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たくさん食べていいですかっ!?  作者: ニクものがたり


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第8話 窓口の鉄火場

「……あら。昨日の、趣味の悪い覗き見さんじゃない」


紗良の冷徹な声がロビーに響く。彼女は広報課の腕章をキリッと示しながら、市民課の窓口に座るワワワを物理的にガードするように立ちはだかった。あまりのガードの固さに、手続きに来た市民が「えっと……ここ、受付ですよね?」と困惑しているが、彼女には見えていない。


「覗き見なんて……。私はただ、あの、動画の人に用事があって」

美月は一瞬その威圧感に怯んだが、持ち前の真っ直ぐさで一歩踏み出した。


「用事? 職員に用があるなら、整理券を引いて順番を待ちなさい。あ、でも彼、今は私の指導中だから。私的なお喋りはお断りよ」


二人が火花を散らす中、、カウンターの奥で書類を整理していたワワワが、重たそうな「ダサい眼鏡」を指で持ち上げながら、恐る恐る顔を上げた。


「……あ、あの、何か……?」


眼鏡の奥の瞳が、美月と合う。美月はワワワの顔を間近で見て、改めて息を呑んだ。眼鏡の分厚いレンズ越しでも隠しきれない、彼の涼やかで整った目元。美月はそれを間近で見て、改めて確信した。

(やっぱり……。こんな変な眼鏡で隠されてるけど、この人、信じられないくらい綺麗。……それに、なんだかすごく『お腹が空いてそうな』放っておけない顔をしてる!)


「あの! 私、昨日あなたが連れて行かれるのを見て……その、大丈夫かなって」


「テストの直球勝負」


テストが横から短く呟く。周囲の職員や市民が「何事だ」と注目し始めている中、美月は構わずに言葉を重ねた。

「大丈夫ですか? この人が、無理やり変なことさせてるんじゃ……」


「……っ!」

美月の言葉に、紗良の眉間が険しく寄る。

「面白い冗談ね。私が彼を『守って』あげているのが、そう見えるのかしら。彼のような無防備な素材、私が管理してあげないと、今頃変な動画を撮られておもちゃにされるだけなのよ」


「でも、あんな食べ方……。あなた、本当はもっと、お腹いっぱい食べたいんじゃないですか?」


美月の純粋な言葉が、ワワワの胸に突き刺さった。美味いものを、咆哮と共に、誰にも縛られず貪り食いたい。その本能が、紗良の鉄の支配下で悲鳴を上げている。


「ワワワ。……答えなさい。あなたは、私の管理が不満なの?」


紗良がゆっくりと振り返る。その瞳には「不満なんてあるわけないわよね?」という、少しだけ自信なさげな(だが圧の強い)期待が宿っていた。ワワワは、美月の救いの手と、紗良の絶対的な重圧の間で、金魚のように口をパクつかせた。


その時だ。カウンターの隅にいたニク課長が、ねっとりと会話に割り込んできた。


「おやおや……。三日月を巡って、太陽と北風が争っているようだね。だが、今は雲に覆われていたい時期なんだよ……。ねえ、和久井くん?」

「……課長、助けてるのか追い込んでるのかどっちですか」


さらに、後方からはクミが鼻息荒く迫ってくる。

「ちょっとアンタたち! 業務の邪魔よ! 恋愛相談なら公園でやりなさい、公園で!」


混沌とする窓口。その様子を、ロビーの観葉植物の陰からPが静かに動画に収めていた。


P:【修羅場】野獣を巡るオンナの戦い。正統派美少女vs独裁的幼馴染。 #市役所 #三角関係 #和久井


「テストのリアルタイムなう」


テストの視線の先、スマホの画面内では今この瞬間の映像が既に拡散され始めていた。紗良は通知を見るなり、怒りで顔を真っ白に染めた。


「……もういいわ。ワワワ、地下の書庫へ行くわよ。整理が終わるまで、一歩も出さないから!」

「えぇっ!? 地下ですか!?」


ワワワは紗良に腕を掴まれ、逃げるように奥へと連行されていった。美月は、遠ざかる彼の背中を見つめ、ギュッと拳を握りしめた。


「……やっぱり、助けなきゃ。あの人、あんなに『お腹が空いた』って顔をしてるもの。……見てて、和久井さん。私が必ず、あなたを満足させてあげるから!」


美月の決意が、事態をさらなる泥沼へと引きずり込もうとしていた。

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