第8話 ハルシャギク
(理依が犯人にされてたの、伸葉達はどう思うの?)
ローツインテールの子の言葉が、下川原の頭の中で繰り返された。
「……理依が犯人な訳ねぇって思ったげど?」
「そうじゃなくて! 理依が犯人にされてた事をどう思ってるかなの! 伸葉達が犯人分かってないから、デタラメ流されてるんだよ? 理依も、うちらも迷惑してるの!」
ローツインテールの子が逆上した。
(あたしらのせいで、理依が? ……って、迷惑してるのとか、お前らが言うか? 似たようなもんだべ)
下川原は負い目を感じると同時に、2組の噂好きな女子達に対して反感を抱いた。
「……そっか」
今は相槌を打つ事しか出来ない。遅刻すっがら、と足を急がせた。
予鈴と同時に学校へ着いた。その後すぐ、下川原と浦小路、澄那、理依は学年主任に、英語準備室へ呼び出された。
「来てくれてありがとう。先生からお願いなんだけど――」
学年主任が下川原達に言い渡したのは、伸葉探偵団としての調査禁止令だった。
伸葉探偵団がトラブルや事件に介入した為に他の生徒が巻き添えになっている事、問題の長期化によって、更進祭への悪影響が懸念される事が理由だという。
「……はい」
下川原達は重苦しげに口を揃えた。
教室はまだ休み時間であるかのような雰囲気だった。
「緊急の職員会議で、1時間目は自習だって」
心菜が現状を教えてくれた。
「部長、遅刻したの?」
「ちげぇ、呼び出し食らっでた……探偵やんなって」
下川原は心菜と冬美、京穂、南谷地、夏芽に学年主任から注意された内容を伝達した。
「そ、それじゃあどうすんの!?」
夏芽が狼狽した。
「どうしようもねぇべ……大人すぐ勉強でもすっぺ」
「うちもそうしよ」
下川原と冬美は日商簿記の問題集、ルーズリーフ、電卓を机の上に広げた。他の4人も彼女らに倣った。
(……やっぱ駄目だ)
内心、真犯人探しを諦めたくなかった。
(澄那、理依の為にもなるのに。逸果がいつメン抜けた時、今度こそ、ちゃんと突き止めるって決めたのに。こんな終わり方、あり得ない……でも、探偵やったらどうなるか)
学年主任の警告に背けば、懲戒処分になるかもしれない。下川原に再び、葛藤が生じた。
下川原と京穂、心菜が教室で昼食を摂った後、南谷地が3人のところに顔を出した。冬美と夏芽は学生食堂へ行ったままである。
「2組行ってた〜。理依、探偵団抜けるって」
下川原達は絶句した。南谷地が理依からの伝言を続ける。
「最近彼氏とかに、探偵団辞めたら? っつわれたし、澄那の事調べるの禁止されたからだと。理依は直接言いたかったけど、2組のが下川原達と関わって欲しくないらしいんで、あたしから伝えさせてもらいましたわ」
「……そういう事なら、分がった。理依達さ、真犯人分がんねがったせいで迷惑掛げてごめん、って言っでけさい」
「あいよ〜」
南谷地が再び2年2組の教室へ足を向けた。
(これでいいんだ。理依の事、これ以上嫌な目に遭わせらんねぇし、あたしら以外、あたしらより心配してんのがいっぺぇ居る……だから、これでいいんだ)
下川原は理依の連絡先をスマートフォンから消去した。