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生徒会というものをご存知であろうか。知らない人はいないと聞くが、敢えて説明しよう。
生徒会とは遍く中高学校の生徒の頂点に君臨し、校舎の一教室を占領している不行き届き者達の集まりである。まだ目の覚めきっていない生徒のケツをひっぱたき、どうでもよい朝の集いで足が棒になるまで我々を立たせる悪魔である。そして、最も悪名高き所業は部活予算の、独占的横暴的決定である。人数を苦労して揃え、はれて公認となった部活はだいたいここで虫の息の根を止められるのである。この経済的暴行に涙した生徒は数知れない。
しかし、誤解してはならない。生徒会役員の最大の戦犯は決して会長ではないのである。よそでは生徒会顧問のお偉い先生様のかちこちな頭、並びに生徒会長の曲がりくねった性格によって生徒が生き地獄を味わっているらしいが、うちの生徒会長はこちら側の人間である。所謂、女の子と目があっちゃったよキヤッ!な感じの純粋無垢な少年である。
彼の名は松村誠太郎、私の五本の指に入る友人である。まあ、私の友人は片手でも十分に数え切れるのだが。彼は高校一年のとき、私がしでかした馬鹿を讃え、それ以来よく連むようになった。彼はとても器用な男で、成績も常に上位に入っていたし運動神経も常人と比べると遥かに勝っている。そんな彼が生徒会長になったとしても不思議ではないが、ここに彼の類希な悪事の才の片鱗を見ることができるだろう。彼は自分の部活、つまりは私の所属するある部活のことであるが、そこで去年の冬に持ち上がった、目指せ部費三倍運動という秘密活動の首謀者である。もうお分かりになったであろうが、彼は生徒会長になって部費を調達しようとしたのだ。その行動力たるやよし。我が部の誇りである。しかし、その計画に横槍を入れているのが、会計の遠藤である。
この女、才色兼備という言葉が人になったような存在である。生徒や教師だけでなく、保護者まで彼女を絶賛している。しかし、私は知っている。彼女のあの薄っぺらい笑顔の裏には閻魔と大魔王を足して累乗したような残虐な魔物が蠢いているのだ。我が部の存続を妨げるような女だ、ろくな人間ではないだろう。その彼女が先日、我が部にある紙を突き出した。