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初めに御詫びを。最近忙しく、手が回らない状況でしたので投稿が止まっていました。これからはまめに更新していくので、これからも相も変わらずお付き合い下さい。
さて、逃げた我々は校門の前で猥談に耽っている。バラバラにならず、固まっていた方が善いという判断である。しかし、幸福はいつまでも続かない。アダムとイブが楽園を失うのは世界の理。我々の目の前に、果実を差し出す蛇のごとき様で白い固まりが突っ込んできた。
よく見なければ、白玉。
よく見れば、野球部主将の相澤である。
動く度に身体から粉が飛ぶ。
血走った目から、彼が憤怒していることは疑いようもなく、我々は驚愕の雄叫びを挙げてちりじりに逃げ去った。
しかし、嗚呼なんということだろう。彼は私の目の前に立ち塞がり、私は逃げることがかなわなかった。
彼は私と因縁がありそうだが、私はこんな脳筋とは関わったこともなければ、関わりたくもない。
だが、彼の方はそうもいかないようである。
「お前、早見中の宇田か?」
いかにも、私は早見中学校を卒業した宇田である。あの頃の私は純粋無垢な少年で、根性もひねくれてはいなかった。
私は何でも人並みに出来た。
スポーツから、絵描き、勉強まで。
まあ、部活動に励んでいたことは今も変わらない。
私は野球部のエースだった。
今でも、一番のゼッケンを縫い付けたユニフォームを身にまとい、グランドの中心、小さな小さな盛上りに立つ、あの高揚感は忘れられない。
しかし、世の中そう上手くはいかない。
中学校三年の夏が終わり、高校に向けて新たなスタートをきろうとするまさにその時に私は肩をつぶしたのである。
当時はボールも投げれず、私は私の中の善の意識をぼこぼこに殴り付け、痛め付けることで私を締め付けるストレスを発散していた。
その結果が、これである。
かつて、「早見中に宇田あり」と謳われた私は惰弱に陥った。
しかし、私は相澤とは何の接点もないはずである。なぜ、彼が私を目の敵にするのか分からないが、まあ、昔野球部にかけたちょっかいへの報復であろう。
「うぉおおお!」
獣のごとき叫びを挙げて、彼が突っ込む。最近雄叫びばかり聞いている気がする。
私は間一髪で体を捻り、脇に転がる。
素手では無理だ。
そう判断した私は聖書を取り出す。
「アーメン」
兄が面白半分で買った聖書がようやく役に立つときがきた。
相澤は顔をしかめたものの、再度タックルをするモーションに入っている。
私も粉骨砕身の思いで聖書を構える。
主よ、どうか粉骨などしませんように、アーメン。
そして、二人の漢が激突した。