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「笠木、なんかぼーっとしてるね」
「うーん、まあちょっと、ね」
宮笠木は教室で休み時間を過ごしていた。
なんて事ない日常。
笠木にとっては、それが何より素晴らしいものであった。
「帰りさ、カラオケ寄って行かない?」
隣の席から、女の子が話しかけてくる。
「別にいいけど、里香今月お金ないってこの前言ってたじゃん」
「それは大丈夫なのさ!友達と遊ぶ分のお金はだしたげるって、お父さんがね!」
「甘やかされてんなぁ」
他愛のない話、普通の高校生の会話。
程なくして、午後の授業が始まった。
特に難しい箇所もなく、簡単に頭に留めておく。
退屈な授業も気がつけば終る。
人生だって同じだ。
気がつけば終わってる。
ほんの一瞬で死んでしまう。
どれだけ人生に彩りを与えても、最後には全部灰色となる。
どれだけ人生を謳歌しても、多くの人は納得できる死に方では死なない。
理不尽な世界。
だからこそ、笠木はなんて事ない日常が好きなのだ。
どんな色で塗られるよりも、どんな楽しいことをしようとも、なんて事ない日常の延長に過ぎないし、死の前座に過ぎない。
普通の人生こそが、一番幸せであると知っていた。
──キーンコーンカーンコーン
品質の悪いスピーカーから、最高級のチャイムの音。
「それじゃ、カラオケ行きますか!」
庵里香は授業が終わるや否や、颯爽とこちらに駆け寄ってきた。
「はいよ、ちょっと待ってね」
軽く荷物をまとめ、二人で正門を出た。
「ねぇ笠木、この前さ、好きな人いないって言ってたでしょ」
駅前のカラオケ屋に向かう途中、里香が口を開いた。
なんだか、もじもじとしながら笠木の方に目をやってくる。
「それが?」
流石に、気づいていた。
これまでの人生経験から、おおよそそうだろうと、一年ほど前の入学式から一ヶ月くらい経った頃からだ。
「それさ、まだ...いなかったり、しなかったり?」
「いないよ」
嬉しそうな表情に、少々悲しさを混ぜた顔をしながら続けた。
「そっか、ならよかった」
なんて話しかけていると、あっという間に到着した。
そこには宣伝用の旗と綺麗な花壇が置いてあった。
駐車場の端には、近所の高校の制服を着た五人の学生が鎮座していた。
ここら辺では珍しく、少し広めの駐車場を有しているこの店は、横に駐車場のないコンビニがあるのも相まって、いわゆるヤンキーの溜まり場になっていた。
「あ、久しぶりじゃん。元気してる?」
五人が二人のそばに近寄ってきて、話しかけてきた。
もちろんこの二人はその五人との面識がない。
「初対面、ですよね」
「硬いこと言うなよぉ、ねえ、俺らここん中入りたいんだけどさぁ」
典型的なカツアゲだ。
みなまで言わせるなと言うその顔面に、里香は少し怯えている。
「ちょっと、裏、行きましょうか。六人で」
「え?ちょっと、どうしたの?やばいって」
静止しよう試みる里香をよそに、五人組と笠木は影に消えていった。
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宮笠木はちょっと変わった高校生である。
彼の前世はイギリス人。
そこで、軍の特殊部隊として働いていた。
2001年のある日の作戦行動中、腹部三箇所に銃弾を受ける。
続け様に、頭部に一発。
それが致命傷となって息絶えた。
同日、一人の赤ん坊が誕生していた。
それこそが宮笠木の転生先であった。
笠木が前世の記憶を思い出したのが2014年。
全てを思い出したが、それ以前と以降に大きな生活の違いはなかった。
彼は今世を平穏に生きようと試みている最中である。
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「それじゃあ、中入ろっか」
建物の裏から単身で戻ってきた笠木は里香の背中をおして歩いた。
「さっきの人たちは?」
「まあまあ、そんなことはいいじゃん」
宮笠木はちょっと変わった、特殊な高校生である。




