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目が覚めると、男は硬い地べたに寝転んでいたのがわかった。
昨日は普通にいつもの畳敷きの部屋に布団を敷いて就寝したはずだった。胸につっかえるような痛みが残る。
ぼやけた視界が少し開けてくると、彼は森の中にいるらしいことがわかった。
体がうまく動かないが、しかし夢にしてはリアルすぎる。
するとそばに人影が見えた。顔はよく見えなかったがその人はこう言った。
「順平ごめんね。母さんもすぐに逝くからね」
あたりに鈍い音が響いた気がした。彼の意識はそこでとぎれた。
◆
「おめでとうございます!あなたは死にました」
広さも出入り口もわからないような壁のない真っ白な部屋に来た矢先、見知らぬ子供にこう言われた。
「本来そのまま地獄行きだったキミを情けで助けた相手にそんな邪険じゃいけないよ」
男はほならねそのまま地獄に落とせばよかったでしょ、といいたかったが、何故か得も知れない恐怖を感じ、萎縮しながら
「アザス……アザス……」
としか言えなかった。
「というわけで、これからキミについて手短に振り返るよ。教会の習わしだから我慢してね。こっちもストレスフルだからよろしく。
キミの前世の名前は浜崎順平。享年34歳。死因は出血多量と脳震盪によるショック死。お母さんに殺されたんだね。
キミは広島に生まれ、大阪で両親や妹とともに不自由なく暮らしていた。いや、そうでもないか。嫉妬深さや共感性の薄さから小学生時分はフォローされたけど中学生過ぎたあたりから成績の明確な低迷とともにだんだん孤立。皮膚科や内科をいったりきたりしつつ、紹介された吹奏楽団はばっくれ。家でテレビドラマ視聴やレースゲームにいそしんでいるうちに受験期が到来するも眠りこけたウサギに勝機はなく。
アクティブでなかったしさほど不良遊びもしらなかったから滑り止めの岬高校では完全に孤立。ここで特技をつけんと情報科を選択。それ相応の知識をつけて専門学校に進むも、授業のサボりがツケとなるが、学閥からそれ、昔ながらのコミュニケーション障害孤独に耐え兼ね中退。
しかしそれからの10年は奇跡的だ。
製氷工場やヨットハーバーのアルバイトをしつつ、音楽ソフトやコミックソフトを購入し、コミュニティサイトやyoutubeに投稿する趣味を発掘。
今度こそはとコミュニティを立ち上げ友人探しに奔走するも、昔ながらの自己中心的で配慮にかける姿勢は誰にも救いようがなかった。
平行してゲーム実況を開始し、それなりに名を馳せる。コラボをしたこともあったがいずれもシリーズの最後まで成立したためしなし。
しかしのび太のBIOHAZARDシリーズで大ブレイク。ゲーム実況での知名度を大きく引き上げる。それなりに広告収入を獲得できるようになり、自撮り動画の投稿を開始。投稿された珍奇な食品遊びや奇怪なカラオケ動画は今日にいたりて大勢の人々を笑わせている。
しかし遅れてきた性欲で次第にトラブルに見舞われるようになり、それでも辞めるそぶりはみせなかったがコンドーム動画や勃起をさらした動画が親に見つかったため、父親に脅される形で引退。
その後就職先探しに奔走するが、不景気な時勢に高卒、社会人経験なしの30代を雇う余裕は企業にはなく。無職状態がたらたら続いた末、母親に殺された。
って感じだね」
男の顔はひきつっていた。
「そこでだけどね。」
男は子供の次の一言を聞きおののいた。
「3億円といっしょに生き返れるって言ったら何でもしてくれるかい?」