第6話 マリーゴールド
教室に帰る間も、夏芽は2組の噂好きな女子達に不平を並べていた。
「理依から聞いてんならそれで充分じゃん! どんだけ知りたいの!?」
「全部じゃね?」
南谷地が夏芽に答えた。
「全部って……あいつらが全部分かったところで、ただ喋りたいだけでしょ!? あたし達が調べました〜とか言ってさぁ。部長達の手柄も横取りする気なんでしょ? どーせ」
「……めっちゃ嫌ってんなぁ」
南谷地が苦笑した。
「夏芽! みんな!」
冬美がこちらに詰め寄る。
「気付いたら居なかったし! 先生、戻って来たよ」
「ヤベっ! 行ぐべ」
下川原と南谷地、夏芽、冬美は教室で担任から注意、ここまでの状況説明を受け、クラスメイトと共に体育館へ移動した。
体育館では全校集会が行われ、学校裏サイトやSNSでの悪意ある書き込みと、生徒の保護者――協子と徹生への殺人未遂事件の経緯、それらについて口外しないよう通達された。
全校集会後、下川原と心菜、夏芽、冬美、京穂、南谷地は重い足取りで体育館を出た。
「ああ言われても、ねぇ……」
京穂が口を開いた。
「朝、急いでる事にしてなんとか振り切ったけど、取材しに来てた人達、しつこかったんだよ?」
「しつこかったよねぇ」
京穂に相槌を打ったのは2組の女子だった。
「……また来たの?」
夏芽は2組の女子にいら立っているようだ。
「え? 同中心配しに来ちゃ駄目? ……ってか、突っ掛かる暇あったら早く犯人見つけようよ?」
「……そうだね。こればっかりは、あんた達の言う通りだよ。みんな、行こっ」
「ふ、冬美〜っ」
冬美がその場を収めたが、反論したかったのか、夏芽は不満気だった。
「あんなのの言う事聞かないでよ! ってか、あいつら、部長と同中の子もだけどさ、裏サイトとか騒ぐようになってから、めっちゃ突っ掛かってくるよね!? ……実は、犯人だったりするんじゃない?」
夏芽は2組の女子達に加え、同級生らを疑っているようだ。
SHRにて緊急保護者会の便りを受け取った後、生徒は一斉に下校させられた。
「たでぇま〜」
「伸葉? ……そういえば、早く帰らせられたんだわねぇ」
「んだよ〜? これ、学校がら」
「はぁい、説明会ねぇ……夜ご飯、作っておかなくちゃ」
便りを渡された母は台所に行き、下川原は茶の間に腰を下ろした。
(……そういや、今だな)
下川原はスマートフォンで〝祖志継はのん〟について調べ始めた。
(出た出た)
その名を含んだ見出しや文章、写真らしき画像が検索結果として表示された。
(顔出てっちゃ……髪、黒くねぇじゃん)
画像欄に並んだ写真――小学校と中学校の卒業アルバム、16歳の誕生日に撮られたらしいプリントシールの中のはのんは赤髪だった。
(髪色だけではな、染めりゃなんとでもなるし……どんな奴か、だな)
下川原は『祖志継はのん 仙台息女事件実行犯−みんなの事件貼』というページに飛び、彼女の略歴、仙台息女事件での犯行内容を紐解いた。
(は?)
このページによると彼女は7月28日、仙台市太白区内で逮捕されたそうだ。他の記事を見比べると、名前は明記されていないが、同じ日の同じ場所で16歳の少女が確保されたとあった。その後、釈放や保釈はされていないという。
(本人がこっちで、こいつが捕まってるとなると、病院さ来たのが偽者だな。だとすると……)
『新しい書き込みあった!』
夏芽からの通知が画面上に躍り出た。SNSのスクリーンショットが後に続く。
『裏サイトとかに澄那ちゃんの事書いたの、この子達の誰かだって! 蛭沢理依――』
理依以下2組の女子3人、同級生4人の本名が1文字も伏せる事なく書かれていた。