表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/44

瘴気

 瘴気。それは悪い空気のことを言い、周りに病気をばらまくものとして恐れられていた。

 その中でも悪い水は瘴気を発生させ、そのたまり場になるとして一番恐れられてきた。


 瘴気とは気体として空気中を飛び回り、様々な病気の元になっているとされている。

 これは過去にも大きな災厄となって人々を苦しめてきた。


 現在でも瘴気による悪い空気が元となって病気になっていると考える人がいる。

 確かに災いを運ぶ空気は文字通り悪い空気であり、瘴気が原因とも考えたくもなるだろう。


 しかし、そんな瘴気が人にだけ災厄をもたらす訳ではない。

 人に悪いのであれば、他の生き物や環境にも悪影響を及ぼすことになる。


 そう。それが怪異であってもだ。むしろ怪異にとっては大好物と言えるものであろう。

 瘴気も、それに苦しめられる人達も。人に災厄をもたらす瘴気と、人に害を与える怪異……。


 その2つが混ざりあった時、どのようなことが起こるのか。今回はそんな話をしよう。


    ・   ・   ・


7月中旬

 守屋探偵事務所にスーツ姿の嬉しくない客と祐は向かい合っていた。魔法協会の者達だ。


 名前はカッコいいが魔法に特化した団体ではない。むしろ、その逆である。

 実体は半官半民のような団体で常勤者としてそれなりの人数はいるが、実情は派遣会社のようなものだ。


 大手の術士一門に属すことができなかった2流以下の者が協会に名前を登録する。

 そして必要に応じて、依頼内容に適したと思われる者を派遣する。怪異などに苦しめられる人を救う為に。


 その思想自体は素晴らしいものだが、何せ人手不足で問題に気付いた時には、事が大きくなっている場合も多い。

 酷い時には3流の霊能力者が処理できず、より強くなった怪異を相手にさせられる場合もあり、それなりの術士を欲しているのが現状である。


 しかしながら、さっきも話した通り半官半民だ。

 営利主義に走れば大手一門と同じになるし、非営利のためヘッドハンティングする予算もなく、安い金額で馬車馬のごとく使われる。

 割に合わない仕事と言われており、霊能力者の墓場とまで言う輩もいるほど厳しい所である。


 実際、前に真理奈と一緒に行ったパーティーでも、かなりの霊能力者に声を掛けていた。

 上手くいったかどうかは分からないが、乗り気な人物も少ないだろう。


 そんなことが知れ渡っているのに度々ここに来る、厄介な魔法協会の人達が目の前にいるのだ。


 「いやぁ、守屋くん。そろそろ、うちに来たくなった頃だと思ってねぇ、迎えに来たんだよぉ。君が来てくれるとすごく助かるんだけどなぁ」

 この軽薄そうな男は相馬そうま じん。歳は俺よりも10ぐらい上だったか。

 顔や格好も悪くないが、無精ひげにボサボサ髪、いかんせんこの軽薄っぷりが目立って台無しだ。


 「相馬さん、何度も言ってるでしょ? 私は自分の所に来る依頼で大変なんですよ。

 魔法協会に登録したら、身近な人の依頼に対応できなくなるじゃないですか」

 このやり取りばかりだ。力を買ってくれるのはありがたいが、正直な話、自分の守れる範囲は限られている。

 どこにでも行かされる事になれば、大事な時にいないことになりかねない。


 「分かっちゃいるんだけどねぇ。うちもホント猫の手も借りたいぐらいの状況なのよ。ちょっとぐらいダメ?」

 「ダメです。そちらの事情も分かりますし、崇高な理念だと思いますが、霊能力者は基本的に嬉しくない力を持たされた方々が多いです。

 そうなると、その力を利用してお金が良い所に行きたくもなるじゃないですか。

 もうちょっと予算を増やしてもらえば良いんじゃないんですか?」

 俺の言葉が的を射ているのか、相馬は俺から目線を外し頭を軽くかいている。

 この人達も理念に従って常勤者として働いているのだ。気持ちは分かる。


 「じゃあさ、近場での依頼だったらどう? それならOKでしょ?

 普通の人達の依頼とそう変わらないでしょ? 頼むよぉ、娘に顔を忘れられちゃうよぉ」

 それだけ人手不足に加えて、優秀な人間はそれこそ東奔西走である。

 子供に顔を忘れられるほどに忙しいのも分かるが……。


 「できるだけ、そちらで対応してください。それに優秀なサポートもいるじゃないですか? もう一度人員の配置を考えられては?」

 霊能力者は悪霊などの場合は1人でも対応可能だが、怪異となると1人が戦い、もう1人は怪異の特徴や弱点を見極めアシストをする。基本2人体制だ。


 「更紗ちゃんのことぉ? ダメダメ。彼女がいないと、僕死んじゃうもん?

