第二幕 5章 9話 二人の隠し事
9話になります
「どういう事じゃ……滅びの力じゃと?………馬鹿な、あれは我らが神の力……あれが使えるのは我らが神と我らが神に近しい者のみ使える力のはずじゃ……っ!……まさかお主らっ!」
「おっと、何を勘違いしているか知らねぇけどよ、それ以上は話してくれないで欲しいね……俺たちは唯の人間の冒険者なんでね」
「戯言をっ」
「あらよっと!」
邪鬼の放った光弾をクルードは赤い魔力を纏った槍で軽々と弾き返す。
その後も連続で放たれる光弾を悉くその槍で弾き返していく。
「くっ……なぜじゃ!なぜ人間のフリなどしておる!」
「……別に大した理由じゃないぜ?」
「なんじゃとっ!」
「単純に妹は人間が好きで殺したくないってだけだ」
「馬鹿な……人間が好きじゃと!ありえん!ありえん!!……ならばお前はなぜ人間の味方をする!」
「決まってるじゃねぇか……俺は妹が大好きだからだよ!」
「ぐはっ……な、なんじゃ……その理由は……」
クルードの投擲した槍が老人の邪鬼の心臓へと突き刺さった。
「ぐっ……お主ら……後悔するぞ……我らが神の復活は近い……そうなればお主らなど……」
「うるせぇな」
「ぐはっ」
邪鬼から槍を引き抜き、喉へ再び突き刺すクルード。
二度目の槍を受けた邪鬼はそのまま崩れ落ち、消滅するのであった。
「あらぁん……クルードちゃんも随分強かったのねぇん」
「………で、アンタはどうする?」
「どうするってなにをぉん?」
「俺らの正体、気づいてんだろ?魔女に言って討伐するか?……もし、シルネアに手を出すってんなら……」
「だ、駄目よ兄さん!」
「わりぃが……いくらシルネア頼みでこいつは聞けねぇ……コイツがお前に危害を加えるって言うなら……」
「うふふふふふ」
「……何が可笑しい?」
「あらぁん、ごめんなさぁい……良いお兄ちゃんねぇん、シルネアちゃん♪……大丈夫よぉん、貴方達が何だったとしてもカモメちゃんもカモメちゃんの仲間も気にしないと思うわぁん♪」
「そんなわけがねぇだろ……」
「これでもぉん?」
そう言うと、レディは自分の指にはまっている指輪を取って見せた。
指輪を取ると、肌色だった肌は緑色に代わり、人間の恰幅の良いおばちゃんに見えていたその姿はオークの姿へと変わる……それも普通のオークではない異常種……まるでオークに女という性別があればこんな感じであろうと思えるような怪物の姿へと変わったのだ。
「魔物……それも異常種か……?」
「そうよぉん……もちろんカモメちゃん達も知っているわぁん♪」
レディは自分とカモメとの出会い、そしてカモメがどんな人物なのかをシルネア達に話した。
「まあいい……とりあえずは信じてやる……だが、魔女たちには話さないと約束しろ……魔物は大丈夫でも邪鬼はちげぇかも知れねぇからな」
「そんなことないと思うわよぉん……でも、解ったわぁん、その方がクルードちゃんが安心するっていうならそうするわよぉん♪」
「はあ……調子狂うやつだな……だが、感謝するよ」
そう言うと、クルードは持っていた槍をしまう。
そして、シルネアは殺された少年の方へと歩み寄っていった。
「ソイツをどうするんだ?」
「お母さんの所まで連れて行ってあげないと……」
「そんなもん持って行っても母親も辛いだけだろ?」
「うん……でも、結局解ることだし……せめて体だけでも……ね」
「そんなもんかね……」
シルネアは自分のマントで少年を包むと、その子を抱きかかえた。
「ごめんね……守ってあげられなくて……」
「それじゃあ、その子は任せるわねぇん……私は残った魔物をここで食い止めるわぁん」
「ああ、俺らの力をアテにすんじゃねぇぞ?今回のは仕方なくだ……普段は人間のEランク冒険者としての力しか使わねぇからな?」
「解ったわぁん」
「すみません……力を使うと魔力が赤いのがバレしまうので……」
「いいのよぉん、後は任せてぇん♪」
そう言うと、レディはその場から離れた。
先ほどの邪鬼との戦いで魔物たちは邪鬼の戦いを邪魔しないためか近づいてこなかった。
だが、その代わり回り道をして領主の館へと移動していたのだ。
道が狭いお陰か、未だ領主の館へはほとんどが着いていないようでレディはその狭い通路で魔物たちを駆逐していった。
魔族二体が消滅したことによって、ラリアスの街を襲っている敵は大分対処が出来るようになっていた……だが……。
「ぐはっ!?」
「フィルディナンド王!」
街の外では未だ一体の邪鬼がその脅威を振るっていたのだった。
シルネアとクルードの隠した力によって邪鬼を退けた。
だが、ラリアスの街の外で戦うフィルディナンドたちの戦いはまだ続いているのであった。




