私、天国で保育士をしています。
短編として数話あげるかもです。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
「マリせんせーこっちー」
「こっちだよーこっちきてー」
「やだぁこっちがさきだもーん」
「はいはい、順番にみんなのところに行くからね」
私はそう言うと、ほぅ、とため息をついた。
あぁ、なんて可愛いの。
ちっちゃな身体にぷくぷくのほっぺ、スモッグからちらりと覗くプリプリのお尻!!
そしてその純粋な笑顔・・・もうここ天国ですかってかんじ!
いや、マジ冗談でなく、実はここ、天国なんですけどね。
私、佐武マリエは5ヶ月前に働いていた保育園が閉園されたため、求職活動に励んでいました。
しかし世知辛い世の中、なかなか保育士の仕事が見つかりませんでね、正直もう諦めかけてたんです、はい。
25歳にしてやさぐれてました。
しかし!!
見つけたんです、新聞の広告欄で!普段は見ませんが、この時は藁にもすがる思いで求人を漁っていたもので、ぱっと目に入ってきたんです!
「保育士募集!!
明るく元気な方、寮生活可能な方、柔軟な思考をお持ちの方、高所恐怖症でない方
、是非下記の連絡先までご応募ください。
連絡先:090ーxxxx-OOOO(天村 使郎)
必須資格:要保育士免許
その他:採用されたあなたは死後にあの世にて優遇されます」
これだ!と思いました。
冷静に考えてみると、この求人いろいろとおかしいのですが、この時の私には気になりませんでした。
逃してなるものかとさっさと電話をかけさせていただき、そしてそのまま面接、という流れになりました。
いやぁ、驚きました。
まさか電話をかけたその日に面接になるとは思ってもみませんで。
履歴書をひっつかみ、指定された近所の喫茶店にGOしました。
なんで面接場所が保育園でなくて喫茶店でなのか気になりましたが、そんなものチャンスの前では瑣末なことです。
「佐武マリエさんですね?私は天村使郎と申します。採用責任者をしております」
喫茶店で待っていたのは、すっごい美形の男性でした。
でも違和感バリバリです。
肩までの金髪をさらっとながし、明らかに白人的な色の肌、目はなんとも美しいサファイア・ブルー!鼻なんか、私とは比べるのもおこがましいほどたっかいです。
なのに!なのに!!!
なんで名前が純和風なんですか・・・
一瞬でそこまで考えましたが、怪訝な顔でこちらを見てくる天村さんに慌てて挨拶をしました。
「佐武マリエです、本日はよろしくお願いいたします。」
ぺこりと頭をさげ、できるだけ礼儀正しい言葉遣いを心がけました。
「立ち話もなんですから、どうぞおかけください」
天村さんに促され、向かい合わせに座った私に次々と質問が投げかけられました。
「前も保育園で働いていらっしゃったのですね?」
「はい、5年間務めさせていただきました」
「ふむ、佐武さんは見晴らしの良いところは好きですか?」
「あ、はい。高いところから景色を見下ろすのはとても気持ちよくて、好きです」
「ほう、それはそれは。寮生活になるのですが、それは大丈夫ですか?」
「はい、実家暮らしですのですぐにでも引っ越せます。」
「それはいい、では最後に。 あなたは死後の世界を信じますか?」
最後にとんでもない質問がきました。
でも心象を悪くしてはいけないと思い、私は答えました!
「はい、天国や地獄、輪廻転生、神様も仏様も信じています!」
「すばらしい!採用です。あなたのような方をお待ちしておりました。詳しいことはまた後日ご連絡させていただきますので、とりあえず注意事項等の書類を渡しておきますね」
意気込んで答えると、満面の笑みで採用を告げられました。
「ありがとうございます!精一杯頑張らせていただきます!」
もう、それはそれは嬉しくてですね。
喫茶店を出て、スキップで家に帰りましたよ。
そして親にも話しました。
「あんた、それ・・・変な宗教団体に捕まったんじゃないでしょうね?」
母からの一言で、私は幸せ気分一転、一気に不安になりました。
いえ、不安はきっとはじめからありました。
だって明らかに募集の内容や質問の内容がおかしいんですもん。
でも私、必死だったんです。
なのでそこは都合よく見ないふりをしていたんです。
やっぱり、これって、私騙されてたりするのかな?
そんな気持ちで占められましたが、次の日に天村さんから電話がかかってきまして、その不安に思う気持ちはまた都合よく見ぬふりされました。
臭いものになんとやら、長いものに巻かれてしまえばそうそう大変なことにはならないだろうと楽観視しましたよ。
不安がる親をおさえて荷物まとめて指定の時刻に通天○にいきました!
