第13話 モミジアオイ
更進祭から一夜明け、事件の展開が表立ってきた。
今回の騒動は、冬美の姉の仇に対する怨恨、澄那が祖志継家被害者に抱いていた罪悪感、冬美の友達〝りっちゃん〟の祖志継家眷族として、一族を貶めた協子と徹生に鉄槌を下す使命が結び付いた物だった。
冬美は学校裏サイトで、祖志継家の一員でありながら過去の事件には〝関係ない〟と言い放った協子と徹生、澄那を非難した。学校裏サイト閉鎖後は夏芽の秘密と引き換えに、SNS上の彼女との共同アカウントを作り替え、糾弾し続けた。正体を悟られないよう、過去の不謹慎な言動が取り沙汰されていた台町や、感じの悪い同級生グループ、理依ら2組の噂好きな女子達に濡れ衣を着せ、『みんなの事件貼』から秋美達の情報を削除していた。SNSに関しては、玲華の呼び掛けに応じた陸という祀陵高校生が特定した。
冬美の友達はかつて薬殺刑に用いられ、毒のない植物と混同しやすいドクニンジンを、お裾分けやケーキにして協子達に食べさせた。
澄那は冬美達の悪計を認識した上で、食中毒を装い、台町を唆し、〝りっちゃん〟に制服を提供するなどしていた。
犯人の内、澄那と冬美は取り急ぎ退学処分を受けた。澄那は殺人幇助の疑いで逮捕されたが、彼女とその縁戚が被害届を提出しなかった為、冬美は検挙を免れた。〝りっちゃん〟は予め自主退学し、父親と共に逃亡したようだ。
この出来事は、仙台息女事件の〝関連事件〟として扱われ、明日以降も捜査が続く模様だ。
翌日、更進祭の振替休業かつ、事件の余波で部活動もオフになった。
(暇だな——)
下川原は胸に穴が空いたような心地だった。それも束の間、穴を埋めるかのごとく、これまでの事が思い起こされる。
(暇すぎて、ろくな事考えねぇ……なんかねぇかな)
スマートフォンには多数のメッセージが入っていた。ほとんどは普段遊ぶ暇のない野球部、バレーボール部、弓道部、吹奏楽部の2年生からだったが、玲華からも1通あった。
『澄那の親戚から手紙とか来てない!?』
『来てないぞー』
下川原が即答した通り、澄那の親戚からは音沙汰なしであった。祀陵高校には、祖志継家の本家から、賛同者ではない2年生宛ての手紙が届いたそうだ。
『——たぶん、下川原達は澄那助けた側だからいいって事かも! こっちの事は気にしないで、また試合で会おう!』
玲華ら祀陵高校生は、今後も自分達の力で祖志継家と戦うようだ。
恋音からのメールを受信した。
『今から浦小路君とデートだよ!』
彼女は後夜祭で告白大会に名乗りを上げ、晴れて浦小路の恋人となった。ちなみに京穂も彼が本命だったが、恋音に先を越され、吹奏楽部の2年生全員に慰められていた。
(……そうなんだよなぁ)
浦小路には彼女が出来た。澄那は自身の罪や責任と向かい合っている頃だろう。逸果はスキー愛好会の活動、理依は彼氏や様々な友人との事——幼馴染達は〝探偵以外の物〟をそれぞれ持っていて、中学校以前の、いつでも、なんでも一緒だった彼らのままではないのだ。
(探偵ごっこなんてやる歳じゃないんだよな。ごっこでねぇ、って言い張れるもんでもなかったし……それなら)
下川原は決意した。
(伸葉探偵団は解散だ)
次の日——10月30日の朝、下川原は自宅の最寄り駅に1人で来た。
「伸葉……一緒に、行かね?」
同級生の1人が下川原に歩み寄った。
「いいぞ」
「あざっす、助かります」
同級生のグループも散り散りになったようだ。
小牛田行きの電車に乗り、古川駅の南口から歩いていくと、マスコミに取り囲まれた大崎更進高校が見えてきた。
「あっ! あの子かな!? 後夜祭で話していた……」
「探偵なら、解散すだんでもう居ません」
下川原はマスコミを柳に風と受け流した。
元々〝伸葉探偵団〟とは、町内の人々が下川原と幼馴染達をまとめて呼んだ物にすぎないので、彼女自身があのように言ってしまえば、解散表明としては十分だ。
1校時から4校時はこれまでの後始末——更進祭の片付け、全校集会、校長による記者会見だった。夕方には保護者説明会が改めて予定されている。
記者会見中は自習とされたが、生徒達にとっては昼休みが早まったも同然であった。
「——にしても冬美、じゃなくて狐塚さん! あれはマジでないっしょ。ね? 夏芽〜?」
「だね〜。ってか、居ない奴より、新しい恋でも語ろうよ〜」
「夏芽がいい事言ってる〜」
4組を仕切る女子達は夏芽に同情的だ。彼女達のお喋りに京穂と南谷地、心菜、下川原も巻き込まれ、修学旅行かクリスマスまでに彼氏を作る事で一致団結した。
(彼氏かぁ……その前に新人戦と、簿記もだな)
クラスの友達、恋愛、部活動、勉強——下川原にも〝探偵以外の物〟があった。
(全部やってやんぞ)
探偵ではない、一女子高校生としての下川原が始動する。