 だって守屋くんも可愛い助手ちゃんがいるじゃん? 助けられてるでしょ?」

 萌香を見て相馬は言った。確かに助けられることも増えてきた。

 怪異のことについても、幸の本を借りて読んでいる時もある。


 「まあ、それは否定できません。ですが、流石に彼女に事務所は任せられませんし、まだ女子大生ですよ? 1人きりで怪異の相手とか冗談じゃありませんよ」

 「女子大生!? 若いと思ってたけど…ほぇ~、守屋くんもやること大胆だねぇ。

 2人きりで調査とかワクワクしてくるネババババ! ……更紗ちゃん、やるなら先に言ってよ!」

 後ろからムチで電気を流したのは、稲光いなみつ 更紗さらさ。相馬のパートナー兼お目付け役だ。

 目力がある美人で肩に付く位までのサラサラな茶髪にタイトなパンツスーツが眩しい。相馬が少し羨ましくなってしまう。


 「先に言ったら逃げるに決まってますから。それとも最初に縛ってから、お話しされた方が良かったですか?」

 やっぱこの人は怖い。いや相馬が悪いのは分かっているが、それでも厳しい人なのだろう。自分にも他人にも。


 「いえ、このままでお願いします……。また話は戻るけどさぁ、守屋くん。うちに来てくんないかなぁ。このままじゃ、おじさん過労死しちゃうよぉ」

 「とりあえず、やる気はありません。

 そもそも、相馬さんが後進を育てれば良いじゃないですか? 中途からの人でも、相馬さんの力ならそれなりに強くはなれるでしょ?」

 相馬は魔法協会の中でも1等術士だ。更紗は準1等術士。共にかなりの手練れである。しかし、2人で動かす必要があるのかとも思う。


 「いやぁ、分かっちゃいるんだけどさぁ。符術士だからねぇ……。

 まあ、ある程度は教えやすいんだけど、組合せが難しくてぇ。教えるのがめんどくさくなっちゃうんだよねぇ」

 魔法と違って詠唱はいらない符術は霊力さえあれば習得しやすい。

 しかし、高等になればなるほど、複数枚の重ね掛けや呪符の配置など知識が増えていく。


 「では、更紗さんのように、魔法を単一に絞れば良いんじゃないんですか? まぁ、他の術に影響しなければの話ですけど……」

 「更紗ちゃんの強みは電撃だけじゃないからね。魔法はそれに特化して手に呪文を彫っているけど、彼女の強みはそれ以外にあるからねぇ」

 相馬の言葉を聞いて更紗を見る。そうなのか? 電撃系の魔法に絞って使っているのかとばかり思っていた。

 確かに単一の系統にしたら、準1等まで上がるのは難しいかも……。


 「あ、守屋くん。もしかして、更紗ちゃんのいやらしイイイイイイイイ! ……更紗ちゃん早いってぇ。

 んっぅん、更紗ちゃんの強みはむしろ武器の使い方にある。銃から退魔用道具、はたまたそのボディイイイイイイイイ!

 ……その鍛えられバランスのとれた力。そして、一番が電撃を込めた投げナイフ。これはなかなか痛いよぉ」

 すでに3度も電撃をくらったのに、この軽口を出せる根性がすごい。


 「まあ、気が向いたら話しをしますよ。今日はもう帰って下さい。何か疲れました……」

 「守屋くん、ホントだかんね!? 嘘いったら、家に押しかけるからね!」

 更紗に押し出されるように相馬は帰って行った。


    ・   ・   ・


 「祐さ~ん、やっぱり魔法協会には属さないんですかぁ? 人々の為にはなりますよぉ?」

 幸の言う通りではある。それこそ魔法協会の理念である。


 怪異に苦しめられる人を安価で助ける。ただ、この理念は崇高すぎる。

 一般人から考えれば、危険な仕事にはそれなりの給料が入るはずだ。だが、敢えてそれを捨てている。


 「幸ちゃん、俺は自分の周りで困っている人を助けたい。

 これが俺の理念でもあるんだ。大事な人を守るのも近くにいないとダメだしね」

 そのことを考えると魔法協会に入ることはできない。気持ちは分かるが、ダメだ。


 「…祐さん…もし、天野原で事件があって…協会から依頼があったらどうします……?」

 また悩ましい問題だ。萌香の言う通り助けたいが、怪異が凶悪化している可能性も高い。


 「萌香ちゃん、それは案件次第かな。協会の扱う事件は厄介なものが多いからね」

 「…もし…私が協会に入るって言ったら…どうしますか……?」

 なんでそんな話になるのか理解ができなかった。でもそれは認めたくない、その思いを伝える。


 「全力で止める。たとえ萌香ちゃんが魔法を覚えたりしても、危険な事に巻き込まれるのを見たくないし、考えたくもない」

 自分の気持ちは伝えた。あとは萌香次第だが……。誰かを守りたい気持ちは分かるが。


 「…ありがとうございます…いつも私の身を案じてくれて。…でも、銃…撃てるんですよね……」

 「萌香ちゃん…それが目的の1つなら尚更止めるよ?」

 何故かシークレット・ベースに行って以降、萌香は銃に興味を持っている。撃った後に快感でもあるのだろうか?