なんで通○閣なんだろうって思いましたが、それはすぐにわかりました、はい、すぐに。
「佐武さん、こちらです」
本日も素晴らしくキラキラしいお姿でございますね、目の保養です。
「お待たせしてしまいましたか?申し訳ありません」
「いえいえ、まだ10分前ですので。では早速参りましょうか」
と言って連れてこられたのはエレベーター。
はて、私今日は寮に案内されるはずなんですけど・・・
「さぁ、お乗りください。少々時間がかかりますが、お気になさらず」
促されるままに乗り込みましたよ。
乗り込んで、みなさんもそうだと思うんですけど、すぐに階層のボタンをですね、見ました。
わたくし、目を疑ってしまいました・・・
そこにあったのは、
下(地獄界)中(地上)上(天界)
の3つのボタンだったんですから。
あれーここっていつからこんなおかしなボタンをつけたエレベーターを置くようになったのかしらーそれとも私幻影でも見てるのかしらーっと少々現実逃避をしていると、天村さんが上(天国)のボタンをぽちっとな。
「あ、詳しく申し上げておりませんでしたが、あなたの職場は天界の日本支部、西日本地区天使育成所内保育部と言うところです。職場は明るくて、雲の隙間から地上を見下ろすと絶景ですよー。食堂もありますし、もちろんコンビニもあります。暮らしやすいところですので、安心してくださいね」
にっこり。
「あ、はい、楽しみです・・・」
わけがわかりません。
もっと説明するとこあんじゃないのーって思いながらも、気が動転している私の口から出たのは見当違いなことでした。
「あの、でもなんで通天○から行くんですか?」
「あぁ、それはですね、上の方々が決めたのですが、この建物の名前が天を通る、ということですので、言霊を利用して低エネルギーで天界まで行けるということで決まったようですね。天界もエコの時代なんですよ」
「あ、なるほど、そういうことですか」
納得なんかこれっぽっちもしていませんがね!!
ますます混乱しますよ!
私もしかして夢でも見てるのかしら、と頬をつねってみたんですが、ばっちりがっつり痛かったです。
ポーン
「あぁ、ついたようですね。」
ガー
「どうぞ、こちらです」
促されるままに一歩を踏み出しました。
エレベーターを出るとそこは一面の雲海でした。
「わーきれー(遠い目)」
「ふふ、そうでしょう、初めてここに来られた方はみんな驚かれるんですよ」
キラキラにっこり。
そりゃー驚くでしょうよ。
主に自分の目を疑う意味でね!!
「さ、寮はこちらです」
エレベーターの反対側にまわると、そこには町がありました。
赤茶のレンガ造りの家々が立ち並び、ところどころにお店もあります。
「わぁー可愛い町ですねー」
「はい、寮はここですが、仕事場はここからペガサス車に乗って10分ほどの距離にあります。あそこがペガサス車乗り場ですよ」
説明ありがとうございます。
でも、私まだ魂がとんでるんです。
そして、ここではバスのかわりにペガサスさんが引く馬車っぽいものに乗るんですね、あぁ、今も何人か乗っていってますよ。
「今の時刻ならば、あれは転生の門行きですね。天界の暮らしに飽きた死者の皆様が、次の生を受けるための場所が、転生の門です。佐武さんはまだ生きていらっしゃるので、あれに乗っていっても転生はできませんので、お気を付けくださいね」
とんでもないことを爽やかに言い切りますね。
ここは、私つっこんだほうがいいんでしょうか。
それともうふふーわかりましたーって流すべきなんでしょうか。
小市民な私がとった選択は、
「あ、はい、わかりましたー」
おばか~~~!!!!
ここで聞いておけば、ここで突っ込んでおけば、いろいろ気になることの説明を求めることができたかもしれないのに・・・
「さ、ここが寮です」
連れてこられた場所には、瀟洒な、こぢんまりとした洋館がたっていました。
「ここがあなたのお部屋ですよ。一人部屋ですし、風呂もトイレも完備です。もちろんセパレートですし、キッチンもありますので、寮生活と言っても普通のマンション暮らしだと思っていただいてかまいません」
わ~~~!!
すっごく綺麗なお部屋ですね!!
ワンルームですが、とっても居心地がよさそうなお部屋です。
窓も大きいですし、天井は高いですし、お風呂もキッチンもトイレも広めだと思います。
キッチンは収納スペースが上下にあり、冷蔵庫はけっこう大きめのものが置いてあります。どれでも好きに使ってくださいと言われ食器棚を覗くと高そうなティーカップとお皿達がお行儀よく並んでおりました。間違っても割ったりしてはいけないと自分に言い聞かせ、次にお風呂を覗きます。脱衣所とドレッサーがあり、それだけでも夢のようなのに、お風呂場をみると・・・・お風呂のバスタブが猫脚!!これにはテンションあげあげです。
そしてやっと気づいたのですが、お部屋のフローリングの床はぴかぴかで、事前にお掃除をしてくれていたみたいです。
げんきんなやつ、と思っていただいてかまいません。
この素敵なお部屋のおかげでいろいろな疑問がふっとびました。
「今は管理人さんと私しか住んでいませんので、あとで管理人さんにもご紹介しますね。お買い物できるところなども、ご案内します。通貨は日本円が使えますのでご安心ください」
なんと、私と管理人さん、そして天村さんだけとな!!
