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無双は夢想で異世界ファンタジー  作者: いえろぉらっと
森と僕とゴブリンと
5/6

急展開は早すぎて

ゴブリンは全身の肉を裂かれ、白色の骨が覗いていた。青白い臓物らしきものを腹からこぼしながらピクピクと痙攣していた。全身が青っぽい血液にまみれ、白目を見せていた。ゴブリンの命は風前の灯火、確実に死ぬ。青と緑のコントラスト、青白い臓物に白骨。痙攣しながら、肉が腐るような嫌な匂いを漂わせる。その光景は、実に気持ち悪く不快だった。


だが不思議なことに楓はそれを見て、気持ち悪いとは思わなかった。寧ろ急速に先程までの感情が薄れていくのを自覚した。ゴブリンの殺害への罪悪感、忌避や不快感、それらはもうほとんど無かった。だからといって興奮したとか、愉快だとか、動揺した訳でも無い。落ち着いて、冷静になったとも言うべきか。弱すぎたからかもしれない。拍子抜けした、そんな感覚。圧倒的な戦力差の事実が更にゴブリンへの同情を薄めていく。蟻を誤って踏み潰した気分だ。そもそもコイツは僕が投石を外した時点で逃げられたハズだ。それでもなお、僕に攻撃してきたのだから正当防衛だろう。そう、仕方なかったのだ。血を吸いに来る虫けらを叩き潰すのと同義。


そう考えている内にゴブリンは痙攣を止めていた。もうピクリとも動かない。死んだか。それでも楓はやはり、無感動だった。心臓の鼓動と共に青い流血も止まっていた。まるでそこだけ時間が切り取られたように静かだった。まだ、嫌な臭いは辺りに漂っていた。


少し頭痛がした。


■■■


楓は自ら張ったテントの中で思考していた。マットや寝袋など寝具が無いという重大な欠陥が見られるそのテントは嫌がらせの一環だろうか。お尻が痛い。ふざけんな。


そんなことよりゴブリンについてだ。あの後も何体かゴブリンは僕を襲ってきた。それらも悉く撃退したのだが、そのことである疑問が生まれた。三体目の事時だった。攻撃してきたゴブリンを僕の投石で右肩から先をの吹っ飛ばしたら、体を震わせ怯えたようにこちらを見始めたのだ。コイツらにも感情があるのかな?と思った瞬間、突如薄汚い腰巻きから葉っぱを取りだしゴブリンは口に含んだのだ。その行動に疑問を持った僕は黙ってゴブリンを観察していた。すると葉を咀嚼しているうちにゴブリンに変化が見られた。快感を浮かべたようなキモい顔になったと思うと、またもこちらへ狂ったように攻撃を開始した。白目を剥いて黄ばんだ歯をむきだしにしながら戦うゴブリンはとても正気には見えなかった。


僕はゴブリンが口に含んだのは麻薬の類いでは無いかと考えている。詳しい知識は無いにせよ、快感を誘発させて正気を失わせる葉っぱだというのは確かだ。三体目は他とは様子が全く違った。一体目はただの馬鹿。どちらにせよ恐怖に打ち勝つために麻薬を使用するほど彼らは高等な存在では無いはずだ。それに恐怖を感じたなら逃げれば良いはずだ。何故そこまでして僕に執着を見せたのだろうか。考えられる点は、何かゴブリン以外の存在に使役されているという点だ。であれば突発的に現れた僕を排除しようとしたならば納得がいく。


だがそれが人であったならば厄介なことになる。ゴブリンならまだしも人を殺すのは精神的に無理だし、僕が人間の平均的な強さを知らないから確実に勝てるとも言えない。何より勝手に侵入して、勝手に敵対して、勝手に人を殺すというよはあまりにも非人道的だろう。ならどうするか?


