第7話 トロロアオイ
下川原は理依に電話を掛けた。
(理依……これ見てるよな? 理依が犯人な訳ねぇの、分かってっから……)
慰めの言葉を考えながら待ったものの、理依は通話中だった。
(しゃーない、後でまた……っ!)
澄那からのメールが入ってきた。それによると、同級生の1人が彼女の家を訪ね、下川原にも伝えたい事があると言っているそうだ。
下川原は澄那の家に急行した。彼女らは玄関の戸を開けたまま座していた。
「邪魔すっぞー……んで、話ってなに?」
「う、うちらは関係な……じゃなくて、犯人じゃないって、分かって欲しくて――」
同級生が言葉を選びながら、下川原達に釈明した。彼女いわく、伸葉探偵団や台町との関係を、SNSへ自分達の名前を書き込んだ誰かに利用されたとの事だった。
小学生の頃からませていた同級生4人は、伸葉探偵団を出しゃばり、ただの探偵ごっこと鼻で笑っていた。中学校に上がると同時に台町が転入してくると、彼女を引き込んで伸葉探偵団を愚弄し続けた。高校生になってからは1組のかっこいい男子を5人一緒に熱烈に支持していたが、ここ半年位で彼と台町の距離が縮まり、澄那のトラブルもあった事から、台町を仲間外れにし出したそうだ。
「彼、正義感めっちゃ強いから、あれで慧都が嫌われたらなって思ってた。でも、バレたらめんどいし、SNSそんなにやんないから、そっちではなんもしてない。うちらの事知ってる誰かがやったんだ……ほら! ああいう事書いてんの、ないっしょ?」
同級生が、自身や友人達のページを開いて見せた。アカウントを複数作成出来ず、各自1つずつではあったが、心ないコメントは一切なかった。
「……んだな。分がった」
下川原は再度、同級生らの無実を認めた。
「やっぱり、おめぇらでねぇんだな……台町さしだ事は別だげど」
「だよ、ね。それでこんなんなってんだもんね……潔くフラれよっかね! それじゃ!」
いつもの調子を取り戻した同級生が、澄那の家を後にした。
同級生が帰途に就くと、澄那が呟いた。
「あんな事してなくても、フラれちゃうんだろうな……彼、葛岡ちゃんが好きだから」
「へ?」
下川原の目が点になった。
「それ詳すぐ! ……の前に、理依の返事見っぺ」
下川原のスマートフォンに、理依からのメッセージが送られてきた。
『さっき電話出れなかった』
『ごめんね』
『クラスの友達と電話してた! みんな書いてないって』
『うちも書いてないよ!』
「理依は元々疑っでねぇけど、あいづらはなぁ……」
2組の噂好きな女子達も、同級生らがそうだったように、日頃の言動から疑念の余地があった。
学校で夏芽が騒いでいた通り、2組の女子達は普段から他人の身の上話を学年中にばら撒いていた。彼女らは常にクラスの中心格であり、表立って咎める者は数少ない。
「細げぇのもっかい見っかな……理依が聞いだの疑っでるみてぇだけど」
「そうだけど、疑ってもいいと思う……一旦置いてからね」
澄那がいたずらっぽく微笑んだ。
「んだ! ……そんで、葛岡がなんだって?」
下川原は京穂、彼こと1組の男子、その他顔馴染達の恋愛事情を知り得た。
翌日の朝、下川原と浦小路、澄那、理依は一緒に古川駅へ降り立った。改札口の先で逸果や同級生グループ、その他の同郷人達が各方面に散っていく中、2組の女子達がこちらを窺っていた。
「……来た! 来たよ! 理依達おはよー!」
「理依ちゃん借りるねぇ」
サイドテールの子と理依、ローツインテールの子と下川原達の二手に分かれた。下川原達は東口へ誘導された。
「なして東口? 理依だげあっつだし、今度はなんだぁ?」
「話があるの。学校だと女テニの子に邪魔されるから、遠回りして話そう?」
新幹線東こ線橋の下をくぐりながら、ローツインテールの子が喋り立てる。
「先に言っとくけど、うちらはなんもしてないからね? あんなの書いたとこで、書いた方が悪くなるだけだもん……それより、理依が犯人にされてたの、伸葉達はどう思うの?」