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穏やかな日々

 多くの苦難を乗り越えた者に訪れた和やかな時間。

 幾多の困難を乗り越え、多くの事を知り、多くの人と語らい、多くの世界を見つけた。

 

 1人の世界から、家族、友人、恋人、仲間、そしてパートナーが人を大きく変えた。

 そこに至るまで、苦しみ、泣き、挫折し、嘆き、悲しみ……。それでも前に進んだ。


 何にでも光のない世界はない。時間は掛かるかもしれないが、困難を乗り越えれば辿りつける。

 誰かに助けられるのも、救われるのも、自分から行動しなければ始まらない。


 自分の行動が正しいか、それにも悩むであろう。

 しかし、行動をしなければ何も変わらない。


 行動したからこそ、手にすることができた穏やかな日々。そんな話で、この怪異譚を締めくくることにしよう。


    ・   ・   ・


禍ツ狂い事件から1年半後 5月初旬

 祐は光本家に遊びに来ていた。


 「ちょっと祐~、家に帰ってくるのはいいけど、2人をどこかに遊びに連れて行ってあげなさいよ」

 真理奈から2人の面倒をみる指令が下された。ゴールデンウィークの最中なのに……。


 「真理奈さん、ゆっくり家で休ませてくださいよ。家に帰って来たぞぉ、って満喫しているんですから」

 家族がいる空間。その空間の中に身を委ねることができる。とても心が落ち着く、なのに……。


 「祐兄ちゃん、どっか連れてってくれんの?」

 「もう、秋斗、お兄ちゃんも疲れているかもしれないでしょ? 行きたい気持ちはあるけど……」

 妹弟が行きたいと言うなら行かざるをえないかと思い、ソファから立ち上がる。


 「仕方がない、お兄様がどこかに連れて行ってやろう。じゃあ、早く支度してこい」

 俺の言葉に2人の顔が明るくなって準備をしに行った。


 「祐、ありがとね。あたしが連れて行ってもいいんだけど」

 「気にしないでください。俺は2人のお兄ちゃんですからね、お母さん」

 真理奈の気遣いなのかもしれない。家族としての時間を増やしてもらいたいのだろう。


 2人は準備も早々にできたようで、出発することにした。

 少し離れた所の遊園地に行こうという話になり、渋滞を覚悟して車を出した。


 案の定というか、分かっていた事だが車が多い。渋滞ではないが、気持ちの良いものではない。

 しかし、可愛い妹弟の頼みだ。おそらく、ごった返しているだろう遊園地もこの思いで頑張ろう。


 遊園地で散々遊んだ帰り道、秋斗は疲れて寝てしまったようだ。


 「秋斗もはしゃぎ過ぎちゃったのかな。見て、お兄ちゃん。すごい体勢で寝ているよ」

 そう言われてミラーから見ると、ドアとシートの間に挟まるようにして秋斗は眠っていた。


 「ホントだ。あれじゃ、絶対に首が痛くなるね」

 楓と2人で小さく笑った。秋斗も中学生になったし、楓も高校生だ。

 2人共、俺が歩んだ人生とは違うだろう。それでも、少なからず大変なこともあるだろうと思った。


 「お兄ちゃん、そろそろ天さんと付き合って2年になるよね? どんな感じ?」

 女の子の好きそうな話題を振ってきた。素直に返すのが一番だと思う。


 「大好きかな。俺にはもったいないと思うぐらい、素敵な子だよ。でも離すつもりはないけどね」

 俺の言葉を聞いて、楓がまた小さく笑った。


 「そうなんだ。私にもできるかなぁ、そんな風に思える人が……」

 思わず食いつきたくなる発言をした楓に対して何と言えば……。


 「できるよ。楓ちゃんの優しさは本物だよ。俺は秀一さんから優しさと温もりを教えてもらった。

 楓ちゃんからも同じように優しさと温もりを貰っているから分かるよ。そんな楓ちゃんにできない訳がないよ」

 楓だけじゃない、秀一や真理奈、秋斗からも多くのものを貰った。

 家族という優しく、温かい空間と愛情を……。


 「お兄ちゃん、本当に優しいね。やっぱりお父さんやお兄ちゃんみたいな人がいいなぁ」

 なんと嬉しいことを言う妹だろうか。教育の必要がなかったことに少し安堵した。


 「楓ちゃんなら、きっと楓ちゃんを一途に思ってくれる良い人と出会えるよ……。

 あ、でも気を付けてね。納得できなかったら、秀一さんの代わりに彼氏にパンチするからさ」

 前半も本気だが、後半のおどけた言葉も本気である。パンチで済ませられるか心配だ。

 ただ秀一はそんなことはしないだろう。娘のことを信じて受け入れると思う。