 「じゃあ、祐さんの協会加盟は無しなんですねぇ。

 協会に入れば普通じゃ拝めない書物がいっぱいあるんですけどぉ」

 幸はそれが目的だったのか。まあ、特典の1つではある。

 魔法使いが秘伝としている魔法も書物を読み解けば分かるものもあるだろうが……。


 「幸ちゃんの欲望の為に俺は入らないよ? 協力ぐらいはするかもだけど」

 相馬に言っていることは嘘じゃない。手が足らないのなら、この天野原市程度ならそれもありかと思った。


 「…祐さん…協力したら銃は……?」

 「撃っちゃダメ! 諦めなさい」

 そう厳しく言うと、残念そうな顔を萌香はしたが、それはダメだ。ちゃんと釘を刺しておく。


    ・   ・   ・


数日後

 事務所で素行調査の報告書をまとめた。問題のない人物だった。

 それが分かると嬉しい。頼んだ人も何かしらの考えがあっての事だろうが、安心するだろう。


 そんなことを考えていたら、携帯の電話が鳴ったので取るといきなり大声を出してきた。


 「守屋く~ん、僕死んじゃうよ~、助けて~」

 相馬の悲痛とは思えない声で、俺に救援を要請してきた。


 「相馬さん、とりあえず声からは大丈夫そうですし、更紗さんから締め上げられているなら、自業自得ですよ?」

 「やだなぁ~、守屋くん。冗談だってぇ。

 いやぁ、更紗ちゃんがめちゃくちゃ睨んでいるんだけどね。実はねぇ、天野原で怪異が出ちゃったみたい」

 流石は魔法協会、怪異のネットワークはこちらより上ということか。


 「でさぁ、手伝ってもらっちゃったりできるかなぁって、思ってね。

 あぁ! 更紗ちゃん、待って待って! …守屋くん、助けてはもらえないでしょうか?」

 大体の光景が分かる。相馬の後ろで、今にも電撃をくらわせようとしている光景が……。


 「相馬さん、天野原なら手伝いましょう。できれば情報などを教えて貰えると助かります」

 情報が分かれば、怪異の弱点や対処法も分かる。魔法協会なら尚のこと調べているだろう。


 「守屋くん…ごめんねぇ。実はこの案件、3流の霊能力者が下手に手を出したみたいで、怒り狂っているみたいなんだぁ。

 一応、そいつから聞いた情報だけど良い?」

 魔法協会はこれだから大変だ。こじれた案件を任される相馬と更紗のことが可哀想に思えた。

 その情報でも良い、と言うと相馬は改まった口調で話し始めた。


 「どうもね、家自体がお化け屋敷になっているみたい。…いや怪異だね。

 でも問題なのが、その家に住む住人もその怪異に憑りつかれている可能性が高い。

 その霊能力者の話を聞くと、家の中でお浄めをしようとしたら、何かの力で床や天井に叩きつけられて、なんとか逃げようとしたら依頼してきた住人が血走った眼で襲ってきたらしい……」

