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  作者: 恵樟 仁
アンダールシアの危機
15/29

第二幕 5章 12話 貪る者

12話になります


「馬鹿な……あれは一体……」

「味方の死体を食べて……姿が変わった?」



 フィルディナンドとコハクが驚愕するのも無理はない。

 残り一体のグラゴストは近くに転がっていた、別のグラゴストの死体を貪り食うと、体が不気味な音を上げ変形していったのだ。筋肉はより隆々に、牙とツメも伸び、その醜悪な姿がさらに増す。

 そして、仲間の死体を食い終えたグラゴストは顔を上げる。

 その視線の先にあるのは……。



「マズい、これ以上、奴に食わせるな!」



 フィルディナンドがグラゴストの視線に気づき、声を上げる。

 そう、今、グラゴストが食べたのは仲間の死体一つなのだ……もう一つ、セリシアナ達とヒスイに倒された死体がある……グラゴストはその死体を見ると、まるでその死体を食べることが当たり前なのだというかのように自然と足をそちらへ運ぶ。



「ヒスイ!」



 リーナの声にヒスイが反応し、グラゴストとその死体の間に躍り出る。

 ヒスイはそのままグラゴストへと向かって走り出す。

 その行動にセリシアナも合わせ、雷の魔法でグラゴストの脚を撃ち抜いた。

 セリシアナの魔法でバランスを崩したグラゴストの首をヒスイがその鋭い爪で刈り取る……筈だった。

 先ほどまでのグラゴストであれば、それで命を奪えていたのだろう。

 だが、セリシアナの魔法が直撃したにも関わらず、グラゴストはバランスを崩すどころかその歩みを止めなかった……いや、セリシアナの魔法だけではない。ヒスイのするどい爪も確実に敵の首へ命中したはずであったのに、傷一つ付かなかったのだ。



「馬鹿なっ」


 

 先ほどまでとまるで違う頑丈さにセリシアナが驚愕する。

 ヒスイもその表情から困惑が見て取れた。


 グラゴストは二人を気にも留めず、そのままもう一体の死体の傍へと移動し、先ほどと同じように貪り始めるのだった。



「くっ……これ以上強くさせるわけにはっ!雷閃槍(ライトニングランス)



 セリシアナ達に背を向け貪り続けるグラゴストの無防備な背中に、セリシアナの雷閃槍(ライトニングランス)が直撃する。

 だが、先ほどと同じようにまるで何事もなかったのように平然と食うのを止めないグラゴスト。

 そこに、リーナの回復で体力を戻したフィルディナンドとコハク、ララ王女も加わり、なんとか食べ終わる前に倒してしまおうと総攻撃をかけるのだが……誰の攻撃も一切効かなかった。



「これは……」



 誰の攻撃も受けず、このままさらにその姿を変えさせてしまえば、この魔物を止めれるものはこの街にいなくなってしまう……いや、今のこの時点ですでにどうしようもないのだ……。

 今すぐレディを連れてきて……いや、いくらレディと言えど邪鬼二体と戦った後では無理があるだろう……絶望か?



「くっ、リーナ!空間魔法を使い、レディを呼んできてくれ!」

「は、はいっ」


 リーナはフィルディナンドの言葉を聞き、空間魔法を使い街とこの場を繋げて移動をする。



 解っている、今は街も大変な時、ここで街からレディがいなくなれば街を護れるものがいなくなる……そうなればこちらが勝利できたとしても街の人間が魔物に殺されてしまう……それでは意味がない……。だが、街が護れてもこの魔物を生かしたままにしてしまえば結局はこの魔物に街を滅ぼされる……ならば、街の冒険者を信じ、この魔物を倒せる可能性に賭けるしか……もしかしたら魔族との戦いで疲弊しているとはいえ、レディの協力があればここにいる者でこの魔物を倒せるかもしれん……そして、すぐに街の冒険者たちを助けに行けば……。



 それは可能性というよりもただの期待。

 勝てる希望というよりもただの願いであった……だが、フィルディナンドにはこれ以上の考えが思い浮かばなかったのだ。今ここにいる戦力であの化け物を倒す術がない。

 攻撃が効かないのではどうしようもないのだ……だが、レディのあのとてつもない攻撃力であればこの化け物にもダメージを喰らわせることが出来るかもしれない……なら、今、仲間を貪ることに夢中である今のうちにレディをここに連れてくるしかない。そう思ったのだ。





 フィルディナンドに言われて、弾かれたように魔法を使用し、空間を移動したリーナは街の領主の館前へと移動していた。リーナが現れた場所に、丁度、二人の男女が歩いてやってきていた。

 女性の方は小さな子供の身体を抱いて……いや、遺体だろうか……首から上がない。

 身なりからすれば冒険者であろうその二人がいきなり出現したリーナに驚いて立ち止まっていた。



「おいおい、嬢ちゃんすげぇ魔法使うな……」

「えっと、確か結界の中から来た冒険者の方でしたっけ……」

「は、はい、リーナと言います……えっと、その子は?」



 リーナが子供の遺体の事を聞こうとしたその時、領主の館の方から悲鳴に近い声が聞こえる。



「いやああああああああああああ!!坊や!!!坊やああああ!!」



 恐らく、この子の母親なのだろう。

 抱いていた女性冒険者の腕から、その子の身体を勢いよく抱き取り、そのまま蹲るように抱きしめながら泣き続けた。



「ごめんなさい……護ることが出来ませんでした」

「すまねぇな……」



 そう言う二人を母親はにらみつけ、嘘つき嘘つきと涙を流しながら罵り続けた。

 そして、我が子を抱きしめたまま、その場から動こうとはしなかったのだ。



「……あの、レディさんという方を見ませんでしたか?」



 リーナは隣で泣き叫ぶ女性を気にかけたのか小さな声でシルネアへと尋ねた。

 彼女を気遣ってあげたい気持ちはあるのだが、このままではその子供だけではなくこの街の人間全てが殺されてしまうかもしれないからだ。



「レディさんなら市場の近くでまだ魔物と戦っていると思いますけど……」

「なんかあったのか?」

「はい、邪鬼が残した魔物がとても強く……レディさんの力を借りたいのです」



 その話を聞くと、二人の冒険者のうち男性の方がそうか……と呟いた後、レディの詳しい場所への道のりを教えてくれた。

 その道のりを聞いて、リーナはお礼を言ってすぐさまその場から離れる……子供の母親が小声で「邪鬼め……」「許さない……」などと言っていたのが気にはなったのだが、今は一刻を争うのだ。



「急がなくちゃ」



 教えられた道をリーナは必死に走るのだった。



 

一縷の望みにかけレディを呼びに行くリーナ。

果たしてレディはあの化け物に勝つことが出来るのだろうか?

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