 楓が口に手を当てて、笑いを我慢している。

 こんな言葉だが、少しでも家族を思う気持ちが伝わってくれればと思った。


    ・   ・   ・


 プレシャス・タイムにてコーヒーの匂いに酔いしれていた。


 「三善、やっぱりお前の入れたコーヒーは美味しいなぁ」

 「お褒めの言葉、ありがとうございます。なんやどっかで頭でもぶつけたんか?」

 三善といつも通りのやり取りをしている。ここに来る1つの楽しい時間だ


 「純粋に褒めたのに、その言い草はあんまりだろ。ね、栞さん?」

 「そうですね。遊人くんには、あとでキチンと言い聞かせときますから」

 栞は吸魂餓鬼を処分してから、少しずつ回復して、今では三善と共にお店を切り盛りしている。


 「栞、ちょい待ちいや。祐とわいの会話はこんなもんやから、何も言わんでええんや」

 三善も栞には弱い。三善の違った一面が見れるのも楽しい。


 「おい、祐。お前が余計な事をゆうたからやぞ。助け舟ぐらいだせや」

 「散々、俺をいじってきたツケが回って来た、と思って素直に受け入れろ」

 そう言うと、三善は顔を上に向けて右手で目を覆った。


 「遊人くん、そんなことしてたんだぁ。祐さん、もっと色々教えてくださいね」

 「ちょっ、栞。余計な話は聞かんでええ。第一、何でこいつが『さん』付けで、わいは『くん』なんや?」

 三善をいじれるようになったのも、栞のお陰だ。まあ、今でもいじられるが。


 「俺から頼もしいオーラが出てるからじゃないのか? 三善と違ってやましいところは1つもないし」

 「お前……。昔した事をバラすで? 色んな人にや……」

 「栞さん! 三善は素晴らしい男だ! 俺と同じく、なんらやましいところはない! 精錬潔白すぎて光を放ちそうだ!」

 よく考えれば、俺にもやましいところがあった。これを知られると色々不味い。特に……。


 「何の話ををしてるんですかぁ?」

 ひょー! You are my Angel が最悪なタイミングで俺の元へ降り立った。


 「円ちゃん、遊人くんと祐さんのやましいところの話をしていたのよ」

 待て、早まるな。いや、もう言ってしまった。三善を見ると不味そうな顔をしている。

 俺も現状を打破するために頭をフルに回転させる。


 「やましいところですか? ん~、そんなのあったかなぁ?」

 流石は我が天使。俺のことを全て受け入れて下さっていたのですね。


 「円ちゃんの言う通りだよ。俺達は綺麗な人間さ。だから、こうして長い年月を一緒に楽しめているのさ」

 「せやせや。円ちゃんは、よう人を見とるからなぁ。円ちゃんが思い当たらんっちゅう事は、わい等は綺麗な人間というこっちゃ」

 俺と三善の共闘だ。今まで多くの苦難を乗り越えた2人の力だ。


 「じゃあ、桔梗ちゃんにも聞いてみましょうか。彼女も人をよく見てそうだし」

 栞の言葉に2人共、愕然としたであろう。俺達の友情パワーは脆くも崩れ去ったのだ。


 「…祐、お前どないしてくれんのや? これからしばらくは栞に頭が上がらへんぞ」

 「…すまん、三善。本当にすまん、すまんしか言えん。すまん……」

 敗者となった俺達に残ったのは、先に待ち構える恐怖におびえる事だけだった。


    ・   ・   ・


 我が家に帰ると、いつも通り家に挨拶をする。

 シャンデリアが軽く揺れる中、シュタルクがいつも通り出迎えてくれた。


 「祐さん、お帰りなさい」

 「ただいま、シュタルクさん。マゴロクさんは外で素振りをしてなかったようですが?」

 大体、夜に帰るとマゴロクは素振りをしている。


 「マゴロクは庭でお酒を飲んでますよ。良い月夜ですから」

 シュタルクもお酒を飲まない訳ではないが、マゴロクは結構飲むし、味にうるさい。


 「そうなんですね。じゃあ、あとでお茶でも持って行って、少し話でもしようかな」

 「そうですね。喜ぶと思いますよ。夕飯の支度をするので、少しお待ちください」

 そう言うと、シュタルクは食堂の中に入って行った。


 食事を済ませると、雑談をしながら2人と屋敷でティータイムを楽しんだ。

 「祐さん、今日は修行はどうされますか? もう十分に強くなられて、私も学ばされることが多いのですが」

 「シュタルクさんのお陰ですよ。そうですねぇ……。今夜は止めておきます。色々と話したい気分なんで」

 俺の言葉にシュタルクは笑顔で頷いてくれた。シュタルクがいたから、リリエールも支えられてきたのだろうと思った。


 緑茶とコーヒーを持って、マゴロクの元へ向かった。