 相馬の言葉に、息を飲んでしまった。


 とんでもないことになっている。我が家の幽霊屋敷は心を持った優しい家だ。

 しかし、この家は住人すらも取り込み、テレキネシスのように人を振り回した……。


 「相馬さん、それってかなり不味い状況ですよね?」

 「うん、相当ヤバいね。外から見ても、その力が伝わってくる。

 このままにしておくと…近隣住民に被害が及ぶのも時間の問題かも……」

 普段の相馬の軽薄な口調じゃないことから、厄介さが手に取る様に分かる。


 「すいません、相馬さん。先ずは幸ちゃんに話して思い当たる怪異がいないか、調べてからで良いですか? あと住所もお願いします」

 「さっすが守屋くん。助かるよぉ。幸ちゃんにもよろしく言っといて。それじゃ、吉報をお待ちしております! …あ、住所言い忘れた、ごめんメモして」

 先ほどとは打って変わって、軽快な口調の相馬から住所を聞き、メモをした。


 「う~ん…相馬さんの情報だと怪異の凶暴性が目立ちますが、可能性として高いのはこれでしょう」

 そう言って幸は、巻物を持ってきた。色々な妖怪が所狭しと並んでいる中で、幸が指をさした。


 「これは『借盗宿主かりとりやどぬし』。イメージとしては、軒先貸して母屋を取られるといった感じです。が、厄介なのは勝手に来ることです。

 勝手に家を借りて、家に住み着き、家の隅々まで自分の力を行き渡らせて、最後は自分の物にします。大抵はゴーストハウスのように怪奇現象がおきます。

 しかし、この家の人がそれに気付かなかったのか、オカルト否定派だったのか……。どちらにせよ、すでに家を乗っ取られた、と考えるのが良いでしょうね」

 家を乗っ取られたか……。幸の推測通りであれば、手ごわい怪異となる。


 じわじわと潜伏し、なかなか尻尾を出さない為、発見が遅れる。もう少し家主が早く対応していればと悔やまれる。

 しかし、そんな場合ではない。対処法がないかを聞く。


 「幸ちゃん、かなり厄介なことは分かった。これを処分する方法は何かないの?」

 何にでも倒す方法はある。かなり危険は伴うかもしれないが……。


 「もっとも簡単なのは家の焼却です。が、凶暴化しているなると炎を跳ね返しかねません。

 となると、根本的な所を処分する必要があります。

 怪異が隠れているであろう所に、直接何かで滅却するか、禍ツ喰らいでも良いです。

 本体を倒さなければ、家の住民も家自体も救うことはできません」

 これまた更に厄介な話になってきた。


 難易度が高すぎる。本体が見えない中で、怪異の手先になった住人と家を相手にする。

 完全に相手のホームグラウンドで、だ。どう対処するか……。先ずは見に行くしかない。


    ・   ・   ・


 天野原市は近くに大きな自動車工場もあり、都心近辺に通勤するにも都合が良いため、新興住宅地も多い。

 そんな一角に一目で分かる異様な家があった。


 「守屋く~ん、ありがとねぇ。ほら、見てよぉ…もう、なんか限界チックでしょ? これをなんとかするってぇ、2人じゃ無理と思ったんだよねぇ」

 最後に乾いた笑いをしながら相馬は言った。確かに限界だ……。

 雰囲気が重々しく、綺麗な家なのに漂う空気は朽ちたボロ屋のようだ。

 このままにしていれば間違いなく近くの住居にまで手を出す。


 「って、相馬さん! また2人で来たんですか!?

 こんなのを相手にするなら、内と外の両面からの解呪や減力魔法とかで抑えながらやるのが定石でしょ?」

 正しく信じられないといった顔で相馬に言っただろう。相馬と更紗は戦闘能力は一級品だ。だが、あくまで戦闘に関してだ。


 「いやぁ、守屋くんの言う通りなんだけどさぁ……。呼んだ人が逃げちゃったのよ」

 また相馬は乾いた笑いを最後に出している。逃げるかぁ……。外から見てこの禍々しさとくれば、逃げたくもなる。


 「そりゃ、不運でしたね。しかし、これは3人でもちょっと厳しいのでは?

 私と更紗さんは攻撃向きだし、相馬さんはオールマイティですが……」

 そう。俺は禍ツ喰らいの影響か、呪術や魔法の類はまともに扱えない。

 簡単なものならいけるが、それで抑えられる家ではない。


 更紗に至っては、雷の魔法に特化している。

 他の魔法のレベルは知らないが、期待できる程ではないだろう。


 「守屋くん、守屋くん。3人なら厳しいよね? だったら、助手ちゃんにも手伝ってもらえないかなぁ?」

 「相馬さん、言って良いことと悪いことがありますよ……?」

 萌香をこんなゴーストハウスにいれるなんて、とんでもない……。かなりきつめに言って相馬を睨みつけた。


 「守屋くん、ごめんって。分かっちゃいるけどさぁ…3人だとヤバくない?」

 相馬もダメ元で聞いたのだろう。だが、自分の身でさえ守れるかどうかの時に萌香は連れてはいけない。


 「いざとなれば、私が禍ツ喰らいの力で何とかしますから。あんまり乗り気ではないですけどね……」

 「…祐さん…それはダメです。私…行きますから……」

 後ろにいる萌香の言葉に思わず振り向いてしまった。


 「…幸さんが少し教えてくれました。…体だけじゃなく、心にも負担が…だから、使わないでください……」

 萌香の話しからなんとなく分かる。おそらく朱鋼黒百足の事だろう。

 幸は人の笑える話はするが、言わない方がいいことは言わない。彼女なりに知っておいて欲しかったのだろう。


 「守屋さん。私からもお願いしてよろしいでしょうか。彼女の力量は分かりませんが、退魔用道具ならあります。

 こちらの手が塞がっている時に援護していただけるだけでも大きく違ってきます」

 更紗の言うことも一理あるが……。萌香の顔を見てみる。……覚悟を決めている目だ。


 「分かりましたよ。相馬さん、更紗さん、4人で行きましょう。萌香ちゃん、必ず守る。だから近くにいてフォローを頼む」

 俺の言葉に、萌香は大きく頷いた。そんな2人のやり取りを見たのか相馬が嬉しそうというか、いやらしい顔をした。


 「いやぁ、良かった良かったぁ。

 これで2人の仲がグッと縮まったら、僕達は愛のキューピットオオオオオオオオ!……更紗ちゃん、霊力は温存しとこうよ…痛いし」

 相馬の発言に突っ込む気すら起きず、家に目をやる。


 「相馬さん、やっぱり強行突破ですか? どこから入るにしても、敵の腹の中ですが?」

 俺の質問に、相馬はあっけらかんとした顔をしている。


 「もう玄関から入っちゃおうよ。行儀よくさぁ。じゃあ、呪符で吹っ飛ばすから。守屋くん一番乗りして良いよぉ」

 嬉しくないことを相馬は言ったが、その方がこちらとしてもやり易いか……。

 そんなことを考えていると、鼓膜を大きく振るわせる爆音がした。相馬が爆裂符を投げたのだ。


 「守屋く~ん、行っちゃって、行っちゃって~!」

 相馬の軽口に乗って、家の中に突入する。玄関から上がる。横が仏間か?

 ふすまを蹴り開ける…が何もいない?


