第3話 クルミ
「台町ちゃん?」
理依が復唱した。
「……やっぱり、あの子しか居ないよねぇ」
「そうだよね……どれだけ考えても、台町ちゃんで間違いないよ」
浦小路も同意する。
「澄那ちゃん家にテレビ局とか来てたの見に行って、ドラマみたいだった〜って言ってたの、あの子だけだから」
「うちらは、ママや先生の言う事ちゃんと聞いたもんね」
理依が口にしたように、台町を除く地元の子供達は親、先生の戒めを守り、澄那の親族について触れないようにしてきた。
「それに、今朝の事もあんな風に書いてたし……これも」
理依が浦小路、逸果、下川原に学校裏サイトを提示した。
『昼休み、U君から聞いた話です。澄那さんが明後日から学校に来るそうです。H君と一緒に聞けたのですが、彼はどういう理由で澄那さんについて知りたかったのでしょう? あんな悪女よりも、ついでに私に友達面してくるぶりっ子と自称サバサバ女よりも、私の方がいいに決まってます』
「6時間目に見てたらちょうど書かれたの。U君は間違いなくうらっちだし、H君はあの1組の男の子。……だから」
「4組の奴に、告白するっでわざわざ言っでだあいづが……台町が、1組の奴を澄那さ取らんねぇように、なんなら澄那が奴さ嫌われるように、こいなの書いだんだ」
下川原は理依、浦小路と逸果に答えた。
翌朝、学校中が裏サイトの話題――澄那への嫌がらせの犯人が台町であった事に加え、掲示板その物が閉鎖された件で持ち切りだった。
校長室では下川原達とその学友、同級生グループが眺め入る中、台町と彼女の母親が校長から説教を受けていた。
「おはよう」
現れたのは澄那だった。
「澄那!? 明日って聞いてたのに、もう大丈夫なん?」
逸果が澄那に駆け寄った。
「うん、大丈夫。入院にはならなかったし、今日は様子見るつもりだったけど、朝からちゃんと動けたし……なんか、台町ちゃんが大変って聞いたから」
「祖志継さ……じゃないっ、澄那さんが心配する事ないよ! 慧都さぁ、澄那さんとか、うちらとか、ネットでめっちゃ叩いてたんだよ!?」
同級生はご立腹だ。
「私を? ……あの事なら、私から言わなくちゃ」
「突撃すか!? んじゃ、うちも!」
逸果が澄那にお供する。
「無事生きて帰れたら報告するわ〜。解散」
教室に引き返した下川原と心菜、冬美、夏芽は担任から台町の停学を告げられた。
SHR後、下川原のスマートフォンには逸果からのメールが届いていた。
『校長室から無事生還! ここから真面目な話。嘘だと思われそうだけど、台町本当はなにもやってない。それでも停学なのは訳あって自分がやった事にしたからなんだ。台町も、これで丸く収まるから、推理してくれてありがとうって言ってた。でも、うちは台町が利用されてるの見てられないから、こういう事にはもう関わらない。澄那は戻るっぽいけど、うちはこのメンツから抜ける。今までありがとう。追伸、これ読んだら、うちと台町の連絡先と一緒に消して』
(嘘……でも、分かった)
下川原は台町の携帯番号とメールアドレスを削除した。
(台町……ああ言ってくれて嬉しいけど、正直、ごめん。逸果も)
次に逸果の連絡先を消した。最後は彼女からのメールだ。
(ありがとうって、あたしの方こそ……今度こそ、ちゃんと突き止めっから)
性格が似通った幼馴染との繋がりを引き換えに、決意を改めた。