 庭の椅子に座って、お酒の入ったコップを持ってチビチビと飲んでいるようだ。


 「マゴロクさん、お茶でもいかかですか? 良い月夜ですねぇ……」

 「おう、すまんな。貰うとするかな」

 マゴロクの近くの椅子に座り、月夜を眺める。これといって話す訳でもない。

 ただ、マゴロクの何となく優しい雰囲気が心地良かった。


 「…守屋、酒でも飲むか? って、お前が買ってきたやつだが」

 少し笑いながら、マゴロクが言ってきた。


 「言ったでしょ、下戸だって。今はコーヒーで勘弁してください」

 「つれねぇな。ま、1人酒が好きだが、たまには誰かといるのも良いもんだ」

 マゴロクの言葉に俺は笑顔になった。マゴロクも人を守るための強さを持っているのだろう。


 マゴロクと取り留めのない会話をして、リリエールの所へ向かった。

 子供の泣き声が少し聞こえる、その部屋に。


 部屋を大きな音を立てない程度にノックする。

 「リリエールさん、入っても良いですか?」

 「おお、化け物人間か。血を自分から持ってくるとは良い心がけじゃのぉ。入って良いぞ」

 いつも通りの酷い言われようだ。でも嬉しそうな響きにも聞こえる。


 部屋に入るとベッドに腰掛けて、子供をだっこしているリリエールがいた。

 「相変わらず可愛いですね。リリエールさんみたいに綺麗になるでしょうね」

 子供のほっぺたを優しく突いた。


 「そうかものぉ。ワラベエが祝福してくれた子じゃ。エリィも健やかで良い子に育つであろう」

 リリエールの言葉に少しだけ悲しみと、そして母の思いやりを感じた。


 ワラベエは1年ほど前にいなくなった。

 いなくなったと言うより、リリエールのお腹の中にいた娘であるエリィに幸せを注いだのだ。

 ワラベエにとっては、新しい命を祝福することが幸せと思ったのだろう。


 「そうですね。リリエールさんの生きる意味と、ワラベエが望んだ幸せが1つになったんですから。

 良い子に育たない訳がないですよね。俺を誘惑しないような子に育って欲しいものです」

 リリエールの子ならおそらく、いやぶっちぎりの美人になるだろう。


 リリエールがまた優しい笑顔を見せた。子供が生まれてから、よく見せるようになった。

 「どうじゃろうかのぉ。お主はお人好しじゃから扱いやすくて、すぐに誘惑されるやもしれんぞ?」

 リリエールは表情を変えないまま言ってきた。かなり恐ろしい事を……。


 「それはそれで良いかもしれませんね。エリィちゃんの成長を見れて、皆さんとも長くいられて……。

 ワラベエと同じように、それも私の願う幸せです。もっと見せてくださいね、エリィちゃんの成長を」

 今まで1人だった我が家を明るくしてくれた仲間。いや、1つの家族の幸せを願っている。


 「そうじゃのう……。いつか別れる日が訪れるやもしれん。

 じゃが、お主と過ごした時間はわし等にとってかけがえのない時間じゃ。

 それまでは皆で幸せに生きて行こうではないか。この子と共にな……」

 リリエールの言葉を聞き、笑顔になった。つくづく皆から笑顔にしてもらえる。


 リリエールが座るベッドに座り、吸血しやすい体勢を取る。何も言われず、噛まれて気持ち良くなる。

 でも、この気持ち良さではないもので我が家は満たされている。


    ・   ・   ・


 天と2人で、前に行った温泉街の1つの宿に泊まっていた。

 予約したら家族風呂に入れるということで、2人で入った。


 いつも通りと言えば、そうかもしれない。横に天がいるのが当たり前になっている。

 だからと言って、思いが薄まるものでもない。まだまだお互いが知るべきものがあるから。


 「祐さん、どうかしました? 物思いにでもふけった顔をしてましたけど?」

 天に言われて気が付いた。思っていた事を素直に言おう。彼女に知っておいてもらいたい。


 「そうだな~、天ちゃんが俺の横にいるのが日常になってきた。って言えばいいのかな。

 だからと言って、日常が退屈な訳じゃないよ。お互いに分かり合う事がまだあると思ってさ」

 ストレートな言葉になってしまったが、どうだろうか……。


 「そうですね……。当たり前といえば当たり前かもしれませんね。

 でも私も退屈じゃないですよ。祐さんから心を開いてくれていくのが嬉しんです」

 天の言葉に思わされた。上辺では分かっていても、深い所までは怖がっていた。


 「そうだね……。天ちゃんはかなりオープンなんだけどね。

 俺はなかなか奥が深いのか……。恥ずかしいのか……、情けないのか……。そんなところを見せたくないのかも。

