森からのスタート
設定をちょろっと出すので設定回が苦手な人はどうにか堪えて下さい…
激しく全身を揺さぶられる様な感覚を覚える。果てしなく高い空から落ちていっているのではと錯覚するくらいの速度で体が空を滑っていく。…うん、てかいつまで落ちんのこれ。そろそろ吐きそう。そう思ったところで突然脳天に衝撃が走った。
「ぎゃぷ」
痛ぇ!なになに?!何が起きたの?!涙出てきた!混乱する自分を抑え、素早く自らの状況を確認。しかし滲んでいるはずの視界は何も映していない。闇?今の夜なのか?にしては暗すぎるし何より首が凄いくらい痛い。まさかこんな小説をどこかのサイトで見たような気がする。そうだ!この状況はあれだ!転生したらスラ(ry。
僕は体をしっちゃかめっちゃかに動かすと首が明らかに危ない音を奏で、体が倒れた。すると闇に閉ざされていた視界は一転した。つまりスライムに転生したわけではなく頭から地面に突き刺さってということだ。意味わからん。
首が突き刺さった衝撃と脛椎を捻ったせいか目眩がする。いってぇ…。あのロリ神め、今度会ったら愛でてやる。そうしてへたりこんでいることしばし。何の気なしにふと顔を上げた時、目の前に広がる光景に息を呑んだ。何故驚いたかと言えば多分、実感が湧かない、唐突に訪れた非日常を信じきれなかったからだ。だからこそ、妄想して空想して夢想して想像して届き得なかった世界がそこにある、そしてその世界に自分がいることに。衝撃を受けたのだ。
そこには文字通りの別世界があった。
こちらの世界で最も近い光景はアマゾンの大密林だろうか。自らがへたりこんでいた場所は木が少なく、開けた空き地のようだったからか、目の前に広がるバカみたいな規模の森がよく見えた。視界の端までいっても木、木、木ーー。これが森か。森、という漢字の成り立ちを深く実感した瞬間だった。空を見ると翼竜のような生物が群れをなして飛び回っている。あちらこちらで獣の声が響いている。これが異世界。僕がこれから付き合っていく世界。自分が異世界に来たという事実を強く突きつけられた気分だった。
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そして次に感じたこと。
「異世界うるせえええええええええええ!!!」
そう、かなりの騒音を感じるのである。日常生活を過ごすにあたって非常に不快な、電車が常に通過しているのではないかと思うくらいうるさい。数秒ならまだしも、継続して聞こえるのはマジでイライラする。虫の鳴き声やら蛙みたないな鳴き声、風で木々が揺れる音などで頭が埋め尽くされる。肉食獣の唸り声らしきもの聞こえるのは多分幻聴。そうじゃなきゃやだ。
さらに、視力がマサイ族を多分越えた。よく見ると少し先の木々の隙間から見える蟻くらいは見える。まだ聞こえる騒音と違ってこちらは不快とか頭痛、といったことはないが…。いかんせん慣れない。それに数多の小さい虫が飛び回ってるのが見えるのとかはマジキモい。うわっ、近寄ってくんな!それだけではなく、他にも違和感をいくつか感じる。ここまで僕は元世界生活に困っていたのか。違う筈だ。そうでなければ違和感など感じないだろう。つまりこれがギフトということになるのか?
