プロローグ「エレンがヘンだよ!事件だよ!」
まきと申します。誤字脱字、見つけ次第訂正しますが、教えてくださると幸いです。
頭が重い。目が覚めると、カチャカチャと食器を洗う音がする。母さんか。俺はそう思ってベッドからおりた。
「母さん、おはよー」
未だぼんやりする頭。昨日はなにしてたんだっけなと思いつつ、ぺたぺたと歩く。そして違和感。なんか違う。こんな家の間取りしていたっけか。しかし、俺の身体は迷いなく扉の前に移動し、あけた。
「エレン、何寝ぼけているのさ?サクヤが寝ているのに気をつかって行っちゃったぞ!」
そこでようやく覚醒した。おかしい。俺をエレンと呼んだ少女。桃色の肩までの髪に同色のぱっちりとした気の強そうな瞳に、ぷっくりとした唇。料理を作る後ろ姿も俺は毎日のように見てきたから知っている。彼女は、
「アヤ...?」
「なぁに、エレン。」
アヤ。ここにいるわけがない存在。だって彼女は、アニメの中の存在だから。
『遥か遠くの日常にて』というマイナーアニメがあった。それは一部のアニメオタクに好まれ祭り上げられる作品。異世界に行ってしまった主人公が可愛いヒロインと一緒に日常をこなしつつ街の平和を守るというだけのストーリー。主人公は可愛い女の子に囲まれ、害を及ぼそうとする魔王を倒してハッピーエンド。シンプルなテンプレート。異世界が世界観なわりに魔王が「リア充爆発しろっ!」が口癖の不細工男といえば伝わるかもしれないが、凄く、滅茶苦茶。しかし、人気のポイントは「可愛いヒロイン」というキャッチフレーズを自称することを納得させるキャラクターデザイン。そのためアニメオタクたちは、「○○は俺の嫁!サクヤには渡さん!」といい主人公のサクヤを目の敵にする。そんな作品だった。
そしてこの俺も、サクヤになりたいと願う熱い男の一人。しかし、状況は少し違う。
「........エレン、になったのか。」
よく見れば、周りの風景もアニメの中そのまま。記憶に従い大きな鏡のある洗面所へ向かった。
たどり着いてみてみれば、まさしくそのとおり。猫耳のようにはねた銀髪はお尻まであり、異国ちっくな碧い瞳に銀のまつ毛も。小さい身長も。全てが、エレンだった。
鏡の中に映る美少女の頬をつねる。柔らかい感触。むにむにフェイスは健在。感触に一瞬癒やされるものの、そうじゃないと頭を振った。
「エレンー、どうしたの?さっきからヘン!」
後ろから声が聞こえる。アヤが心配して見に来たようだ。
「あはは、なんでもない。それよりおなか空いちゃったよー...」
自然と出てくる口調。エレン親衛隊の俺には簡単なこと。どうやら俺は、夢を見ているらしい。この鈍い頭の痛みはよくわからないが、きっとそうだろう。アヤは、心配そうに覗きこんでくるが、すぐに微笑んで、とてとてと移動し、お皿に料理を盛りつけてくれた。
イメージとすれば、サクヤと他のメンバーはいつものようにギルドで依頼を受けているが、寝過ごしたエレンとお手伝い役のアヤのみが住居で過ごしている、ということらしい。
美味しそうなパンに温かいスープにサラダ。アニメで見たとおりおいしそいな料理。夢だから無理かと思ったが、食べてみると本当に美味しい。
「美味しいよっ、アヤ!」
「うんうん、良かったよ。」
せっかくだから、目が覚めるまでリアルっぽいこの世界観を味わうかと思いながら、パンを一口頬張った。