 今は少しずつだけど、出せるようになった気がする。これは天ちゃんのお陰だよ。真っ直ぐに向き合ってくれるからさ」

 そうだ。今の言葉を出せるようになったのは天のお陰だ。今までは本当に気心が触れた相手にしか話せなかった。


 「そう思ってもらえるのは嬉しいです。あ、でも恥ずかしい話は真理奈さんが教えてくれた以上にあるんでしょお?」

 また意地悪な満面な笑顔で天は聞いてきた。


 「その事は忘れて…とは言えないけど。ほじくり返さなくていい思い出もあるよ? そこは勘弁して欲しいところだね」

 自分でも何をしたのか覚えていない事が多いのに、これで思い出させられたら確実に布団の中で悶絶する。


 「そうなんですねぇ……。じゃあ、真理奈さんに聞いてみます。大丈夫です、私だけの楽しみにしておきます」

 「いや、それは止めておこう。天ちゃん、絶対に思い出させようとしそうだからさぁ」

 天が俺の情けない言葉を聞いて、楽しそうに笑った。

 つられて笑ってしまったが、真理奈にきつく口止めせねば、ということは忘れないようにした。


 家族風呂を上がり、少し夜風に当たろうと提案し、天と共に温泉街を歩く。

 立ち上る湯気に、旅館やホテルなどからの灯りで幻想的な雰囲気がする。


 「付き合って2年かぁ。何か、あっという間だった気がするなぁ」

 この旅行は2周年記念として企画したものだ。思った通り、本当に早いものであった。


 「そうですねぇ。色々ありましたけど、早かったですね。

 大学生活も楽しいですが、やっぱり祐さんといるのが楽しいです。何ででしょうね」

 天はとても嬉しいことを言ってくれた。


 「俺も楽しいよ。何でか…か。そりゃ、好きだからかな。

 お互いが好きなら、楽しくない訳がないよ。ま、あとは俺をいじるのが楽しいのかもしれないけどさ」

 おどけた口調で締めくくったが、俺は好きだという気持ちに変わりはない。天は笑顔になっている。


 「ですね。私も祐さんが好きですよ。いえ、大好きですよ」

 照れくさそうに天が言った。俺も照れくさいが言おうと思った。


 「いや、俺の方が天ちゃんよりも大好きだと思うよ? 大好きさ……」

 我ながら言ってみて恥ずかしい。2人共、恥ずかしい思いをしてどうするんだろう。


 部屋に戻り、今日あった事を振り返って、笑い合う。

 そんな日常が俺に力をくれる。手放したくない日常、守りたい日常なんだ。


 電気を消し、口づけを交わし、布団に入る。

 お互いが何かを確かめ合い、伝え合う。

 離れたくないように抱き合い、お互いの心のひもをまた強く結んだ。


    ・   ・   ・


 事務所の椅子に座り、集中をする。


 今では前のように苦しい思いをせずに白い男の元へ行ける。

 捕らわれた人がいなくなったからだ。


 話すことは、取り留めのないことばかりだ。

 何があった、どんな事をした、こんな事があった……。


 白い男の名前は知らないし、俺の名前も伝えていない。

 ただ言えることは白い男の思いが、少しでも癒されれば良いと思っていることだ。


 白い男も少しずつ話してくれるようになった。

 彼が禍ツ喰らいから出る、その日まで俺は何度も訪れると言った。

 そんな俺の言葉に少しだけ笑顔になった事は忘れない。


 帰るときは必ず握手をして帰る。思いが伝わるかは分からないが、温もりは伝わる。

 彼の望んでいたものの1つを与え、少しずつだが彼の望みを叶えていきたい。


 帰ると、時間にしてほんの数秒しか経っていない。

 彼がいるお陰で、未だに禍ツ喰らいの力は使えている。


 彼はその為に残っているのかもしれない。

 俺が彼に与えるように、彼も俺に与えたいと思ったのかもしれない。


    ・   ・   ・


 事務所のドアがノックされたので、招く言葉を発した。

 入ってきたスーツの男女…、魔法協会の2人だ。


 とりあえずソファに座ってもらう。相変わらず更紗は相馬の少し後ろに立っている。

 相馬の楽しそうな顔はいつもの事だし、話す内容もいつもの事だろう。


 「いやぁ、守屋くん。そろそろ僕達と一緒に働きたくなったんじゃないかと思ってさぁ。嬉しくて迎えに来ちゃった」

 「勝手に人の感情を操作しないでください。それにちょいちょい協力してるでしょ? これでも譲歩したと思いませんか?」

 俺の言葉を聞いて、相馬は頭を軽く掻きはじめた。


 「でもさでもさ、萌香ちゃん、すんごく活躍してるじゃん?

