少女「好きです。死んでください」
ギャグ短編です。途中で力尽きました。
好きな人に死ねと言われたら死ねるだろうか?
「好きです。死んでください」
放課後、屋上に呼び出された僕は、3年間片思いを続けた女の子にそう言われた。
包丁片手に、素晴らしい微笑みを投げかけてくる彼女に、僕は一瞬、どんな言葉を掛ければ良いのか分からなかった。
僕はまず、聞き間違えた可能性を疑った。死んでくださいと聞こえたのは、「付き合ってください」とかそれに類するような言葉だったのかも知れない、と。
「ごめん。も、もう一度言ってもらっていい?」
「好きです。死んでください」
二度も言わせるんですか!?と彼女は驚いた顔をしたが、頰を朱に染めながらも、もう一度はっきりと言ってくれた。
ああ、聞き間違いじゃない。彼女は僕に死んで欲しいらしい。
僕は彼女に恨まれるようなことをしただろうか?
彼女個人に何かをした覚えは全くないが、もしかしたらクラス全体に何か迷惑を掛けていたとか、居眠りのいびきがうるさいとか、そういうのがあるのかも知れない。
「僕、君に何か恨まれるようなことしたかな?」
彼女は一瞬、キョトンとした顔になり、そして顔を真っ赤にして慌てたように言った。
「ち、違うの!そうじゃなくて......!」
「あなたのことが好きだから、その......。ずっと一緒に居たくて!」
嬉しいことを言ってくれる。できることならば、僕も君とずっと一緒に居たい。それが死に直結するものでなければの話だが。
「えぇと......」
彼女の気持ちは凄く嬉しいし、できることならば付き合って欲しい。しかし、彼女は告白を要求することで僕の死を望んでいる。
3年間妄想でしかなかったものが、急に現実として襲いかかってきたのだが、その彼女の要求のせいでひどく現実離れしているように思える。そもそも、恋慕の告白とは死の要求を伴うものなのだろうか?
「ちょっと、考える時間を貰ってもいいかな?」
先延ばし作戦である。これで今度は彼女が困ったような顔になった。困り顔の彼女もとても可愛らしい。
「やっぱり待てません。今すぐ返事をください!」
ダヨネー。
これには困った。今僕は、死ぬか好きな人からの告白を断るかを迫られている。究極の選択とは、正にこのことを言うのだろう。
「僕が死ぬ以外の選択肢は無いのかな?例えば、お付き合いするとか......?」
「ありません。私はあなたに死んで欲しいんです」
彼女の目は至って真剣だった。
彼女の要求は、僕には余りにも重すぎる。好きな人のためなら死んでも良い、とはよく言うが、死んでしまったら、もうその人とは会えないのだ。ましてや付き合う間も無く死んでしまえば、それは例え両想いだったとしても恋仲と言えるのだろうか?
「うーん、付き合うとかならともかく、死ぬのはちょっと......」
「私のこと、嫌いですか?」
「いや、そうじゃなくて」
「ちなみに、一応だけど、念の為聞いておくけど、もし、だよ?お断りしたらどうなるの?」
「そのときは、あなたを殺して私も死にます」
「じゃあ受け入れたら?」
「そのときは、あなたを殺して私も死にます」
それって、どっちに転んでも僕は死ぬよね?
どうやら僕の死は回避不可能らしい。
その現実と向き合い、何故か頭が明瞭になってくる感覚がした。もしかしたら、脳が死を認識して走馬灯を見る準備を始めたのかもしれない。
「君の想いを受け入れるには、ちょっと重すぎる」
僕の口は、勝手に動き始めていた。
「君の為に死ぬことは出来ない」
「......けど」
彼女は悲しそうに眉を寄せる。当然だ。振られているのだから。
それでも僕の口は勝手に動く。
「君のことは好きだ。僕と付き合ってください!」
彼女は、はっと息をのんだ。
「無理です」
「えっ?」
「えっ?」
彼女は真顔で即答した。
僕は困惑した。
彼女も困惑した。
想いが伝わらないのなら......。と呟く彼女の手に力が篭る。包丁の刃先が僕の心臓に向いたのを感じる。
「ごめんなさい!」
グサーッ!
「......ッ!?」
声にならない声が漏れ、全身が硬直する。恐る恐る自分の胸を見ると、胸の真ん中きら包丁の柄が生えているのが見える。
全身から徐々に力が抜けていくのを感じた。
「痛い?」
上目遣いに少女が聞く。それはまるで天使の福音のように聞こえた。
「......めっちゃ痛い」
それが僕の最期の言葉だった。
薄れ行く意識の中、彼女もまた自分の胸を刺し、僕の横に倒れるのを感じた。