 「守屋さん、上!」

 更紗の声に反応しすぐに上を見上げると、天井から男女が降り掛かってきた。


 降ってきた男女は、正気の目ではない。

 両目とも赤く血走っており、焦点が合ってないように、片目ずつバラバラな場所に黒目が向いている。

 その中でも異様なのは、皮膚の上に赤黒い血管のようなものが張り付いていることだ。

 それが指先から爪のように飛び出している。


 女からは背中を深々と切り付けられ、男に前面の肩から腹まで上下に裂かれた。

 「前も後ろも痛ぇじゃないかっ…緑青白百足!」


 背部から生える場所が一対の6本の白い百足が出現し、男と女を掴み上げ、仏間の畳に振り落す。


 「守屋さん! 大丈夫ですか!? 背中…血が…。守屋さん!? また上!」

 更紗の心配の言葉をありがたがる前に、上から何かが来てしまった。


 赤黒い血のようなものが天井から伸びてきた。

 思わず後ろに下がると、血のようなものは男女を掴むようにして持ち上げて行った。

 上を見ると、男女が天井の中に消えて行った。


 「…祐さん…大丈夫ですか……!?」

 萌香が3番手に入って来たようだ。相馬が殿ということか……。後ろを任せるにはバッチリか。


 「更紗さん、私の死角のカバーを。萌香ちゃんは、コマちゃんを出して、自分と更紗さんの防御を。

 相馬さーん! 自分のことは自分でなんとかしてください! そっちにも行くと思います!」

 「守屋く~ん、あんまりじゃな~い? って、もう!」

 相馬の声から察するに、何かに襲われたのだろう。

 響いて来たのは重いものが倒壊したときのような音だった。おそらく、石壁符で防御し家にぶつけたのだろう。


 とりあえず、相馬は自分で何とかできるだろう。こちらは、どこに本体がいるかを探さねば。


 「更紗さん、萌香ちゃん、今の状況を維持してください。壁をぶち破ります!」

 そう言って壁に近寄り、緑青白百足の運動性、攻撃力、高スピードの連打によって、壁に新しい部屋への入り口を開けた。

 ただ、壁をぶち抜く際に、何かが千切れる嫌な感触と音がした。怪異が張り巡らせた血管だ。


 「最初は俺が行きます。次に更紗さん。萌香ちゃんは後ろに注意して付いて来て。相馬さーん、早く合流してくださーい!」

 「守屋く~ん、僕の扱い、雑じゃな~い?」

 どうやら元気そうだ。こちらはこちらでなんとかしよう。


    ・   ・   ・


 仏間を抜けるとリビングとダイニングに出た。仏間に比べて広い作りになっている。


 新しい家だからだろうか、部屋の色と家具が統一された色をしていた。

 申し訳ないがテーブルやソファなどは戦いの邪魔になりそうなので、百足で部屋の隅に放った。3人で部屋の中央に集まる。


 「守屋さん、傷は大丈夫ですか? 出血が酷かったようでしたが?」

 周りだけでなく上にも目を向けて警戒している更紗から言われた。


 「理由があって、基本的に死なないんですよ。多少の傷ならすぐに完治します。…更紗さん、電撃を込めたナイフをいくつか壁に投げつけてください」

 家の中にいる怪異に多少のダメージは与えられるし、ここに呼び寄せることもできる。それを叩き、他の部屋を探して本体を探す……。


 更紗は頷くと、すぐに行動に移った。的確に部屋の四方に1本ずつ、天井に3本の電撃ナイフを突き立てた。

 家からいくつもの血管であろうものが、生々しく千切れる音がする。それに合わせるかのように家中に男の叫び声が響いた。


 「効果はあるようですね。守屋さん、退魔用道具も使いましょう。あの扉を開けて廊下に……!?」

 更紗の声に何かがあったことを理解し、すぐ振り返った。扉が上から垂れてくる赤黒い液体で塞がっていくのが見えた。


 家に閉じ込められる!?

 そうはさせまいと、駆け出し、飛び掛かりながら緑青白百足で連撃を叩きこむ!

