3 ルームメイトでアッー!
ーー夜。シロが何度も寝返りを打つ。ーーゆえに、五歩離れた位置の高宮マドカは、眠れない。
マドカは、ごそごそと身を起こす。
「ーーシロ? 眠れないのか?」
「う……ううっ」
すごい寝汗だ。思わず、シロの額に手を伸ばすマドカ。熱はなさそうだがーー
シロがうめく。
「ーーと、となりの部屋の二年生ーー」
「?」
シロの特殊能力について、今のマドカには理解がない。
「ーーさっきから、ヤッてる……」
ばばっ!! 慌てて、壁の方向を凝視するマドカ。ーー何もない。ギシギシともアンアンとも、ハァハァすら聞こえない。
「ーー声を殺して、それでなおかつ燃えるゥ、とか思いながら……ッ」
「シロー! しっかりしろシロっ!
隣の部屋のアツアツ・カップルはわたしが殲滅してくるッ!! だから安らかに眠れ!!」
銃ーーシグザウエルP220を手に取りフランス国歌『ラ・マルセイエーズ』を鼻歌で歌う高宮マドカ。誰か止めろ。彼女は本気だ。
「……ボ、ボクのことは気にしないでッ、ゼェゼェ、マドカちゃんはッ、明日の試験に備えて、やすんで……」
「馬鹿を言うな!! 戦友を見殺しにできるものかっ! ここにカール・グスタフ無反動砲がなぜかあるんだ! 徹底抗戦だ! な、シロ! 撤退など、ありえん!」
人の脚ほどもある巨大砲身を肩口でかまえるマドカ。
「ーーあ、キミの声がうるさいらしい……、すこし、向こうがしずかになった……」
スゥ、と寝入るシロ。一日中この調子なので、彼に寮生活は辛かろう。
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クラスメイトである。高宮マドカは、窓側から三列目、前から四番目という、微妙な位置にいるのだが、授業中、こっそりと周囲を窺う。ーー美男揃いである。ひそかに、オトメ情報サイトに載るだけのことはある。教師も美男。理事長もナイスミドル。クラスメイトも美形ばかり。最初の友人にしてルーム・メイトのシロですら、童顔ではあるものの、整った顔立ちをしている。つい、前の席の後ろアタマなど、凝視してみる。シャンプーのいい香りがする。ーーふいに湧く、衝動。
もふもふしたい。
このアタマをわしづかんで、思う存分わしわし、したい。ヘッド・ロックをキめつつ、わしわししたい。したい。したい。したい。ーー 一度そう思うと、もうダメだ。もふもふ。わしわし。もふもふ。わしわし。
ガタンッ!!
急に前の席のアタマがーーもとい、白野陣が立ち上がった。
しんなりと、水をしぼられたキュウリみたいになりつつ、片手を挙げる。
「……せ、先生。気分が悪いので保健室に、ウッ」
唐突に、口元を抑えてしゃがみ込むシロ。
「どうした白野~。無理はするな」
四角フレームのメガネをかけた数学教師が、無駄に白い歯を光らせながら、シロに肩を貸して支える。
「ヒッ!! だ、だいじょうぶ……!! せんせい、ボクは大丈夫ですから、だからお願いだから触らないでッ!!」
様子がおかしい。マドカは席を立った。
「先生。白野くんはわたしが保健室に連れて行きます」
「……あ、ああ。頼んだよ。しっかりするんだ、白野」
「……ハイ。」
蒼白である。冷や汗をだらだらと流している。マドカに支えられながら廊下に出、扉を締め、ようやく少し、ホッとした顔になる。そして、ふたりで廊下を歩き、どのクラスの教室からも離れた頃。
ようやく、シロの顔色には赤味がさしてきた。
「もう大丈夫」
シロの体重を支えるのに必死だったマドカは、肩にかけていた腕を外されてようやく、シロの回復に気がついた。
「……本当かっ!? 即効性の毒物でも摂取したみたいだったぞ!?」
迫るマドカを、まぁまぁ、と手で制し、シロは中庭を親指で示す。
「とりあえず、あっちに行こう。保健室は今、どこかのカップルが使っているよ」
(カップルーー)
その言葉を改めて吟味し、マドカは顔を赤くする。そしてシロのツッコミ。
「保健の先生も男だよ」
「は? はい??」
きょとん、と目をまたたくマドカ15歳。説明しなければ判らないらしい、とシロは息を吐く。
「つまりね、男と、男がーー」
「きすをしているということか。」
マドカの言葉に、コクリと頷く、白野陣。
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