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たれの面影

作者: 海雲亭 鸞鏡

此文に於くや、予は予就る可し。

 昔日

甘き思いか夏の日の

母と歩めし知らぬ街

あたらしきたえなる感に溺れしは

今の吾に似合いたる哉


葉の滋く木立の影に母は立ち

こなたを向くば微かに笑みて

胸にかくるる月の影

吾は知らずかけてみし哉


海に向いし時も有り

波に流され陽を浴びし

吾の心の流されて

痛く残るは焼けしあと哉


酒に染み嘆くことも屢有りき

秋も冬もすずろと生けし

今の吾と似ゆる気もして

今年も桜は咲けしにか


 死

重き鉛の垂こめる

月影の闇よいずくに光はあるか

吾が胸の影の落つる

時よ来しらむ


死をとめてナイフを持ちし

こともありけり

昏倒に苦しむことも時にありけり

顔色の優れぬころの写真はあらざり


粉蝶の塵灰と就る

夏の空

藍色に染まる夕暮は

心地の良くも感ぜしや


時のたつ遅きに草臥れ

病みてゆく

覚悟せば終わりと思いて

必至とこらえぬ


 今時

春の日の空ぞ恨めく思う哉

何人も背向に足を進めたる

今年も桜は咲けし頃

吾は思いにかたはづく


拡がる想いに終止はなしか

疲果て吾が燈火もあたらしく

たえ就るは

昔の彼人に似りし哉


萌出づる草木のはかなく思い出し

西日に母のかおを見ゆ

西日の通いし木漏れ日は

あの日の笑みを思い出せり


吾が心あの日の若く散らんにか

日々に迫るる愁雲と靄

せめて戦慄く此生に

僅かな幸いあらなばや

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