そうですね……私も女神さまの情報というのは……」
領主であるアンリエッタも女神さまの情報を持ってはいなかった……やっぱり女神を探すっていうのは難しいのかな……ディータやレナみたいに自分から人間にかかわってくれていれば見つけられうかもって思ったんだけど……。
「女神の居場所じゃないが、女神と話せる場所なら知ってるぜ?」
「え?」
私達が悩んでいると、そう声を発したのは意外なことにクルードであった。
「本当?クルード!」
「ああ、俺とシルネアは一回話したことあるから……な?」
「え、ええ……」
そう話を振るクルードにシルネアがちょっと戸惑ったように答えた。
(に、兄さん……どういうこと?)
(なぁに、困ってるみたいだったからな……シルネアは人間の手伝いをしたいんだろ?妹想いの兄ちゃんはその手伝いをしようと思ったのさ♪)
コソコソと話をする二人にカモメ達は小首を曲げる。
「どったの?」
「いや、なんでもないぜ」
「それで、そこはどこなのかしら?」
「ああ、ダンジョンの最下層さ」
「ダンジョン?」
ダンジョンって言うのは冒険者が一獲千金を狙うために潜ったり、腕試しをしに行く場所でもある。そんな場所に女神と話をすることの出来る場所があるのだろうか?しかも、最下層……最下層にはなぜか有用なアイテムが眠っていることがあるが女神と話をすることの出来るアイテムということだろうか?
「なぜダンジョンにそんなものがあるか疑問だけれど、まあいいわ……とにかく行ってみるだけの価値はありそうね」
ディータがそう言うと、私達は頷く。
「後は誰が行くか……だけれど……」
そう、ローランシアの時のように全員で言ってしまうと、またここが襲われたときに対処できないかもしれないのだ。そうなるとパーティをわけないといけなくなる。
「とりあえず、カモメは当然として……」
「ドーガの事を聞きたいし、メリッサには付いてきて欲しいかな」
「はい、私も直接女神さまに尋ねたいです」
「なら、後は……」
「俺とシルネアが行くぜ。案内が必要だろ?」
ひらひらと手を上げるクルードに、またもシルネアが驚く。
「に、兄さん!?」
「大丈夫さ、魔女が一緒なんだから危なくないって」
「そ、そうじゃなくて……」
(悪いなシルネア、ここは俺のわがままに従ってくれ……兄としてこいつらを信用できるか確認したいんだ)
クルードがひそひそと話すとシルネアはその言葉を聞いて心底驚いた……今まで、兄は私に危険が無いようにと危険が近づくようなことは一切しようとしなかった。
魔物の討伐ですら、大して強くもない魔物ばかりを選んでいた。あくまで低ランクの冒険者を偽り、有名にもなろうとしない……それは、兄は人間を信じていなかったからだ。
だが、そんな兄がカモメさんを信用できるか確認したいと言ったのだ……シルネアは驚くと同時に嬉しくもなった。兄が自分と同じように人間に興味を持ち始めたのだと……それを聞いたシルネアは驚いた後、嬉しそうに何度も首を縦に振った。
「シルネアとクルードが来てくれるなら嬉しいよ……じゃあ、この四人でいいかな?」
「そのダンジョンの難易度は大して高くないのかしら?」
「普通の冒険者じゃキツイと思うぜ、なんせBランク以上の魔物がごろごろとしていたからな」
「アンタら、よく無事だったわね……」
「あ、ああ、逃げまくってたら運良く最下層に出たんだよ……な、シルネア!」
「え、ええ」
(もうっ、兄さんったら!)
自分がCランクの冒険者だという事を忘れて言ってしまったクルードの足をシルネアが踏む。
足を踏まれたクルードは目に涙を溜め痛がった………その行動にディータは眉を動かしたが、一度溜息を吐くと今度はレディを見た。
ディータに見られたレディは思わず視線を逸らす。それを見たディータがもう一度溜息を吐く。
「まあ、Bランク程度ならカモメ一人でもなんとかなるわね……メリッサの強化された力も試すのにちょうどいいし……いいわ、四人に任せる」
「うん、任せてよ!」
「カモメ、ここの女神はふざけたこと言ったらぶん殴ってやりなさい」
「ええ!?」
さすがに女神さまをぶん殴るのはどうなんだろう……しないよ?しないと思うよ?……多分。
ま、まあ、それは置いておいて、とりあえず次の目的が決まった。
そして、決まったのなら善は急げだ……簡単な準備を済ませたら早速出発をすることに決まった。
目指すは女神と交信の出来るダンジョン!ダンジョンかぁ……こんな状態じゃなかったら楽しかったのになぁ……冒険者として……そういえば、ダンジョンに入るには冒険者ランクCが必要なんだっけ……今回はクルードがいるから大丈夫だけど、その内自分たちでも潜れるよう、レンシアの一軒が片付いたらランクを上げないとね。
そんなことを考えながら、私はダンジョンへと向かうのであった。
女神と交信できるダンジョンへと向かうこととなったカモメ達。
果たして無事女神と話すことはできるのだろうか?