とりあえず僕はゴブリンの死骸を穴を掘って埋めた。証拠隠滅。だが手についた臭いが取れなくなった。どうやらゴブリンの呪いかもしれないなと思った。


日が傾き始めた頃、僕は森を歩いていた。森に入ったのは昼過ぎだ。つまり、見事に迷った。テントは収納鞄に仕舞っているので戻らなくても問題は無いっちゃ無いんだが、森の中で寝るのは何かやだ。木にナイフで傷を付けながら歩いていたのだが同じ景色がずっと続くと、それはメルヘンとグレーテルのお伽噺かごとく役に立たなかった。普通に迷った。森なめてた。


そもそもこの森はバカでかい。パッと見て果てが見えないくらいには。森初心者が迷うのも必然と言える。だからしょうがないよね!僕のせいじゃないよね!一人で言い訳しつつ森を歩き進める。この強化ボディは疲れを知らないターミネーター的な何かなので、いつまで歩いても足への疲労が全く感じられない。体力については問題ない。


顔を上げる。鬱蒼と繁りに繁ったこの木々はてっぺんがみえないほどに大きい。そんなのが森を埋め尽くすように生えているもんだから日がほとんど射し込まず、昼過ぎに森に入ったのにずっと夜のようで不気味だ。まぁ見えるか見えないかといったら、余裕で見える。そう、Masai eyesならね。そしてふざけた脳内ナレーションをかけた、その時だった。


ーーーかかかかかかかっ。


そんな音が耳に入った、次の瞬間振り向いたはずの僕の視界は天と地と緑が入り乱れた螺旋を描いていて、全身が打ち付けられていて、痛かった。吹っ飛ばされた、そう気付くと同時に今度は後ろから巨大な何かに背中をしたたかに殴られた。視界が明滅して真っ白になる。肺から息が雑巾を絞るように捻り出される。


「ーーっ!!」


息が吸えない、苦しい。胸を抑え、そのまま前に倒れこみ四つん這いになった。息絶え絶えになりながら背中を打ったのだと気付く。だが背中以外に痛みは無い。どうやら骨折はしていないようだ。僕が衝突したらしい後ろの大木に、背中を押し付けながらフラフラと立ち上がる。まだ目がチカチカする。


頭が、痛い。


目の前を見ると地面が陥没したへこみのようなものがいくつか見えた。そして薄暗い景色の中で八つの輝く大きな赤色の光がこちらに猛スピードで近づいてくるのも、見えた。




ーーそれが、ひどく大きな蜘蛛だということにさほど時間はかからなかった。


巨大蜘蛛は僕から数メートル離れた先まで来ると急停止した。近くで見る巨大蜘蛛は細部までよく見えた。黒い体毛がびっしりと全身を覆いつくし、その赤い目が一層目立っている。口元が鋏のように開いていて、恐竜の爪のような牙が四隅に生えていた。これが鋏角ってやつだろうか。そこから見える赤黒い口内は人のような歯がずらりと並んでいた。蜘蛛は威嚇するかのように鋏角を震わせ、硬質な音を響かせる。かかかか、っと。さっきの音はこれか。


まだズキズキと痛む体に鞭打ち大木の支えから離れ、蜘蛛に向かって何歩から歩く。距離を近づけると足がすくんだ。肌で感じた。この蜘蛛がゴブリンなどとは比べ物にならない実力を持っていると。しかし僕はこの蜘蛛と戦わないという選択肢が残念ながら、無い。異世界一日目にしてとんでもない急展開だ。蜘蛛はこちらを見やりながら気持ちの悪い口から液体を滴らせる。涎のようなそれを止めどなく口からこぼしていく。つまりこれから僕を捕食するわけだ。餌として。


より一層頭痛が酷くなる。


蜘蛛が愉悦を表すかのごとく鋏角を打ち鳴らす。ただの思い込みかもしれないが。本当は感情など無いのかもしれない。だが、蜘蛛に追い詰められているという事実。それを自覚した瞬間体の奥から冷たいものが沸き上がってきたのを感じた。こみあがってきたものはどうにも抑えきれそうなモノではなかった。それは泣くじゃくるまでの恐怖?膝が折れるくらいの絶望?いや、どちらも違う。僕は目にかかる前髪を後ろにかきあげると、膝を落とす。


「あぁ、イラつくな」


全身が胃の奥底では煮えるように熱いのに、声は驚くほどに冷たい。こみ上げてきたのは途方も無いまでの『怒り』、だ。僕を手頃な獲物だと感じているとあたりがとてつもなく不快だ。なぜこんなにも引っ掛かるかは分からない。だがムカつくのは確かだ。こちらが戦闘態勢になったのを感じたのか、蜘蛛も身構えたように体を低くする。気づけば頭痛は治まっていた。



ーーーいいぜ、来いよ。



ーーー虫けらごときに喰われるつもりなど、さらさらねぇんだがな。





世界が変わる。


そして、『俺』は地を蹴った。





次回、バトル展開ッ!!

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