 一撃毎に液体を大量に飛び散らせる。が、結局、それを補うように上からまた垂れ流れてくる。

 大穴を開けた仏間もいつの間にか赤黒い壁となり塞がっていた。


 「…祐さん…コマちゃんで吹き飛ばしたら……?」

 確かに、萌香の言う通りコマの突風なら多少は効果があるか? と思っていると上から気配がした。


 「何度も同じ手は飽きちゃうね! って!?」

 子供!? 幼稚園児ぐらいの子供が降ってきた! すぐに思考を戻し、百足でいなした。


 それはそうか、戸建の家なら子供がいてもおかしくないが……。大人よりやりづらい。子供は犬の様に四足でこちらを威嚇している。

 指からだけではなく、口からも赤い牙のようなものが生えているのを見ると、獰猛な獣に見えてしまう。


 「…!? 祐さん、後ろ!」

 更紗の声が聞こえ、すぐに反応した。またかよと思い、後ろを向いたとき背筋が凍った。


 乳幼児がまだ歯が生えきっていないのに、大きく口を開けて赤黒い尖った歯を見せながら、壁から飛び掛かってきていた。

 乳幼児に気を取られた隙をつかれ、首筋に子供が噛みついてきた。

 鋭い痛みが走る、それに合わせるかのように乳幼児が肩に食らいつかれ、更に痛みが重ねられた。


 「痛ってぇっな、クソ!」

 深々と刺さる牙による痛みに、思わず百足で振り払おうとした。


 「守屋さん、待ってください! 子供です!」

 更紗の声のお陰で踏みとどまることができた。暴れる子供達を百足で少しずつ体から引き離す。

 また天井から回収されると厄介なので、ぶら下げたまま中央に戻る。


 「萌香ちゃん、鞄の中に包帯があったでしょ? それを渡して」

 家が相手ならまだしも、住人。それが子供となると、かなり人間の嫌うところを突く怪異だと、腹が立った。


 萌香から貰ったのは、聖職を勤めた人の法衣を解いて作った包帯で怪異を縛るのに効果的である。

 そもそもは呪いが掛かった傷に巻きつけることで、解呪する効果がある。


 ただ、怪異に憑りつかれた人間を浄化するほどのものではない。

 その為か子供2人は血管が張り付いたまま、眠ったようになっている。


 「…祐さん…祝福の手で…何とか……?」

 萌香の言葉に気付かされた。左手に力を込める、柔らかい光が手の隙間から溢れ出てくる。


 「萌香ちゃん、その考えはなかったよ。これでなんとかなるかな」

 子供に当てると、皮膚の上に張り付いていた血管が取れていく。

 怪異本体には届かないが怪異による力は消せたようだ。


 「守屋さん、その体にその手…今は聞きません。できれば後でお教え願えますか?」

 流石に知らない更紗には色々と疑問があるのだろう。あまり広めたくない情報だが、終わったら話そう。それには……。


 「更紗さん、分かりました。それでは交換条件といきましょう。

 全力でエレクトリカル・ウィップをこの部屋に…ここから移動する間中、家に打ち付けて下さい。…いい加減、相馬さんが拗ねそうですからね」

 更紗は少し疑問の残った顔をしたが、頷いた。


 しかし、ここから少し恥ずかしいが仕方がない。相馬から文句言われるだろうが……。

 更紗と萌香の2人を片腕ずつ、お腹周りに手を回す。

 更紗は少し怪訝そうな顔をしたが、萌香は何か分かっているようだ。


 「さて、家中を荒らしましょうか!」


    ・   ・   ・

 

