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一撃

サラッと二話目です

入学式に遅刻は当たり前の光景。喧嘩にこそ発展しなかったものの、すでにそこかしこで火花が飛び散っている。

荒れるなー。夏織と京はため息をつく。京は火の粉が自分に飛び散らぬように静かにしている。何人もの雑魚達とやり合う気はさらさらなかった。適当に頭張るような人物が数人出て来たところで全員潰して頭の座を掠め取ろうという算段である。

夏織は夏織で火花が飛び散るくらいでは何も言わない。如何に真面目な生徒であっても少しくらいお喋りをするものだ。夏織も京と同じように、ある程度各クラスのトップ争いがクライマックスに向かってから一気にトップを潰していく算段であった。

その間、二人は二人で行動する。了承など得ていない。お互いの中でお互いを利用してやろうという算段だ。夏織は必ず京が京のいるクラスで頭を張る事を理解している。それは、京が果てしなく強いからだ。そして、京もまた、夏織がそう思っている事を見透かしている。

お互いの腹の内を知りながら、お互いに利用し合う。

「……気が合うよなー、俺等ァよ?」

「……本当に。あなたも、解っててやってるものね」

「……オメェもな?」

「フフフ」

「ハハハ」

二人は知らないが、二人もまた、端から見れば立派過ぎる火花を散らしている。

剣呑とした入学式を終えて、二人は先ず女子トイレに籠った。端は頭を気取った誰かとかち合う恐れがあるために真ん中だ。二人して個室の蓋を下ろしてスマートフォンを取り出し、タイマーをかける。そのまま、お互いに無言。

何人かの話し声が入れ替わり、立ち替わり聞こえる。そして、二人は教室集合五分前きっかりに立ち上がり、同時に個室を出る。

「もー、戦場と化してんだろーな」

「きっとそうね。少なくとも、数人は喧嘩してるでしょうね」

「止めねェんかよ?」

「あら、解りきってるクセに」

「ハハハ、面白い事言いやがる」

「フフフ、あなたもね」

バチッ、と火花を散らして二人は教室のドアを開ける。

喧嘩は、行われた痕跡があるが、ちょうど終わっているようだった。独り、ふんぞり反った男子。

「……陸北で頭張ってた近藤猛って奴だな。全員アイツに従う方向みたいだな」

「みたいね」

顔にトライバルのタトゥーを入れたスキンヘッドの男だ。耳だけでなく、鼻や唇、瞼にまでピアスがついている。

京は何気ない顔で窓際の後の席につく。夏織もそのすぐ前だ。

窓際最後尾の席。言わずもがな、誰しもが一番楽そうと思う座席で、恐らく近藤も座ろうと思っていた席だろう。

教室の空気が一気に静まり返る。やはり、近藤が狙っていた席だったのだろう。

「おい」

「……ファ、寝み」

京はその席に足を置いて、足を組む。夏織は見て見ぬふりだ。本当はその足を払いたくてしょうがないのだが、京の挑発を邪魔して、近藤派に成り下がるのは御免だった。

京は近藤を完全に無視して、スマートフォンを取り出して画面を弄り始める。

近藤の額に青筋が浮かぶ。

馬鹿め、京も夏織もそう近藤を評価する。夏織はブレザーの下に仕込んだスタンガンをトントンと叩いて自らを落ち着ける。機は京が勝った後。スタンガンで意識を奪う。

今まで互角程度にはやりあえた。だから、今度も負ける事はないだろう、と。スタンガンを抜くタイミングを見計る。

まるで無視された近藤は額に青筋を浮かべて、京の胸ぐらを掴む。伸長180センチを優に越える近藤に半ば吊るされる形になり、京は地面に足がついていない。

「んだよ、この手はよ?喧嘩売ってんかい?」

「そりゃテメーだろ、人様の事無視しやがって」

「人様?俺ァ教室に入ってから誰にも声かけられてねェぜ?せめて、脳ミソまで筋肉で出来てるトロルの声聞いたくらいでよ」

「ん、だ、と……?」

近藤が京を掴む逆の拳を振り上げる。

「上等だ、テメっ!」

ゴッ!と鈍い音。近藤の胸ぐらを掴んだ京の頭突きが近藤の鼻にめり込む。近藤の目が僅か一撃で揺れる。

「ラァッ!」

着地と同時に右フック。近藤の巨体が宙に浮く。そのまま拳を押し付けるように振り抜き、窓についてるアルミの手摺に、近藤の頭を叩きつける。

僅か一瞬の出来事。夏織もスタンガンを抜くのを忘れて、茫然としている。

近藤は舎弟も多い。中学時代に負かせた不良も多くいる。肉体に恵まれ、喧嘩のテクニックも持ち合わせ、僅かな時間で不良がひしめき合うこのクラスの頂点に登った程の実力者。

その近藤が僅か二発。

血を流し、物言わぬ巨体。見ていた全員が戦くには充分な惨状だった。

「近藤、くん?」

舎弟の独りだろう。幽霊でも見たような顔で、フラフラと近藤に近寄る。だが、近藤から返答はない。

完全に、失神していた。

強く、なってる……っ!スタンガンを抜くタイミングを逃した夏織もまた、京の破壊力に戦く。

中学時代とは桁違いの破壊力、そしてスピード。一体春休みの間に何をすればここまで急激な成長が出来るのか、と夏織は勉強に時間を割きすぎたと悔やむ。

これでは、みすみす京を無力化等出来っこない。

「どーしたよ、夏織ィ?」

嫌味ったらしく、京がタバコに火をつける。

「スタンガンだか警棒だか、抜くタイミング逃してねェかァ?」

「……クッ!?」

夏織の顔に屈辱の色が広がる。

不敵な笑みを京だけが浮かべていた。


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