 もういっそのこと3人で来ちゃえば? 探偵業止めて、そっちに専念しようよぉ。

 ただでさ、おじさんは娘の発表会にも参加できないんだよ? もう心も体も限界だよぉ」

 相馬の言う通り、すごく大変なんだろう。人手が足りない状況も分かるが……。


 萌香を見ると少し笑っている。悪くは思っていないのだろう。

 幸は楽しそうに笑っている。まあ、行きたい気持ちもあるのかもしれない。


 「相馬さんの家庭の事情は分かりました。でも、3人で行く気はないですよ? 私達にも大事な人がいるんですから」

 協会の常勤者になれば安定した収入かもしれないが、重要なのはそこだ。


 「え~……。分かった! 仕方がない。3人共、来てくれたら、パートナーをチェンジしてあげよう。

 守屋くん、更紗ちゃんと組めるんだよ? 君から積極的に行かないと、彼女が行きおクウウウウウウウウウ! …更紗ちゃん、悪い話じゃないじゃん」

 「パートナーの変更なら理解できましたが、後半は話が逸れてましたので」

 相変わらずのやり取りについ笑ってしまった。相馬が悪いのだが、更紗も厳しい。まあ、だからこそ上手く動けているのだろう。


 「相馬さん、更紗さんとパートナーを組むことは光栄なことですが、協会には入りませんよ?」

 「なんでぇ? 一緒に行動して、一緒に解決するんだよ? 今の仕事と同じじゃん。

 萌香ちゃん、すごいじゃん? おじさんも楽になるし、守屋くんも更紗ちゃんと結ばレエエエエエエエエエ! …おめでたい話じゃん……」

 なんでこの人はこんなにタフなんだろうか。だからこそ、勤められるのだろう。


 「相馬さん、とりあえずは現状維持でお願いします。……まあ、2人体制になったも同然ですからね。

 少しは離れた所の案件も受けますよ。それなら悪くはないでしょ?」

 もう俺だけじゃない。案件次第では、この事務所を任せる事ができるのだ。


 「守屋くん、さっすがぁ。ここまで来たら、あともう少しで協会入りだねぇ。

 …更紗ちゃんも待ってるから、早く来てネエエエエエエエエエ! …守屋くん、一緒に頑張ろう」

 電気が流れることで体の調子でも整えているのではないかと思うほど、電気を流されている。


 「とりあえず帰りましょう、相馬さん。守屋さんもかなり譲歩してくださったことですし。

 守屋さん、ありがとうございます。何かありましたら、ご相談させていただきます」

 更紗は綺麗に一礼して、相馬を押し出していった。相変わらずな2人を見て、また笑ってしまう。


 萌香が携帯をスピーディーに操作しているのが見えた。

 まさかとは思うが聞いてみるしかない。


 「萌香ちゃんさ、もしかして今のやり取りで誰かに何かを送るつもりじゃないよね?」

 俺の言葉を聞いて、萌香は笑顔を見せながら止めの送信ボタンを押したと思われる。


 「萌香ちゃん! 何!? 俺の対応に何か不備でもあったの? 送った相手は天ちゃんだよね?」

 「ああ~、さっきの更紗さんとお仕事ができるって話の時に、笑った顔がキモかったからじゃないですかぁ?」

 萌香に聞いたのに、幸が酷いことを言ってきた。


 「幸ちゃんさ、俺も笑ったかもしれないけど、2人のやり取りが面白くてだね……」