それはそれは、仲良くしていただかねば。
「これからお世話になります、よろしくお願いします」
きっちりお辞儀をして、にっこり笑いかけます。
天村さんはちょっとびっくりな顔をして私をまじまじと見ましたが、すぐに笑顔で頷いてくれました。
「ええ、こちらこそ。ここを好きになってくれると、嬉しいですね」
それから数日たち、私は保育部で働き始めました。
ここに預けられるのは就学前の6歳未満の天使の子ども達です。
天使と言っても真っ白な羽はありません。
ほとんど人間とかわらなくて、違うところといえば不思議な力が使える、ということでしょうか。
浮くことができたり、ものを手を使わずに動かすことができたり・・・
(あ、ちょっとたってから知ったのですが、天村さんも天使だそうです。びっくりです。)
最初はその不思議な力に驚きましたが、3ヶ月もたてば慣れたものです!
マリせんせーって言ってぎゅーっと抱きつかれたり、あげるーって作った花冠や泥団子をくれたり、もうもう可愛くて可愛くて、可愛すぎて連れて帰りたいぐらいです!
そのぷくぷくのほっぺをつんつんさせてーって言ってつつこうとすると、きゃーって笑って逃げていきます。
まてーって追いかけて、つんつんして、きゃっきゃして、連絡ノートを書いてお昼寝をさせたり、もう毎日が充実してます。
一つ気がかりなのは、私に出会いがないので婚期逃しそうなことぐらいですかねーって天村さんに言ったら、
「なら、私と結婚するのはどうですか」
と真顔で返されました。
人間のうちに結婚して、死後もここでずっと一緒に暮らせばいい、というのが彼の主張です。
いやいやそれはちょっと、いくらなんでも、冗談ですよねと手をふりふりすると、ガッと掴まれて顔をぐいっと近づけられました。
「こんなこと、冗談で言えませんよ。求人欄にも書きましたが、特典として死後あなたはここで気が済むまで暮らすことができます。なら、不死の天使と結婚したって、何の障りもないじゃないですか。あぁ、死後は今のお姿まで若返ることができますので、見た目の差異を気にすることはありませんよ。子どもが欲しいのなら、貴方が産んでも天使の子として産まれますのでここで育てられます。私はこう見えて結構な給金ももらっていますし、あなたを養うことぐらいできますよ。」
目がマジです。
ちょっと怖いです。
そんなギラついた目で見ないでください。
「あぁ、拒否権はありません。あなたと出会ってすぐに、神に直談判してあなたの運命を捻じ曲げさせていただきました。なので地上に降りてもあなたは誰とも結婚できません。私と結婚しないと、一生一人で生きることになりますからね。」
にやりと笑みをうかべてなんとも恐ろしいことをおっしゃりました。
それが天使のやることですか!!
天使は慈愛に満ち満ちた存在じゃないんですか!!
そんなことして許されるんですか!!
「何を言っているんです。欲しいものは手に入れなければ意味がない、取られる前に自分のものにするのは当たり前です。慈愛なんぞ欲の前では塵芥にも等しいですね。そんなもん腹の足しにもなりません」
もう呆気にとられるしかないですよ。
天使として、いや、人としてもその言葉はおかしいです。
「ふふ、大丈夫です、一生、いえ、死後も永遠に大切にしますから」
そのどす黒く輝く笑顔を私にむけないでください。
まじ怖いです。
死後に優遇してもらえるんじゃなかったんですかー!!
これじゃ罰じゃないですかー!!
神のおわします神殿にむかってそう叫んでしまいましたよ。
だからといって捻じ曲げられた運命が元にもどるわけもなく。
私は仕事に癒しを更に求めるようになったのであります。
「せんせー、だっこー」
「あたしもあたしもー」
「ずるいーぼくもー」
ぐふぅっ(鼻血)
もう皆一気にまとめて私の腕に飛び込んできてーーーーーー!!
-某天使の独り言-
本日、求職してくださった女性にお会いしましたが、これ以上ない理想の方でした。死後の世界を信じているというところが決めてでした。
黒くてまっすぐな髪も、太陽のような笑顔も、あまり高くない背も、とても可愛らしい。
私の心を打ち抜いた彼女が他の男のものになるのは耐えられないので、神に言って運命を変えていただきました。
私にかかれば、神の弱みの一つや二つ・・・ふふ、私の望みを叶えてくださるかぎりは、誰にも言いませんよ。
あぁ、彼女が早く私を好きになってくれればいいですね。