召喚、そして散る
僕の名前は…、と切り出すのはあまりにも在り来たりではあるが、無難な方向で行く。僕の名前は鈴原楓です。♂です。ごく普通の平凡な高校生だ、たぶん。
突然だが憧れ、というものを皆さんは自分の中にもっているだろうか。
僕は異世界に憧れを持っている。憧れというか異世界召喚への願望とも言えるが。原因はなにか、当然ながらラノベ、深夜アニメの影響だ。ちょっとエロゲーもあったりする。ここで理解できない人のために説明すると異世界モノは、現代の人がなんかいろいろあってファンタジーな世界でヒャッハーするというジャンルだ。なんか、こう書き表すとすごい陳腐。まあそうでない小説もあるのだが、一先ず置いておこう。
そして憧れている、と聞けば分かるだろうが僕はこの異世界モノってやつに大きく傾倒してしまった。どハマりしたのだ。例えばとある携帯小説サイトにて現在進行形で氾濫している数多の人気異世界小説をほとんど読み終えるほどに。そのためだけに速読をマスターしたりね。そして僕はそれらの作品読めば読むほど「異世界」に惹かれていった。だって「平凡」な主人公がさしたることもしないのにモテるし、超つおいし、最高じゃん。
しかしどれだけ憧れていても、当然ながら異世界には召喚されない。とゆう存在さえしない世界に喚ばれるなど現実には起こり得る筈がない。つまり食パンくわえて走る女子高生を見たことないのと同様なのだ。まぁトラック神なら可能性はゼロでは無いかも…。だがとにかく目が覚めたら赤ん坊だったり、白い世界的なのに居るなんてことは、まるでない訳だ。
そんなことを延々考えているうちに気づけば僕は意識が沈んでいた。
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目を覚ます。太陽の光が射し込み、部屋を優しく照らしている。…!まさか!徐々に視界が鮮明になるにつれ、部屋の全容が明らかになる。ここは、うん、僕の部屋だね!さいこー!毎朝期待している…知らない天井だ、展開はまるで、やはりなかった。あーチクショウ。もういっそのことトラックに突っ込むか?そうしよう、これなら多分異世界行ける!トラクターだとなおよしかも!うんうん唸っていると時計が視界に入る。んーと7:25…?あ、やべ学校遅れね?これ。起きなきゃ。
倦怠感が全身を襲うも構ってはいられない。学校遅れるし。重い体をやっとこさ起こし、いまだ覚醒しきらない目を擦りつつ洗面所で顔を洗うためにぺたぺた歩く。鏡を見る。ん…鏡壊れてね?なんか僕がカッコ良くない。まあいいか。蛇口を捻り、顔を洗う。そして冷たい水に刺激されながら思うのだ。今日も、平凡で凡庸な退屈の世界を過ごさなければならないと。
ーーーーそして願望は、奇跡は突如訪れた。予期など、させるはずもなく。
顔を上げる。鏡の中の自分と目が合う…ってあれ?は?なんだここ?
目の前には先程と全く違う光景が広がっていた。そこは巨大なドームのような場所だった。だだっ広いが薄暗く陰険な雰囲気が漂っていて、地下駐車場を彷彿とさせた。下を見ると幾何学的な紋様が広がっていた。
そして、この時彼は確信した。これは、これはーーーーー!
「異世界召喚だああああああ!!!!」
そう楓は、異世界に召喚されたのだ。
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そしてようやく興奮が冷めてきた頃、状況を把握する。そして徐々に楓は違和感を持ち始める。
「おかしくね、これ…?」
まず、召喚者がいない。テンプレと合わない、というのも有るがこの魔方陣らしきものはおそらく人為的な物だ。しかしこのドーム(?)には楓を除いて人っ子一人としてない。さらにこのドームは魔方陣を中心に規則的に柱が建っている。いくら異世界といえどこのドームが自然発生したとは考えにくい。
第二にこのドームには出入り口が存在しない。ドームとはよんでいるものの縦横高さ50m程の直方体のような形をしているので、探索を終えるのにそう時間はかからなかった。出入口の無いコンクリートの様な材質でできたこのドームを建設する理由が無い。異世界人を喚ぶために作ったとしても密閉する必要は無いだろう。考察を続ければ続けるほど頭が混乱していく。
「なんか、怠いな…」
呟いても、当然自分の声が響くだけ。ついに大の字に楓は倒れこんだ。
なんだか気分が悪い。少し寝よう。そうすればなんかわかんじゃね。そうして楓は目をそっと閉じる。
だが目を閉じて、横になっても気分は変わらず気持ちが悪い。いやさっきより寧ろ悪化さえしている気がする。なんなんだこれ。気持ち悪り。寝れそうにもないので楓は取り敢えず体を起こす。
そのときだった。
「あれ、なんか変な感…ッ!!いってえ!!!いてえええええ!!!」
突然脳天をつんざくような痛みが全身から感じる。体の奥が軋んでいるような、握られているかのような、全身に針を突きさされているような
、痛み。痛い、ただただ痛い。あまりの痛みにその場を転げ回る。だが痛みはさらに強くなっていく。
「ぅ……………!!ーー!ッ!!!」
楓は目を見開き、餌をねだる鳥の雛のようにパクパクと口を開閉し、手で喉を掻きむしる。顔は涙と涎と鼻水で見るも無惨なことになっていて掻きすぎた喉からも出血をしていた。糞尿も垂れ流し、もはや人としての尊厳はそこには存在していなかった。楓の目が虚ろになり、動きすら取れなくなった頃、突如痛みが消える。
その一瞬だけ楓は自我を取り戻した。楓は直感的に思う。
ーーーーあ、僕死んだ。
静かな部屋に風船が破裂するような音が響き渡った。