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(連載)乙女だけどBLゲームの世界に転生した。  作者: トイレの芳香剤は、金木犀の香りに限る。
高宮まどかの場合。
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5 人生初コイバナでアッー!

 そうこうする内に中間テストである。時間の流れは早いものだ。


 マドカはこう見えて、成績優秀である。国語、数学、理科(物理、化学、生物、地学)、社会(日本史、世界史、地理、政治経済、倫理)、死角はない。クルマも運転できるし、内閣総理大臣を人知れず心臓発作で葬り去ることも、数学教師のプライベート・ライフを盗撮することも可能だ。ーーしないが。


「シロは、数学と理科がトクイなんだな」

「……。」


 フッ、と、ミョーな……、人生を達観した笑み?を浮かべるシロ。

「人の考えが読めるってことはね、テスト中もなんだ」

「カンニングだっ!?」


 フ、と再び笑うシロ。

「この能力のせいで毎夜眠れないんだから、そのくらいの恩恵は、あってもいいんじゃない?」

「……む。」


(わたしが、手を握っててやろうか? と訊いたら『息子を?』とか言うし……。最近のシロはえっちだ。)


 クスクスとシロは笑う。

「ゴメンゴメン。マドカちゃんに握っててもらったら、楽になるかと思ってさ」

「……ばっ、ばかもの!! 変態っ!!」


 それを、つまらなそうに眺める葉山。

「……なぁ、お前らって、付き合ってたり、する?」

「ば、ばばばばっ、ば」

「『馬鹿を言うな』って言いたいんだね? マドカちゃん」

 コクコクと頷くマドカ。


「じゃあ、シロ。おれと付き合わねぇ?」

 亜光速で、首をぶんぶんと左右に振るシロ。


「……好きな人がいるから。」

 そして、マドカを見てニコリと笑う。

「?」

 微笑み返すマドカ。ダメだ。通じてない。この回線は現在、使われていない、らしい。


 はーぁあ、とため息をはく、葉山。

「最近さ、センパイが冷たいんだ。前はあんなに優しくしてくれたのに、今日は、朝練で会っても、目も合わせてくれない。ーー嫌われてると、思う?」

 ビミョーな表情をするシロ。苦虫が口腔内に侵入してきた。そんな顔だ。


(コレがコイバナというやつかッ!! 感激だ!)

 感涙にむせぶ暗殺者、高宮マドカ。


「……やっぱり、コンドームしてくれとか言ったのがマズかったのかな? だけどさ、コンドームって常識だろ? コンビニでも売ってるし」

「男が男の穴にコンドームで侵入するのかっ!?」

「?」


 不思議そうな表情をみせる葉山。


「そ、そそそっ、ああ、そっか、エイズだな! 薬剤訴訟だ! 性病は、体液の接触で感染するからなっ!! 直腸ガンにでもなったら一大事だっ!!」


 祝。人生初コイバナ。良かったね、マドカちゃん。シロは、生暖かい笑みを浮かべて祝福した。


   ◆◆◆


 ーーさて。夏休みである。夏休みまで、あと三日ーー。

 教室で、売店のトマト・サンドイッチを頬張りながら、マドカはぼうっと窓のほうを見ていた。校庭の縁に植えられたポプラの緑がすがすがしい。空はどこまでも青く、照りつける日差しは7月のそれだ。レタスがちょっとしなっとしてる。チーズの味はなかなかだ。はむはむ。


 ともかくもーーああ、夏。恋の季節。マドカは、期待に胸を躍らせる。

 夏のバイト。夏祭り。海。プール。出会いがたくさんだ・・・!

 学校は山奥にあり全寮制とはいえ、夏は、たいていの生徒が実家へと戻る。


 マドカに、実家はない。中学までは伯父の家にやっかいになっていたのだが、その大邸宅は、庭に装甲車があったりするようなお家なのである。家の建物そのものは、伯父の趣味(?)ゆえか、いや、伯母だ。伯父の妻である、若妻、マリ子さんが、結婚したら赤い屋根の可愛いお家に住み、白い大きな犬を飼うのが夢だったらしく、庭を警備するジャーマン・シェパードはペンキで白く塗られた。防弾ガラスと鉄格子のはまった要塞は、赤い屋根瓦をのせた。--完璧だ。これが妻の求める『新婚さんの暮らすかわいいお家』だ。マドカの伯父は満足だった。新妻は・・・ちょっと、まあ、でも、いいかも、と日が経つにつれ、納得しはじめていた。

 そんなお家である。


 マリ子さんはちょっと料理がニガテだ。

 だけど、お手伝いさんがいる。

 ーーお手伝いさんの、いつもニコニコとした様子を思い出し、ひとり和むマドカ。


 彼女の料理は、美味い。お袋の味だ。

(じゃがいもの煮転がし。サトイモの煮付け。大学芋。--ああ、食べたくなってきた)


 じゅるり、と、サンドイッチを食べたばかりなのに、口元にヨダレが。

 ーーその様子をつまらなさそうに眺めていた前の席のシロこと白野陣だが、ふいに目を輝かせ、マドカに、ポッキーを差し出す。


「・・・む?」

「ボクも料理がトクイなんだけどな。ね、マドカちゃん。このポッキー、食べてみて」


「・・・?」

 シロの差し出すポッキーにそのまま食らいつき、彼の手に持たせたままかじっていくマドカ。--花の乙女がなんて食べ方をするのだ。


「・・・サトイモ味だ」

 食べ終えたマドカは、口元に手をやりながら、驚愕。

「こんな美味いポッキーは、今まで食べたことがない・・・! これぞ高宮の伯父の家のお手伝いさんの作るサトイモの煮付け・・・! どこで買ったのだ、シロ!!?」


 くすくすと笑うシロ。

「どこでも何も、売店で売ってるごく普通のだよ。その幻を味わわせたのはね、キミの頭。」

「・・・む?」

 首をひねるマドカに、もう一本を差し出すシロ。


「--さーて。お次は何の味かな? 端と端からお互いに食べたら、どんな味になるだろうね?」

 がたんっ!!

 椅子を蹴立ててマドカは立ち上がる。


(端と端から・・・ッ!?)

 近づく顔と顔。--もしこれが、憧れのクレー射撃部のセンパイだったらーー。

 顔を真っ赤にして廊下に駆け出すマドカ15歳。


 取り残されたシロは、ポッキーの中身をみんなゴミ箱の中に落とした。

「・・・ごちそうさま。」

 マドカはなかなか、ああ見えて惚れっぽい。次から次に、『憧れの人』が現れる。そしてその度に、心はめまぐるしく動く。揺れる。一日中、その人のことばかり考える。


(・・・すこしくらい。)

 こっちを見てほしいものだよね。前の席にいるんだし、さ。

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