 幸に注意をしていたところに携帯のメッセージ着信の音がなった。


 『更紗さんと組めると何が光栄なんですか? 一緒に行動したいんですか?』

 ぎゃー! あの話の流れから、ここだけ抽出するとは……。


 「萌香ちゃん! これで俺は大変なことになるんだよ? 何であんなメッセージを送ったのさ?」

 「祐さんが少し嬉しそうにしてたから、つい」

 萌香は笑顔で返してきたが、それで誤魔化せるものではない。


 「皆、俺で遊び過ぎだろ。頭が痛くなってきた……」

 「祐さん、大丈夫ですか? お薬、持ってきますね」

 萌香よ。君の気持ちは嬉しいが、君の所為で頭が痛いんだ。


 「萌香ちゃん、大丈夫ですよぉ。祐さんの頭痛の種の大半は女性関係ですからぁ」

 「幸ちゃん、女性関係ってさ……。俺、何か得したことあったっけ?」

 身から出た錆も多いかもしれないが、やましいところは無い。誓って、無い。


 「祐さん、お薬です。…やっぱり魔法協会には入らないんですね」

 「お薬、ありがと。…そうだね。今の体制が好きなのもあるからさ。できれば、ずっとこのままでいたいぐらいさ」

 1人なら考えたかもしれない。でも、今は皆でいたい。


 2人共、嬉しそうな顔をしている。思わず俺の顔もほころんでしまう。


 「そう言えば、萌香ちゃんは大学3年生になったよね? 進路とかはどうすんの?」

 思わず聞いてしまった。俺の気持ちは分かっているとは思うが……。


 「私は残ります」

 萌香は真剣な眼差しを俺に向け、意志の固さを見せるように言った。


 「やっぱり、そう来たか」

 「やっぱり、そう来ましたねぇ」

 俺も幸もどこか諦めている。いや、受け入れている。一緒にいたい人なんだと……。


 「ま、いいや。萌香ちゃんの心の強さは知ってるよ。だから、残ってもいい。

 仕事も一緒にしたい。3人なら大半のことは乗り越えられる。

 俺達だからこそ、できることを頑張っていこう。

 処分屋は、3人揃っての処分屋だからさ」

 俺の心の中にある本当の思いを、そのまま言葉にした。


 「意外ですねぇ。更紗さんを取るかと思いましたがぁ。じゃあ、3人で頑張りましょ~」

 「はい。3人で処分屋です」

 2人の意志も確認できた。

 俺は多くの人に支えられて、今の俺がいる。その思いだけは忘れない。


 ドアをノックする音が聞こえたので、事務所に招きいれた。

 かなり顔色が悪い女性だ。どっちの仕事だろうか。


 「あの、ここに霊能力者の方がいらっしゃるとお聞きして」

 女性の言葉に、2人共大きく頷いた。


 「ええ、そうですよ。私共は処分屋です。先ずは、お話しをお聞かせください」

大変長い話を読んでいただき、まことにありがとうございました。本当に感謝の気持ちしかございません。


続編ではなく、追加話として、処分屋 守屋 祐の怪異譚・『追』を執筆いたしました。

まだお付き合いいただける方がおりましたら、そちらも読んでいただけると嬉しいです。

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