第二幕 4章 1話 ツァインの王
4章1話になります。
エルフの集落を後にし、私達はラリアスの街へと帰って来た。
コハク達からツァインの王、フィルディナンドがこの街へ来ていると聞いて帰った早々、領主の館へと向かう。
領主のアンリエッタに面会をし、王様たちの事を聞くと王様はこの館に滞在しているらしく、私達が帰ってくるのを待っていたという。
早速アンリエッタに、王様たちを呼んでもらい、少し待っていると懐かしい顔が二つやってくる。
「相変わらず、トラブルに巻き込まれているようだな、魔女殿」
「お姉さま、元気そうでなによりです」
「王様、久しぶり!」
「あら、レ……じゃなかった、アネルも来ていたのね」
現れたのはツァインの王であるフィルディナンドと光の女神でありディータの妹でもある、レナ……光の女神であることは隠しているため、人前では人間としての名前であるアネルで呼んでいる。
「あれ、ソフィーナは?」
「ああ、あいつは留守番だ。全員を連れてきてしまったら国の護りが不安になるからな」
「そっか、久しぶりに会いたかったけど残念」
ソフィーナは騎士団長である。
国の護りを任されるのは当然と言えば当然だね。
「それで、どうしてラリアスの街に来たの?」
「ああ、他の国とも話し合って、こちらの国と和平を結んでおくべきだということになってな」
どうやら、他の国の人達と話し合ったらしい。
なんでも、このままだと大陸から攻められてしまうのではないかと不安の声が上がったのだとか……確かに、こっちの大陸では私たちのいた大地は魔の海の向こう側にあることになる。
結界が無くなったことを知ったこっちの大陸の人達が恐怖から攻撃を仕掛けてくる可能性は十分にあったかもしれない。
そうならないように、こちらから話し合いをしに来たということらしい。
「だが、こちらもあまりいい状況ではなかったようだな」
「うん、レンシアっていう国が他の国にちょっかいを出し始めてるみたいで……」
戦争状態と言っても過言ではないだろう……それどころかアンダールシアはすでに乗っ取られてしまっているのだ。
「聞いた話によると、魔女殿はそちらのアンダールシアの王女に力を貸しているのだろう?」
「うん、そうだよ」
「理由を聞いてもいいか?」
「ん?なんとなく?」
私が答えを返すと、フィルディナンド王はずるりとコケる。
「ク、クオン殿……」
「まずは、このメリッサが暗殺者に襲われているところをカモメが助けたところから始まりました。その時は彼女がこの国の王女とは知らなかったんですが、暗殺者に狙われているということは間違いなかったので保護をしました。そして、その後に王女と解ったんです。それで、アンダールシアが何者かに乗っ取られたということを彼女から聞き、僕とディータでアンダールシアに潜入をし情報を集めに行きました」
「その結果、メリッサ姫の言う通りだったというわけか」
クオンがコクリと頷く。
「それも、メリッサに親殺しの濡れ衣を着せ、あたかもメリッサが反逆したという情報まで流してね」
これも許せないことだと、ディータが続ける。
それを聞いた、王様とレナは顔を強張らせる。
「なるほどな……その状況では見捨てることなど出来ん訳だ」
「それで、王様たちはどうされますの?結界の中の国であるツァインがこの事に手を貸すわけにはいかないんじゃありません?」
「そうだな……もし手を貸せば、我々が侵略しているように思われるかもしれん」
そう、前にもクオンが言っていた。
人は未知のものを怖がる。結界の外の人達からしてみれば結界の中の住人、ましてや魔の海と呼ばれる場所の向こう側から来た私達は信用できない相手になるだろう。
その私達が、アンダールシアの奪還に協力すれば、お姫様を裏から操り、アンダールシアを乗っ取ったと思われても仕方ないのだ。
「でも、えっと……私達が結界の外から来たってこと多分バレてるんじゃない?」
「どういうことだ魔女殿?」
「だって、私がこの街で邪鬼を倒した時、アンリエッタが私が結界の外から来たことをバラしてた様な?」
「……あ」
そう、邪鬼が来たとき、この街の人達はパニックを起こしていた。
それを鎮めるための希望として、私が魔の海から来たことをラリアスの街の人に堂々と話していたのだ。
つまり、街の人から私たちの存在はすでに広がってしまっているはずである。
他の国に噂が届くのも時間の問題と言えるだろう。
「つまり、結界の中の私達がアンダールシアとレンシアの戦争に首を突っ込んでいることは隠しようがない……ということか」
それを聞いて頭を抱えるフィルディナンド王……いや、でもあれは仕方ないことだったと思うよ?
必死に謝るアンリエッタに、フィルディナンド王もそれが分かっているのか、アンリエッタ殿のせいではないと言っていった。
「ですが、僕らが結界の中から来たということがバレても、それがツァインに結び付くわけではありません……僕ら個人がメリッサに協力しているだけです……この国の人達がそう思ってくれるかは解りませんが、恐らく結界が無くなったこと自体、半信半疑なはずです」
「ふむ、それならば、国として手を貸さなければ問題はないか……」
「恐らく」
確かに、数人が手を貸しているだけで、結界の中の人間が攻めてきたと思う人は少ないだろう。
そもそも、結界の中に国があるかどうかすらこの大陸の人は知らないのだ。
「ならば、我々は手を出さん方がいいだろうな……メリッサ姫には申し訳ないが……」
「いえ、もし私に手を貸せば貴方の国の民が不安に思うかもしれません……その判断は間違いではないと思います」
「そうか……助かる。その分、魔女殿をこき使ってやってくれ」
「ちょっと、王様ぁ?」
「ははは、冗談だ……だが、本当に何もしないままと言う訳にもいくまいな……レディとコハク達」
「ええ、任せて頂戴ぃん♪」
「カモメさんに協力すればいいんですね」
「え、いいの?」
「レディやコハク達を見て兵士だと思うものはおるまい……現にコハク達は冒険者だしな……少しでも戦力は多い方がいいだろう?」
もちろんだよ、レディやリーナ、コハクにヒスイが手伝ってくれるならこれほど嬉しいことは無い。
「それじゃ、これからよろしくねぇんカモメちゃん♪」
「よろしくお願いします」
「こっちこそ、頼りにしているよ!」
嬉しいことに、レディたちが私達に手を貸してくれることになった……彼女たちがいればラリアスの護りを任せることが出来る……そうなれば、未だに連絡の来ないローランシアの様子も見に行ける。
獣王国とはすでに手を結んでいるので、東のローランシアとも手を結べればアンダールシアを取り戻すこともできるかもしれない。
段々と、先が見えてきたよ!
無事ラリアスへ帰ったカモメ達。
そこでツァインの王フィルディナンドと会う。
レディたちの協力を得て、力をつけてきたカモメ達、次に向かうのはローランシアとなりそうであるが・・・果たして。