第5話 ニセアカシア
古川市街地の病院には既に警察が到着しており、澄那と理依、浦小路、恋音から事情を聴いていた。
「澄那ーっ!! おんつぁん達、ドクニンジン食わさったって!?」
「伸葉ちゃん、そうなの!! それで今、すごく危ないって」
「あ、危ねって……」
下川原は言葉を詰まらせた。
「うん。あのね」
澄那が詳言する。
今から約1時間前、澄那の両親――協子と徹生は見舞い客からドクニンジンのケーキをいただき、呼吸困難に陥った。見舞い客は2人がケーキを口にするのを見届け、逃走したという。
「食うの見でっだって、そいなの、完全に殺る気だったんだっちゃ! 誰や? そいな奴」
「……更進生、だって」
澄那は下川原達に見舞い客もとい犯人の特徴を言い送った。
犯人は長めの黒髪で、大崎更進高校の女子制服を着用していた。また、〝祖志継はのん〟と名乗っていたそうだ。
「祖志継、はのん?」
下川原には馴染みのない名前だった。
協子と徹生への殺人未遂事件について、警察が夜までに捜査本部を設置したとニュースで取り上げられた。
(明日はこの事ばっかだな……そうだ)
下川原は病院へ向かう時の女子生徒の呟きを思い出した。
(SNSかぁ、見れっかな)
アカウントを作らずに書き込みを読む方法を探した上で、SNSにジャンプした。
(よし、開いた! とりあえず……祖志継、と)
祖志継という単語を含む投稿が抽出された。今はなき学校裏サイトからの転載に次いで、澄那の今日の動向が綴られている。
『台町ちゃん&ママお説教なうなんだけど、澄那ちゃん来た! 殺人犯でもあんま仲良くない同中心配するんだね〜』
『校長室突撃!』
『探偵さん達と真犯人探すんだって! 今度こそ当たるかなぁ?』
『パパとママのお見舞いうぃる! 生徒会はサボり〜』
(ストーカーか!! ……って、今度は)
『待って、ニュースに澄那ちゃんパパママ出てる!』
『病院行った子情報! 毒ケーキ持ってったの更進生で、祖志継はのんって言ってたっぽい〜』
先程の騒動が拡散されていた。
次の日。学校の前にはマスコミが張り付き、それに対応すべく職員会議が開かれていた。自習と言い渡されたはずの生徒達は、監視の目がないのをいい事に昨夜のニュースで盛り上がっていた。
「下川原ぁ〜」
南谷地に招かれた先には、2組の噂好きな女子数人が待ち構えていた。
「理依さんから聞いたよ。祖志継さんの事調べてて、昨日みんなで病院居たんだって?」
「ニュースで言ってない事知ってたりする?」
「下川原ちゃんからも、なんか教えて欲しいなぁ」
「部長!」
夏芽が話の腰を折った。
「そいつ……じゃない、その子達には教えなくていいよ! 2年中に喋るって!」
「夏芽……だな! あだすがら喋っ事はねぇ、帰れ帰れ!」
下川原は2組の女子達を追い返した。
「南谷地も部長呼ばなくていいからぁ……あんなんでよく嫌われないなぁ」
夏芽は2組の女子達に呆れた様子だった。
祖志継家 祖志継協子
祖志継家 祖志継徹生