 百足を2本と自分の脚力を合わせて、普通の壁の近くに飛ぶ。

 相馬に役得と言われそうだが、2人の女性を脇に抱えるようにして。


 「今から家の中を手当たり次第にぶち抜きます。更紗さん、よろしく!」

 更紗の返事を聞く前に思い切り壁に向かって飛んだ。更紗は理解したのかムチを床に打ち付けた。


 「本当の家主さんには悪いけどぉぉぉ!」

 緑青白百足が壁を叩き、一撃毎に穴が開いていく。着地した時には別の部屋に繋がる道が出来た。


 先ほどと同じく、跳躍して部屋の中に入り、百足を2本床に突き立てて更紗のエレクトリカル・ウィップが繰り出されるのを待ちつつ、怪異の場所を集中して探す。

 ムチが床や壁を打ち付ける音がした。襲う電撃に家が気持ち悪い悲鳴を上げる。


 だが、ここじゃない。それが分かると百足を収縮させ2階に飛び上がる。

 天井をぶち抜いて、2階に百足で這い上がった。


 更紗も慣れたのか、この部屋でもムチをしならせて天井や壁を攻撃してくれた。しかし、ここでもない……。

 まだここには普通の扉がある。ここから廊下に出て、退魔用道具の聖水噴射筒を放りなげれば、かなりの痛手に。

 そう思っていると、ドアが爆発音とともに弾け飛んだ。


 「あ~、守屋くん。やっとめっけたよぉ」

 意外と元気そうに相馬は言った。


 「あっ! 守屋くん、何なに? なんで、女の子を脇に抱えてる訳? 職権乱用? 更紗ちゃん、なんで大人しく抱えられてんの?」

 それなりに大変だっただろうに、いつもの軽薄な感じで問いかけてきた。さすがは1等術士と言ったところか。

 2人を床に下ろし。状況を説明し合うことにする。


 「相馬さん、4部屋ほど確認しましたが、その部屋や周囲に怪異本体の反応はありませんでした」

 分かっていることを端的に相馬に言う。


 「守屋くん、さっすが~。僕は3部屋探ってみたけど、いないみたい。あと、お父さんとお母さんが襲ってきたけどさぁ。固めといたから」

 あっさりと言いのけるところが、またすごい。固めたということは、土棺で固めたのか。さっき考えた案を相馬に言ってみる。


 「相馬さん、今のところで部屋は全部ですが…とりあえず、聖水噴射筒を投げてみますね。だいぶ怪異も弱ったようですし。これで追い詰められるかも」

 「ええ~、家がびちゃびちゃになっちゃうよ? まあ、てっとり早いよねぇ。ささっと、投げちゃって」

 相馬の言う通りにし、聖水噴射筒を1階に向けて転がす。


 数秒後、破裂音が鼓膜を刺激し、次に水しぶきが2階まで飛んできた。最後に聖水が噴霧された。

 流石に効力はあった。悲鳴というか断末魔の叫びが家中に響き渡った。


 しかし、怪異はまだ健在している。部屋は調べた……。後は天井か。あ、トイレと風呂場もか。

 水回りは以外に霊気が溜まりやすい。ただ、普通の家であれば掃除もしているだろうし可能性は少ないが、調べてみる価値はある。


    ・   ・   ・


 相馬と更紗に1階をもう一度調査してもらい、俺は屋上を調査することにした。


 「萌香ちゃんは周囲の警戒をよろしく。俺は、ちょっと天井に行ってくる」

 萌香に言ってから、百足を使い天井を目指した。家には悪いが、2階の天井に穴を開けて。


 しかし、俺のあては外れたようだ。何も感じない。仕方なく下に戻る。

 「…祐さん…いませんでしたか……?」

 そう言った萌香もおそらく、集中して感じ取っていたのだろう。残念ながら、と言って1階に行くことにした。


 ちょうど階段の下に2人がいたので、報告をする。1階組も何もなかったそうだ。


 「守屋くん、守屋くん。もう、怪異の反応がほとんどないよ? もしかして、追い払っちゃたのかなぁ?」

 確かに相馬の言う通りだ。怪異の発する霊力がほとんど残っていない。

 しかし、出て行くものなのか。一度手に入れた家から……。


 「聖水を浴びれば、怪異は去ることもあります。一時的とはいえ、終わった可能性もありますね」

 更紗が相馬の言葉に同調する。


 しかし、何かが納得できない。

 あれほどの力を持っていたのが、途中から反撃がなくなった。こちらの攻撃が効いて弱ったのか……。


 「…あの…見てない所が1つありました……」

 全員が萌香に視線を向けた。


 「…床下…まだ見てないです……」

 萌香の言葉で合点がいった。


 怪異は横や上からは何がしかの攻撃や邪魔をしてきたが、下からの攻撃はなかった。

 下手をしたら、ラッキーパンチが飛んでくるかもしれないからだ。


 「萌香ちゃん、お手柄だ。あとは床下のどこにいるかを探らないと……」

 「手当たり次第って訳にもいかないからさぁ、地道に霊力を探ってみるぅ?」

 俺の言葉に相馬はどう探すのかを言ってきた。いや、十分鼻の利くやつを持っているじゃないか。


 「相馬さん、とりあえず全員で床下に入り込む必要はないと思いますよ」

 片側だけ口角を上げて、相馬に言った。


    ・   ・   ・


 「群青百足」

 緑青白百足から、群青百足に切り替える。

 これなら俺の手となり霊力を探知できる。とりあえず廊下に穴を開けて、潜り込ませる。


 「守屋くんさぁ、本当にすごいよねぇ。やっぱり来て欲しいよぉ」

 「相馬さん、今集中しているところなので、しばらく静かにお願いします」

 ちょっと拗ねた顔で相馬は、部屋を見て周りに行った。


 どこだ…怪異の後があるはず…禍ツ喰らいが好む怪異の匂いがするはずだ。コンクリートの中? いや…もっと深い場所……?

