第1話 リンドウ
仙台息女事件から2ケ月4日経った日の朝、大崎市で食中毒が発生した。家族3人がドクニンジンの葉を誤って食べ、夫婦は重症、娘は軽症となっている。
患者宅前には救急車が2台停まっており、それを囲むように近隣住民が集まっていた。
「やっぱなんかあったんだっちゃ!」
下川原が浦小路、逸果、理依を率いて患者宅前に駆け付けた。
「お母! 澄那ん家、なんかあったん?」
「逸果! それがね――」
近隣住民に混ざっていた逸果の母が子供達に事情を説明する。
「――ヤバっ!」
「思っでだよりヤベ……澄那駅さ来ねぇし、なんも聞いでねぇから、変な気しだげど」
「さすが伸葉ちゃんねぇ」
同級生の母親グループが逸果、下川原達を指さしながら話している。
「探偵団って言われるだけあるわぁ……ねぇねぇ、これ、大事件だったりして」
「澄那ちゃん家って、祖志継さん、だものねぇ」
「やめなさいよ、子供達の前よ?」
逸果の母が母親グループを叱った。
「ほら! 澄那ちゃん達病院行くから、逸果達も学校行きなさい……って、あら」
下川原達が乗るはずだった電車が走り去る。救急車を見送った後、逸果の母の車で登校した。
下川原、浦小路、逸果、理依は昇降口でそれぞれのクラスメイトに声を掛けられた。
「地元なんかあった!? 電車から、救急車とかめっちゃ居たの見えたんだけど」
「それ、食中毒じゃね? 澄那ん家みんななったって、台町とかが言ってた」
「つらっ! そんでもって裏サイトに名前出されるとか、最悪じゃん!」
「……裏サイト?」
下川原はクラスメイトに聞き返した。
「知らないの!?」
クラスメイトが学校裏サイトについて詳しく教えてくれた。
大崎更進高校には非公式の掲示板が存在しており、澄那に関する書き込み――フルネーム、同姓の人物との間柄、『殺人犯』『清楚ぶった性悪女』といった誹謗中傷が投稿されていたそうだ。
「そいなの……そうだ!」
下川原は学校裏サイトへのアクセス方法をクラスメイトに尋ね、休み時間の度に閲覧した。
昼休み、下川原は幼馴染を学生食堂に呼び寄せた。
「あだす、裏サイト一通り見だんだ」
「うちも……本当、ひどかった」
下川原の他に理依、逸果も学校裏サイトに目を通していたようだ。
「澄那ちゃん、明後日には学校来れるのに……」
浦小路は澄那の復帰について、本人からメールをもらっていた。
「だっだら、なおさらだっちゃ!」
下川原がいきり立つ。
「誰が、なして、あいなの書いだか……澄那が学校来やすぐすんのに、あだすらで、裏サイト突き止めっぺ! な!?」
「そうだそうだ!」
「そうだよ!!」
逸果、浦小路と理依も下川原に続く。
「よし! 澄那の為に、いっちょやっぺ!!」
下川原、浦小路と逸果、理依――通称〝伸葉探偵団〟の4人が動き出した。