1-6
目が覚めると、まあよくあることだが、保健室の少し固いベットの上だった。
横には相澤が寝ている。
同じベットで。
まさか、私は家名に傷をつけるような行為をしたのであろうか。
いや、確かに人肌に触れたいとは常日頃から頭の中心で思っていたが、あまりの切なさに男と、しかもこんな白玉団子のようなやつと、、、
まさか。
私は覚えている限りの記憶をたどる。
はて、「天罰、天罰!」と叫びながら白玉団子を聖書で殴っていた私の姿が思い起こされたが、私は人畜無害な好青年である。
聖書で人を殴るなど、神様や人様を侮辱するような行為を犯すはずがない。
いや、しかしまて。
白玉団子ならなんの問題があろうか。
ないはずである。
諸君、異論はあるまいな?
あっても口を閉じておくことを善良な私がお奨めする。
言わぬが花である。
私がヘンテコな理屈をこねくりまわしてると、焦燥しきった感の我が部のメンバーが目を覚ました私に気付いたようだ。
「宇田、負けたよ、、、」
「え、エr、、、ぶ、部長?」
あんなに自信満々で挑んで、負けるとは、、、。
私が神妙な顔で皆の顔を見回すと、はしっこにいる松村が阿呆だった。
いや、阿呆どころか変態である。ドがつく勢いの変態である。
なぜ、彼が女子の制服を着ているのか。
しかも、なかなかに着こなすとは何事か。
「松村は、ちょっと、な、、、」
私が虫けらについたゴミを見るような目で松村を見ていると、エロースが訳を話してくれた。
かいつまんで話すと、、、
え、いや、エロースの諸葛亮ばりの知略や、藤野のアレクサンドロス並みの健闘とか聞きたくもないであろう。
私も思い出したくもない。
私が白玉団子とじゃれあっている間、逃げ出した戦友どもは一階の渡り廊下の一番はしの人目につかないところで、女子の制服に着替えてたそうである。
阿呆である。どうして私も誘ってくれなかったのか。
とにかく、彼らが男ならば誰でも胸を踊らす行為中に、たまたまトイレのために会議から抜け出してきた生徒指導部の武中先生と鉢合わせ。
この先生は生徒から「ゴブリン」との愛嬌ある渾名で恐れ、馬鹿にされているやつで、いわゆる筋肉馬鹿である。
エロースらはこの世のものとは思えないような力で面談室に引きずり込まれた。
その後、説教を経て今に至る。
さて、肝心の松村である。
彼は大将で、生徒会室からは出ていないはずであるが、如何。
これまたエロースの話であるが、我が馬鹿友達の没収された女子の制服が生徒会室に一時置かれたらしい。
そして、松村は卑猥である。とにかく卑猥なのである。
ご想像の通り、彼は不相応にもその制服に手を伸ばしたのである。
彼が純粋乙女の正装に身を包み、恍惚の表情を浮かべていると、廊下から慌ただしい足音が聞こえた。
こりゃまずい。
彼は急いで窓から中庭の並木の中に隠れた。
言い忘れていたが、生徒会室は一階にある。
その時、彼は己の間違いに気付いた。
自分の制服と、なにより、大将のコインを机上に置き忘れたのである。
しかし、喉が渇いたと呟きながら入ってきた遠藤の前に出ていくことは叶わず、制服と、そのとなりにあるコインを不思議に思った遠藤によって我が部の敗北は決定した。
しかし、松村が我が仲間であることはばれておらず、制服は没収された女子の制服に混じっていたといって難を逃れた。
それでも、松村は己の自尊心や羞恥心故にコインを守ることができなかった。
コイン片手に喜ぶ遠藤を襲えばよかったのだ。
彼の行為は万死に値する。
が、
寝起きでも私の頭は冴えていたようだ。
「まあ、部長、私に妙案がございます。」
そう言って、私はエロースと松村を近くに寄らせた。
一週間後、我が高校に新たな部活が誕生した。
その名も
「第二文化部部長連合」
であった。
ちなみに、私が白玉団子と寝ていたのは阿呆どもの仕業であった。