 「皆さん、移動しましょう。怪異がいると思われる場所がありました」

 そう言い、感じ取った霊力の元に歩みを進めた。


 まさか、最初の地点に戻ることになるとは思ってもいなかった。

 仏間の床下から微弱ながら怪異の霊力を感じた。


 「守屋くんさぁ、ここにボコボコっと穴を開ける訳?」

 「今更でしょう。もう開けちゃいますよ? ここが外れだったら、怪異は去ったものと思うしかないですね」

 相馬の言葉を聞き流すように百足を使い、人が入っても十分なスペースの穴を作った。


 「何もない…そんなはずは……?」

 思わず、気弱な言葉を口走ってしまった。


 「ん~、ないように見えるけどぉ。仕方がない…更紗ちゃん、ここら辺に撃ちこんじゃって」

 相馬が言うと、更紗が女性には不釣り合いな大きな拳銃を取り出した。


 「一応、皆さんは耳を塞いでくださいね。かなりうるさいですから」

 全員が更紗の指示に従った。


 更紗が引き金に指を掛ける…耳を塞いでるのに、サンドバックを思いっ切り蹴っ飛ばしたような音が数回した。

 終わったようだと、耳を塞いだ指を抜いたとき、開いた穴から紫色の煙が噴き出してきた。


 「何なに、これは。臭いし、気持ち悪い色してるし…あ、気持ち悪くなってきた」

 相馬が鼻を押さえながら言った。俺も気持ち悪くなってきたが、相馬も気持ち悪そうだ。もちろん女性陣もそうだ。避難するように伝えねば。


 「これは瘴気です。おそらく、この中に怪異が潜んで…うぇっ、瘴気は毒も与えるので、皆さんは早く外に!」

 「…祐さん…コマちゃん…使います…だから、その間に……」

 萌香の考えが分かった。コマの突風を床下の穴に向けて放てば、少しは時間稼ぎになる。萌香の目を見て大きく頷く。

 その頷きを見て萌香は素早くコマを呼び出した。遠吠えからの突風が瘴気を散らせてくれる。少し楽になったが、あまり長くは持たない。


 「萌香ちゃん、とりあえずそのままにしておいて。後は俺の百足で、」

 「ちょっと待ってねぇ。皆に良いとこばっかり見せられちゃあ、おじさんも少しは頑張んないとね」

 そう言って相馬は、数枚の呪符を取り出した。


 トランプのカードのように呪符を広げて霊力を込めると、呪符が光を帯びた。その呪符を下に散らばる様に落としていく。

 落ちた呪符は下が尖るように螺旋を描き、最後の1枚の呪符を勢いよく投げナイフのように螺旋の中央を貫いた。

 放たれた呪符は螺旋を描いている呪符から風の力を貰い、大型のドリルの様になってコンクリートを粉砕し、大きな穴を開けた。


 「すごいです。流石は相馬さんですね。これなら瘴気も抑えられる」

 「いや~、守屋くん。最後の仕上げといくよぉ。臭いものには、お札をってことで。じゃあねぇ~」

 相馬は1枚の呪符を指から放すと、滑らかに穴の中に吸い込まれていった。

 その呪符がまだ瘴気を放っているであろう、空間で眩い光を放つと光の中に瘴気が吸い込まれていく。


 光に照らされて、怪異が見えた。球体から無数の血管を壁に貼り付けていた。

 その怪異を百足で素早く捕食し、処分が完了した。


    ・   ・   ・


翌日

 前日の事件があって今日来るとは。人手不足とは思えない。


 「いやぁ~、守屋くん。助かったよぉ。もう、ホント何度死にかけたことか。これで守屋くんも協会の一員だねぇ」

 「しれっと人を魔法協会に入れないでください。ていうか、相馬さん1人でなんとかなったんじゃないんですか?」

 こちらは3人で動いて苦戦していたのに、相馬は1人で行動していた。1人でなんとかなる相手ではないとしか思えないが……。


 「まぁ、色々とねぇ。戦い方はあるんだけど、更紗ちゃんを盾にするのも可哀想じゃない? 守屋くんなら、何とかしてくれると思ってさぁ」

 へらへらと笑いながら相馬は言った。そりゃあ、何とかなったが。

 ただ、更紗は中距離からの援護のはずだ。俺と動いた時もその距離で戦おうとしていた。


 「まあ、聞かないでおきます。こちらも話してないこともありますから、フェアじゃないし。で、結局、あの穴は何だったんですか?」

 大方の予想はついていたが、一応確認してみる。


 「あれねぇ、ちょっと調べたら、古い井戸だったみたい。

 しかも、水の流れが変わったのか水が腐っちゃっててね。それが瘴気の原因だったみたいだねぇ」

 「ということは、ちゃんとお浄めもせずに適当に埋めてしまって、そこに怪異が入り込み、発生していた瘴気と意気投合したってことですか」

 井戸には水の神である龍神が住むとも言われているが、井戸を使用しなくなる時はちゃんとお浄めをした方が良い。下手をしたら、祟り神や瘴気の発生源になりかねない。


 「流石、ご推察の通りで。まあ、霊能力者が刺激したことで、瘴気と怪異が一緒に怒ったのかもねぇ。あそこまでは普通はならないよぉ」

 瘴気は人に害をなす悪い空気であり、怪異にとっては良い空間であったろう。そこに一緒にいたら、結びつくことも想像するに難くはない。


 「んでさぁ、守屋くん……」

 「入りませんよ」

 相馬は頭をガクッと落とした。何度、勧誘してもダメなものはダメなのだ。


 「分かったよぉ。じゃあ、今回は帰るね。次に来るまでに覚悟を決めといてね。あ、ホントにありがとね。んじゃ」

 相馬は立ちあがって別れの挨拶をすると、事務所を出ようとした。


 「あれ、更紗ちゃんも帰らないの? まさか、探偵事務所に移籍とかぁ!?」

 「違います。守屋さんにちゃんとお礼を言って帰ります。下の喫茶店でお茶でも飲んでいてください」

 相馬は不思議そうな顔をしながら事務所を出て行った。


 更紗の言葉はおそらく、あのことの確認の為の方便だろう。

 「守屋さん、ありがとうございました。相馬さんと私、共に怪我もなく解決することができました……。

 そこで質問なのですが……。あなたの体と手から出た光、あれは……?」

 質問を投げかけてきた更紗になんと返したものか。

 幸も萌香も俺を見ている。しかし、拒否という感じはしない。


 言っても構わないが、下手に魔法協会に情報も流すのも……。

 しかし、更紗は口は堅いだろう。何かしらの時に手伝ってもらえるかもしれない。


 「長くなるから省きますが、体は悪いヤツから押し付けられた不死の体です。呪い付きですが。

 そして手は天から、その呪いに対抗する為に与えられたものです。簡単に言うと、こんなところになります」

 それを聞き、神妙そうな面持ちをしながらも更紗は口を開いた。


 「人智を超えた力…この世のものではない力をお持ちということですね……。ありがとうございます。濁すこともできたのに教えて下さって」

 「いえ、まあ、言い触らさないでいただければ良いです。そういうものもあるということです」

 俺の言葉に更紗は頷くと、一礼して事務所から去って行った。


 「祐さん、これで魔法協会に貸しができましたね。良ければ、書庫を解放していただく交渉を」

 「しない」

 「…祐さん…銃を撃たせ」

 「ない」

 2人共しょげた顔をした。幸は分かるが、萌香のその関心は何なんだろうか……。


 しかし、怪異が家を乗っ取る……。恐ろしい話だ。

 家は家族のもので、家族が帰る場所だ。それを怪異が勝手に奪う。


 そんな不条理なことがあるのかと思うと怒りを禁じえない。

 よく考えると、我が家も怪異だらけだったことに気付いた。奪われないことを祈ろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