海老グラタンの作法
上手くいきすぎている。そう思った。
占いの順位は下降するばかりで。
三回目のデートは夜景の見えるレストラン。設定はマニュアル本そのままって感じだけど、分かりやすい分、期待してしまう。
彼は、そんなに器用じゃないし、中途半端な付き合いはしないと思う。
私は、どう思ってるんだろうか。期待している。嫌いじゃない。でも結婚となると仕事は?家庭に入るって事?それだけじゃない、私は彼で良いのか?
ある意味、自由に生きてきた。好きなことは好きにやってきた。それを手放して、得る物って何だろ?
まだ、結婚って決まった訳じゃないけど、私達は上手くいく気がする。彼は私をふる理由なんてないし、私も彼をふる理由なんて今の所、思い付きもしないんだ。
そうやってダラダラしている内に、どちらからともなく
「結婚しよっか」
って言い始める。
悪くない。悪くないんだけど、それで良いのか?
私の生きてきた、下らなくも、なんだか愛しい私の人生が、そんな順調にいっていいの?
「何見てんの?」
「あぁ、コレさ有名なシェフがやってるっていうレストラン」
「ふーん、高いんじゃないの?」
「大丈夫。心配しなくていいから」
育ちの良さからくる余裕。それでいて嫌じゃない感じ。私はこの男を気に入っている。
「テーブルマナーとか私、苦手なんだよね」
「じゃあ、練習しとく?」
「そうだね、教えてよ」
「じゃあ、あそこなんてどう?」
「えっファミレス?ふふっ、いいねぇ行ってみよっか?」
私達は、ファミレスに入った。なんだかゴチャゴチャして騒がしく、意味もなく笑いたくなった。
「俺達、こういう風にメシ食った事なかったよね」
「そういえば、そうだね」
「将来、子供とかできてファミレスに来たら、昔こういう所でマナーの練習したんだ、って言うのかな」
悪くない。むしろ、そういう想像は嫌いじゃなかった。子供とか、そういうのを重いと感じないでいられるのは素敵かもしれない。
「俺、和風ハンバーグ」
「私は、海老グラタンとサラダ」
料理が来るのを待っている間に、私達は少しだけ将来の事を話した。
結婚しても仕事を続けたい事、でも子供ができたら止めてもいいと思ってる事、家を買うためにお金を貯める事。
不明確で、何一つ順調じゃない未来もあるかもしれない。
「なんか、本番のデート忘れてない?」
「俺なんか、まだ告白すらしてないし」
「例えばの話。もしかしたら、この先にあるかもしれない話」
「もしも、明日で地球がおしまいになるとしたら?」
「私は、全財産で服を買う」
「好きな人と一緒に過ごす」
「じゃあ、荷物持ち決定ね、もしも、私を好きな人がもう一人現れたら?」
意地悪しすぎたかな。私は少し後悔した。けれど、
「俺の方が好きだって言って決闘を申し込む」
「決闘っ?」
それでも彼は真剣だった。
「そして勝つ」
絶妙なタイミングで、和風ハンバーグが運ばれてくる。
私は何も言わなかったけれど、彼は和風ハンバーグをナイフで切り分けた。
「なぁ、海老グラタンの食い方って知ってる?」
「え?知らないよ」
「俺も」
私達は、仮定する。未来にもし不安で辛いでき事があったなら、それでも今日の事を後悔せずにいられるだろうか。
きっと後悔すると思う、なんであの時、こういう選択をしたんだろう。そう思うだろう。
けれど、私はもう迷わなかった、そんな選択をするのは、初めてでもなかったし、ましてや最後でもないだろう。