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1-2

 さて、彼女が突き出した紙には人語が記されている。まさか、人語を理解できるとはこの女侮ってはいられない。うちの前嶋部長が紙を受け取り、しばしの思考を経て、ニヤリと笑う。

この前嶋部長、外見は素晴らしく、整った顔、マッチョではないが引き締まった肉体は彼の十八番である。しかし、油断してはならない。この男、四六時中卑猥な妄想に脳細胞を疲れさせている紳士である。それ故、つけられたあだ名はエロース。神の名を冠した。その名の通り、彼はエントロピーの増大に従うように体から卑猥なアウラを放出している。遠くからみると俳優並みにいけてる面、近づくと落胆を通り越して絶望するという経験を無理強いされた女の子は数知れず。泣かした女性は星の数。我らの愛するナイスガイである。

さて、エロースの話はここまでにしておこう。


回ってきた紙には、予算分配の停止、受け入れなければ即廃部、といった旨が書かれている。その紙を破いて、エロースが卑猥な笑みを浮かべて、

「そう上手くいくと思うなよ、ウサギちゃん。」

なんとも気持ちの悪い台詞である。しかし、彼女は怒り心頭の様子。話なんぞ聞いてもらえない。

「明日までに結論出して生徒会長に話をつけるんで、まあ、帰ってくれ。」

そう言って彼女をドアの外に押し返した。あら、お胸に手が当たってましてよ部長。内側から鍵を掛ける。ドアの前で彼女がスペアの鍵を取り出す音がする。しかし、ドアは開かない。我が部員には鍵屋の息子の藤野がいるので、鍵穴を取り替えるのは造作もないことだ。外から何やら悲痛な声がするが、エロースは笑いながら、よしいけ、という。その声に応じて中にいた私を含む二年生の五人がドアの前に正座。歌うのはドヴォルザーク交響曲第九新世界より第二楽章ラルゴ、つまり家路である。小学校で下校の曲として有名なこの曲、一言で言うと帰れ、である。 風は涼し この夕べ いざや楽し まどいせん 外から音がしなくなっても構わず歌い続ける。

遠き山に日が落ち、星が空を散りばめんとするとき、ちょうど男たちの熱唱は終わり、校内に静けさが戻る。下校である。エロースは生徒会長松村にメールをいれ、私を従えて駅前の喫茶店に入る。ほどなくして、やや疲れのみえる松村が入店。お疲れ様です。 

「今日もまたやってくれたな。遠野がぐちぐちうるさくて仕事もできなかったよ。」 

「まあまあ生徒会長どの。今から明日の話をしたいんだが、明日俺達が生徒会室に行くのは知ってるか?」

「ええ、知ってますよ部長。遠野がいってました。」

「そこでだ。もちろん、お前は廃部を止めさせることになるのだが、ただ取り消すのでは面白くない。我らは華の高校生である。楽しもうぞ。」

エロースの意図が読めたのか、松村はニヤリと笑う。

「なるほど。して、お代官様、私めになにをしろと仰るのです?」

「簡単だ。我々の廃部を賭けたゲームを提案するのだ。部員全員を参加させるから、生徒会側の助っ人をありにしよう。」

「了解であります。」

私はエロースの脳みそが卑猥だけではないことを知る。流石は我が部長。その自信はどこからくるのか甚だ疑問である。

「ては、明日の午後四時半にそちらに行こう。では、諸君ごきげんよう。」

エロースは帰っていった。ごきげんに最近のアニメの主題歌を歌いながら。 



見事、エロースの計画は成功し、一週間後にゲームが行われることとなった。ルール決定のときは遠野がうるさくてどうしようもなかったが、ルールも明文化され、人数分印刷された。一チーム十二人である。相手の大将の首から下げたコインを奪い取ることで勝敗が決まる。尚、両チームの大将の名は伏せられている。こちらの大将はもちろん松村である。まさか自分達の総締めが敵だなんて思わないだろう。生徒会側は助っ人を九人要請可能。当日まで細工は不可だが、校則の枠内で道具を準備しても良い。

そして開催五日前、我が部の作戦会議が行われた。初耳であろうが、我が部の名前は文化系部部長連合、略して部連である。正式な部員は二十二名いるのだが、顔を出すのは十二人たけである。いずれも一筋縄ではいかない者ばかりである。


各人の指示が終わり、リハーサルの日時を決めて、その日は解散であった。


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