「ダサすぎじゃね?」
というか視力でどうやって僕TUEEEEするんだ。視力検査で僕TUEEEE出来るくらいか。無理。いや嘘だろ、ショックがヤバイ。そんな現実を認められずにマサイ族越えの視界でキョロキョロと辺りを見回すと、すぐそばに茶色い鞄のようなものが落ちていたことに気づく。歩いて近寄ってみると鞄の傍らに小さい紙切れが落ちていた。随分小さい文字が表記されているが、立ちながらでも鮮明に読める。利点これか。
「どれどれ…。タイトルは《異世界についての簡易説明書》?」
日本語なので恐らく神様がくれたのだろう。…これ、インクか?神の技術はよく分からん。それよりなんのための『お楽しみ』だったのだろう。こうゆうのって自分で確かめていく感じじゃない?「あれっ?俺これ無双できんじゃね?」、みたいな。その展開憧れだったのにぃ。…まぁいい。取り敢えず中身を読み進めよう。
《やあ。幼女趣味の鈴原楓クン。こちらは手引き書さ。まぁこの世界について、と銘打つのは何だか失礼なような気もするほどに不十分だ。どうせならボクが知り得る情報全てを紙に記したかったのだが、それでは紙の一枚や二枚では到底足りないだろうからね。では、内容に入ろうか。》
前置き長いな。それより僕はやはり幼女趣味だったのか。去り際のあれは聞き間違いかと思ったが。だが確かに神様見たとき「まったく、小学生は最高だぜ!」とか言いそうになったことは認める。
《この世界には魔法がある。キミの世界とは違って。この世界では君の世界とは常識が全く異なるので注意してくれ。そしてキミに渡した能力は視覚、聴覚及び身体能力の大幅向上だ。能力名を付けるならば『身体能力+α』だね。この能力は使いこなせば非常に強力、とだけ言っておこう。そろそろ余白が足りなくなってきたね。全てを書き記したいのは山々だが、すまない。後は自らで情報を得てくれ。》
うん、紙もっと大きくしろよ。余白が足りないって何だよ、フェルマーか何かなの?…そして次に茶色の鞄、というより小型のポーチに近いそれを持ち上げる。どの角度から見てみても至ってごく普通の鞄だ。ちなみにチャック式。この状況からして神様からだろう。普通の鞄ってことはまずあり得ない。とりあえず先程「鑑定!」と叫んで何の音沙汰も無かったのは黒歴史。鑑定スキルが無いのは残念だがある程度予想していた。ステータスオープンも出来ないしね。そんなことより、と素手で鞄を鑑定するため無遠慮に手を突っ込む。こうゆうのは大抵…。
「ほら!やっぱりぃ!!」
手を突っ込むと途端吸い込まれるような感覚。これは異世界知識から考えるとアイテムボックスってヤツだ。ようやく自らの異世界像と現実が一致した気がする。嬉しい。だが何も入っていないらしく特に手応えは無い。少し落胆しながらもあるだけいいかな、と思い手を引き抜く。…いや抜けなかった。力一杯引っ張っても一向に抜ける兆しが無い。手の先から鞄が生えるという実に滑稽な状況が出来上がった。あのロリ嫌がらせ大好きかよ。
ここまでくるとあの神に流石に紳士の僕も辟易する。鞄を意味もなく眺めていると、ポーチの外側のポケットに折り畳まれた紙切れが挟まってることに気づく。また説明書か?そういえばさっきこちらはとか言ってたから、あれか。右手は鞄なので、左手でどうにか抜き取り、紙を開く。両利きっていう能力もくれたら良かったのに。しゃがみこんで紙を押さえながら見た、書かれていた内容は
《やあ、こちらはこの鞄、収納鞄が正式名称だ。そしてこれは収納鞄の簡易説明書だ。使用法は至って簡単で、鞄を体のどこかに身に付け、内在している物質を念じ、現出させたい場所を思い浮かべる。これだけだ。例えば手のひらの中に、と念ずればキミの手のひらに道具が現れる、といった具合だ。内容量はキミの世界でいう東京ドーム程度だろう。》
ふむ。こん中でけー。僕のこのアホ事故の対処は念ずれば良いということか。じゃあ念じよう。
「右手出ろー!」
鞄から吐き出されるように右手が排出された。今思うと右手もげる可能性あったんじゃね?怖ぇ…。帰ってきた右手を左手でスリスリしてると、まだ説明書に続きがあったことを思い出す。読み進めよう。
《現在、収納鞄のなかに収納されているのは
・傘
・テント
・水
・ナイフ
・非常食
・鉄製の剣
これから増えるだろうが容量は心配しなくて良いだろう》
頭おかしいくらい異世界要素ないんだけど。ロマンという言葉を知ってほしい。もっと…なに、杖とか無いのかな。あぁ、もう萎えてきた。それにしてもこれで終わりか?裏返してみると、なにやら小さい文字で追記が書いてあった。
《追記:そういえば君の言語は共通語ならば通じるので安心してほしい。それと14歳以下の少女が半径500m以内に存在するしていると直感的に分かるセンサーを搭載しておいたよ。君が一番欲しがっていいるだろうし、感謝してくれ》
大きく息を吸って、一言。
「一番いらねぇよおおおおおおおおおおおおお!!!!」
説明書をクシャクシャに丸めて盛大に投げ飛ばした。
楓へのギフト
『身体能力+α』
聴力、視力、身体能力向上。
『幼女センサー』
500m以内に12歳以下の少女がいると、直感的に察知できる能力。幼女だけ。